マダム・キャラのお店が変なんですとか、マジ?
人でおぼれる!
360度、ぐるりを女の子に囲まれてもみくちゃにされてる、リリンシャールでっす!
あ、そこ! お尻揉まないでください!
結構、胸板があるんですね。って! ひどい! おっぱいだし!
つーか、マジでこのままだと事件になりそう。
そう思った時だった。
ピー! と笛の音が響き渡った。
「こら! 公道でなにを騒いどるか!」
笛の音は警笛だった。
女の子の頭越しに、2人組の警官が警棒を振り上げて走ってくるのが見える。
キャー! と蜘蛛の子を散らすように女の子たちが逃げだした。
私はといえば、もはや逃げるような気力もなくて、このままお縄になるのかと思っていたら
「こっちよ」
と手を引かれて、店に引っ張り込まれた。
マダム・キャラだ。
お久しぶりです。なんて挨拶をする元気すらない。
人に寄って集られていいようにされるのって、思うよりも疲れるんだよ。
警官は女の子を散らすと、それで満足したようだった。
「今のはデモじゃなかったようだが?」
「女ばかりでしたね?」
首を傾げながら、店の前を通り過ぎてゆく。
ふぅ、と安堵の息を吐くと、マダム・キャラはニッコリと笑った。
「元気そうで何よりだわ、リリンシャールさん」
ヘトヘトですが…。
「マダムもお元気そうで」
「元気も元気、すこぶる健康よ」
チリン、とドアベルが鳴った。
入って来たのはユダたる裏切者のサシャとロッカだ。
「運よく警官が巡回してくれてて、ラッキーだったわね」
「ホントですわね」
などと、のたまっておりますが。
「あら? どなたでしたっけ?」
私は、フン! と鼻息も荒く顔を逸らしてやった。
「私の親友は、友達の危機に他人の振りなんてしないはずですから!」
「だって、恐かったんですもの」
「あんな中に助けに入るなんて無理、無理」
ツン、とソッポを向いていると
「「ゆるしてちょーだい」」
2人がウルウルお目目で見上げてきた。ご丁寧に両方の手を拝むみたいに組んでる。
「あっはははは」
私は大笑いしてしまった。
だって、似合わないんだもん! 面白過ぎる!
この、うるうるお目目でお願いするのが、近頃、サシャとロッカが使うようになった懐柔の手段だった。
「わかった、許す! 許すから止めて!」
壺に入るって怖い! 何度されても笑ってしまう。
そしてひと笑いした私は、ふと店内に視線を走らせて凍り付いた。
なんじゃこりゃ!
サシャとロッカがマダムと挨拶をしてるけど、ほとんど耳に入らない。
「まぁ、それじゃあ修道院をでてきたの?」
「うん、歌手になるんだ」
それぐらいにショックだった!
「そういえば、キャラおばさん。事件でもあったの? なんか警官が多い気がするんだけど」
「事件というほどでもないんだけど、近頃、デモが多くてね。それで警官がピリピリしてるのよ」
「デモ、ですか?」
「食料品の値上げがとんでもなくてね、他にも貴族に対する不満を持った人たちがちょこちょこね」
「困ったものですわね」
私を除いた3人がウンウン頷いてるけど、問題は…
「そこじゃなーい!」
私は盛大に突っ込みを入れた。
「違うじゃん、違うでしょ! 分かってて、知らんぷりしてるんでしょ! この店! この店のなか!」
私は店内を指さした。
なんと! 店の中が様変わりしてるのだ!
どうなっているかというと。
ひと言でいえば、男装した私のファン・ショップだよ!
私の写真がプリントされたウチワにタオル、シャツに帽子。タンブラーにお皿、果ては下着まである。ありとあらゆるグッズが売られていた。
そして壁にドドンと飾られている特大パネルには、やっぱり私。
なんかポーズ決めてるけど、何時撮ったんだこれ?
「ああ! あれって、リリンを着せ替え人形にしてた時の!」
ロッカが指摘して、私も思い出した。
そうだ、そうだよ! 前に来た時に、4時間ぐらいいじられて、どうにでもしてくれと投げやりになってた時のだ。
記憶から消去してたから、言われるまで思い出さなかったわ。
「あたくし、趣味で写真もたしなんでおりますの」
おほほ、とマダムが笑う。
へー、とロッカはイケメンな私のグッズに興味津々。
ロッカはといえば、うっとりと壁に飾られた私のパネルに見惚れている。
もしも~し、ココに本物がいるんですよ?
「マダム…これって、どういうこと?」
「生きるためには仕方がなかったのよ」
マダムは悲壮な表情で言うと、ヨヨヨと泣き崩れて、私の写真集が山積みにされたテーブルにしなだれかかった。
う~ん…。この漂う昭和のお芝居っぽさよ!
でも、面白そうだから観るけどね!