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やっぱっぱぱぱとか、マジ?

お風呂に入ったら、疲れがドッとでた。

私たち3人は部屋に戻るなり、泥のように眠ってしまった。


起きたのは、誰かのお腹の音でだ。

それは、サシャのかも知れなかったし、ロッカのかも知れなかったし、私のかも知れなかった。

たぶん、皆なんだけどね。


ノソリと起き上がって、朝の準備をする。洗顔して、髪に櫛を入れて、服を着る。

んだけど、髪をかすときに、お風呂に入ったおかげで、すんなりと櫛が通ったのが嬉しかった。旅をしている間は、ゴワゴワ髪に櫛が引っかかって痛かったからさ。それに服! 洗濯してくれたみたいで石鹸の香りがしてるんだよ! 私たちは何も言わないで、ニヘラと笑いあってから朝ごはんのお呼びがかかるまで部屋でまったりと過ごした。


しばらくして女中さんが起こしに来てくれた。


女中さん…。中年のふくよかな体型をした、お母ちゃんといった感じの人だ。


若くて綺麗なメイドさんを期待してたんだけど、ファンキーなリリジさんでもメイドにまでは趣味嗜好が向かなかったみたいだ。


私の記憶によれば、この世界にメイドさんはいない。少なくとも前世の特殊な喫茶店でオムライスにケチャップでサービスしてくれたようなフリフリエプロンのメイドさんは見たことがない。たいていは汚れてもいいけどみすぼらしくは見えないような服を着て、その上にエプロンといった塩梅だ。公爵家でも実用一辺倒で、可愛らしさは欠片もなかった。


ちょっと残念。


そんな失礼なことを思いながら、女中さんの大きなお尻を前に、食堂へと案内してもらう。


食堂には、既にリリジさんとジャックが待っていた。

1人だと広すぎる感じの食堂も、4人の居候いそうろうが席に着くと手狭に感じてしまう。


リリジさんは「おはよう」と言った後で、何か話を続けようとしたようだけど、私たちが盛大にお腹を鳴らしているのを耳にすると、苦笑して「食事にしましょう」と言ってくれた。


朝食は、晩を抜いたことを考慮してくれたのかボリュームがあった。

焼きたてだけど酵母を使ってないせいで固いパンに、具沢山だけど旨味のすくない塩味のスープ、ハムとソーセージ、それにサラダというよりも野菜を盛っただけのもの。


うん! おいしい!

空腹は最良のスパイスなのだ。加えちゃうと、旅の間はまともな食事を摂れなかったからね。村だと大麦のお粥…いわゆるオートミールがデフォルトだったし。


しばらく食事に夢中になっていると


「おっと」


とリリジさんが席を立って、食堂に据え置かれているラジオのスイッチを入れた。


なんと! さすがはシャっチョさ~ん、それだけで馬を込みで馬車が買えてしまうほど高価なラジオを所有してるなんてリッチすぎるでしょ! セレブ!


ラジオから音が聞こえてくる。

朝のニュースを放送してるみたいだ。


でも何で、いきなりラジオを点けたんだろう?


疑問をぶつけようとした時だった。


ラジオから聞き覚えのある歌が流れ始めたのだ。


やっぱっぱぱぱ

来ぃて見ぃて、寄ってみて

グリングランデ、しょ~か~い


私たちは顔を見合わせた。


「なにこれ、変な歌」


ジャックが笑っている。


あの出来事以来、それなりに笑ってくれるようになったジャックなのだ。

そればかりか、ちょくちょくリリジさんのお手伝いをしている姿を見かけているし、夜は夜でサシャやロッカに文字や算数を習っている。何か思うことがあったみたいで、頑張っていた。


…ん? そういえば私を頼ってくれてないみたいな?

これは後で、要相談案件だな。


というようなことは、置いておいて。


「そっか、今日が宣伝歌の放送日だったんだ」


「自分の声が流れると、変な感じ」


「そうですわね、恥ずかしいですわ」


「あ! これ姉ちゃん達の声だ!」


わいわいきゃあきゃあ話し合う。


そんな私たちをリリジさんは微笑んで見ていたけど、パンパンと柔らかく手を叩いて注目させた。


「どうですか、ご自分の歌声は?」


サシャとロッカはむずがゆそうな表情をしている。

自分の声とか歌って、録音したのを聴くとおかしく感じるもんだよね。


一応、私は前世で慣れているけど。

それでもリリンシャールでの声を客観的に聴くのは初めてなわけで。なるほど、こう聴こえるのか。だったら次に歌う時は、あそこのキーを高くして…なんてことを考えてしまう。

録音スタジオで聴かされるのと、ラジオで聴かされるのとは、やっぱり違うんだよ。


へへ、歌手みたいでしょ?


「この宣伝歌は初日ということもあって、それこそ1時間に5回は繰り返し放送される予定です。じきに街中どころか国に広まることでしょう」


そう聞かされて、いちばんロッカが嬉しそうにしている。


お母さんの王都での店、成功すると良いよね。


「それで、今後の方針なのですが」


リリジさんの言葉に、私たちはお喋りをやめた。


「大きな目標としては、大陸全土に名をとどろかすこと」


おお! でかくでましたな。


ロッカもサシャも目をまん丸くしている。


どんなに偉大な歌姫であれスターであれ、有名なのは特定の国だけで、他所よその国では無名ということは珍しくない。

ラジオが登場したことで、その図式も少しずつ崩れてはいるようだけど、それでも大陸全土を席巻するなんていうのは前代未聞だ。


だって、原作ゲームのヒロインですら聖女として扱われるのは、この国だけのことだったんだよ。


「驚いているようですが、わたしは皆さんなら可能だと思っています」


リリジさんは茶目っ気たっぷりにウィンク一発。


「その手始めに。まずはライブをしましょう」

大陸全土。

大事にしすぎでしょうか?

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