お風呂でイチャラブ関係修復とか、マジ?
お風呂に入りたい。それが私たちの口癖のようになっていた。
なんせ8日間だよ? それだけの間、お風呂に入れなかったんだ。
村では冷たい水をタオルで濡らして体を拭いて、髪をタライに溜めた水で洗っていたけど、そんなもんじゃ汚れは落ちないし、だいいちスッキリしない。
というわけで、リリジさんの邸宅に到着した私たちは、お尻を落ち着かせる暇もなく、みんなしてお風呂に直行した。
なんと! リリジさんの邸宅にはお風呂があるのだ。
これを聞いた時の私たちは、比喩じゃなくて本当に跳びあがって喜んだもん。
自宅にお風呂があるなんて、贅沢の極み。
下手をしたら子爵級の貴族だって家風呂はないんだから。
わいわいと3人で談笑しながらお風呂場に行く。
この時ばかりはサシャも前のようにはしゃいでいた。
ジャックは後でリリジさんと入るらしい。
7歳なんだから一緒にお風呂に入っても問題ないと思うんだけど、本人が嫌がったのだ。
マジでジャックは大人びていると思う。
脱衣所で埃塗れの服を「えいや!」と脱ぐ。
ロッカとサシャもさっさと脱ぐ。お互いに、砦の街での公衆浴場や旅の間の着替えと行水で裸は見慣れてるから、照れとかそんな躊躇いはないのだ。
お風呂場はそれほど広くない。
基本的にリリジさんしか使わない1人用のお風呂なのだから当たり前だ。
3人もいるとギュウギュウといっても過言じゃない。
けど、順番という考えは私たちに無かった。
一刻も早く綺麗にスッキリと汚れを落としたかったのだ。
洗い場で、お風呂のお湯をタライに汲んで、それを3回ぐらい頭からかぶる。
それから体を洗ったんだけど、石鹸の泡がでない。
それぐらいに体が汚れてるのだ。
髪もごわごわで、何度か洗い流しを繰り返して、ようやくに清々した。
「ふぃ~」
と親父くさい声を出して湯船につかる。
ロッカもサシャも同じような声を漏らした。
湯船はまぁまぁ広い。とはいえ、それは1人で入ることを考慮した場合だ。
こうして3人で浸かると、脚なんて当然伸ばせないし、体育すわりで肩を突き合わせるみたいな感じになってしまう。
それでも気分は極楽だった。
隣室の焚口では薪を燃やしてくれている人がいる。
公衆浴場は魔石を使うけど、それでは費用が掛かり過ぎる。魔石は高価なのだ。薪を焚いて、人に任せたほうが安くすむ。
で、私たちがお風呂に入っている間、焚口の番をしている人は熱いなかを我慢していなければならない。
ハッキリ言って申し訳ない。
んだけど、どうしたってカラスの行水で終わらせられなかった。
ついつい長風呂をしてしまう。
「で、これからど~すんの?」
ロッカが目を閉じながら訊いてきた。
「リリジさんが言うには、社長業を譲って、私たちのマネージャーに専念するらしいけど」
「リリン、惚れられてるわねぇ」
「いや~、愛が重いッすわ」
あはは、と乾いた笑いを私はした。
「お任せください、リリンシャール様。リリジ氏が不埒な真似をしようものなら、このわたくしが懲らしめてやりますから!」
サシャが鼻息も荒く言うけど、リリジさんの愛はそっち方面じゃないと思うよ。
つーか。
いい加減、私はサシャの態度にイラっときた。
「サーシャー」
と私は隣のサシャに横合いから抱き着いた。
「ちょ! 何をしますの!」
驚いたからか、口調が前に戻っている。
しめしめ。
「私はね、サシャのことが大好きだよ」
この機を…裸の付き合いという絶好の好機を逃すべく、私は畳みかけた。
「わ、わたくしも聖女様のことが好きですわよ」
違うんだよな~。ガックリしちゃうよ。
そう思っていると、正面で体育すわりをしているロッカからパスがきた。
「あら? サシャは聖女のことは好きでも、リリンのことは好きじゃないの?」
「そんなこと、ありませんけど…」
サシャがモゴモゴと言う。
ほんと恥ずかしがり屋なんだから。聖女なんていうフィルターを通してしか私のことを素直に好きだと言えないんだよ、きっと。
ロッカに目を向ければ、口の端を持ち上げて邪に笑いかけてきた。
ああ、彼女もサシャの態度にイラついてたんだな。
「じゃあ、私のこと好きなんだ?」
至近距離からサシャを見る。上目遣いに、如何にも健気にいじらしく、彼女を見る。
私、この演技にかけては自信があるのだ。
前世で悪友兼親友に頼みごとをするときは、これでイチコロだった。何度も乙女ゲーを私の代わりに買いに行ってもらったし、月末にはお米と味噌も貸してくれたものだ。
近所に住んでいたキャバクラ勤めの大学生のお姉さんに教わったんだけど、マジでサンクス!
「好きですわ!」
私から目を逸らして、サシャが逃げるように言う。
「嬉しいなぁ」
という言葉は耳元でそっと呟く。
ふへへ、私ってば悪女だぜ!
で、言うのだ。
「だったら、親友同士だよね?」
「親友同士ですわ!」
吹切れたようにサシャが言い放つ。
「ならさ、前みたいにフランクに話して欲しいなぁ」
お・ね・が・い。と再びの耳元でウィスパーボイス攻撃。
私! 調子にのっております!
「わかりました! わかったから、もうお願い!」
真っ赤に茹で上がったサシャが悲鳴のようなかすれた声を上げる。
「言質とったぜ、イエー!」
私はその場で立ち上がって万歳をした。
と。そこで正面にいるロッカがサシャみたいに真っ赤なことに気がついた。
お風呂が熱かったかな? 私は江戸っ子気質だから熱いお風呂は大好物なんだけど、2人は違ったのかも。
「あたし、ノーマルだったはずなのに、危なく新しい性癖に目覚めるとこだったわ…」
「わたくしは、もう駄目かもしれませんわ…」
2人が胸をおさえて呟いている。
「なに? 何が目覚めて駄目なの?」
なんて私は呑気に訊いたんだけど、それがまずかった。
「「リリン!」」
と2人に名前を呼ばれて、私は「2度と同じようなことをしてはいけません!」とお説教を食らってしまったのだ。
そういえば。前世でキャバクラ大学生のお姉さんにも同じこと言われたっけ。
当時の私は小学生。習ったことをお姉さんに試したら、お姉さんは顔を真っ赤にさせて言ったものだ。
「いいこと。それは本当に気を許した親友みたいな間柄の相手にしか使っては駄目よ。そうしないと、気のない相手を本気にさせてしまうから」
ふんふん。
ま、サシャもロッカも親友だから問題ないよね。
効果はあるみたいだから、次もおねだりするときにつ~かお!
じめじめしたお話が嫌なので、強引にサシャとの間柄を修復させました。
ホントはサシャが誘拐されて、そこからリリンシャールが命がけで救い出してからの
「親友じゃないの!」
で、間柄を修復という話を考えていたのですが、それこそ10話以上も長くなりそうだったので、お風呂場でイチャイチャしながらにしちゃいました。
ポイントが1000を超えていました!
嬉しい!
でも、約5か月の投稿で1000ポイントは多いのか少ないのか?
日間ランキングの上位の作品は、マジで凄いと思います。