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辺境の村の貧しさとか、マジ?

私たちの馬車は村を見つけると、それがどんなに早い時刻であっても、その到着した村で日を明かした。


無理をして進んで野宿することを嫌ったのだ。

なんせ女3人と幼児がいて、男の人はリリジさんだけ。このメンバーでは、野党に襲われたらひとたまりもない。


そう! 忘れちゃダメなんだよ、ココは辺境。野盗が跋扈ばっこしてる最果ての地なのだ。

前にアッチラの街に行った時は野盗なんていなかった。だけど、今は状況が違う。何処も彼処も凶作で、村を離れた人たちが群れて野盗になってしまっているのだ。

それはコノ辺境でも同じで、魔獣を恐れて餓死するぐらいならと半ばやけっぱちになった野党がのさばっているとのことをリリジさんに聞いた。


もっとも、もうひとつの脅威である魔獣のほうはそれほど警戒してない。

だって、私たちにはチビ狼のクリスがいるからね。


ということで、私たちは村に泊めてもらったのだけど。


どの村でも、私たちは諸手もろてを上げて歓迎された。


なかには村長さんの自宅を開放して、泊ってくださいと言うような村もあった。


最初の村で熱烈な歓迎を受けて、首をひねっている私に、ロッカとリリジさんは教えてくれたものだ。


「普通は、こんな何もない村で泊まったりはしないもんだからね」


「そうですね。商人は金にならないから素通りしますし、泊まるぐらいなら、コンボイを組んで野宿をして先を急ぎますからね」


訊けば、コンボイというのは旅人や商人がひとかたまりになって移動をすることだそうな。こうすることによって、人数を増やして、野党が襲撃しようとするのに二の足を踏ませるらしい。


「それにね」


とロッカがすんごい人の悪い顔をして付け足した。


「万が一、襲撃されてもさ。襲撃された運の悪い人をイケニエにして、自分たちはスタコラと逃げられるでしょ?」


う~ん、非情。

でも、悲しいことに、それこそが生きるという考え方なのだ。


「けど、それだけじゃ、歓迎される理由にならなくない? ただ寄っただけだよ?」


私の疑問に、ロッカとリリジさんは顔を見合わせて、同時に溜め息をついた。


なんだか呆れられてるみたいだ。


「リリンは商人じゃないし、村育ちでもないから分からないか」


「宿泊する、ということは、それだけでも村にとってはメリットがあるんですよ」


第一に、と2人は教えてくれた。


「食料や飲料水を補給するに、お金を落としてくれる」


なるほど。


「第二に。もしかしたら、村から余分な人を買い取ってくれるかもしれない」


「余分なヒト?」


ヒト。ヒト…それが人、人間であると理解するまでに少し時間がかかった。


「え、なにそれ?」


驚く私に、リリジさんが言う。


「村を見て、気づきませんか?」


私は村を見渡した。


戸数は20ぐらい。どれも言葉は悪いけど掘っ立て小屋みたいな感じだ。

人はツギハギの当たった服を着て、この寒いのに上着を羽織るような人すらいない。たぶん…上着のような防寒着をもってないのだ。

誰もが疲れたような顔をしていて、痩せ細っている。


「貧しい、ということ?」


「そういうことです。今年は凶作で作物の生育が悪かったと聞いています。税を取られて、村はもう冬を越せるか越せないかという綱渡りなのでしょう。だから、余分な…働き手でない子供を売りたいのです。そうしたら、食い扶持は増えるし、お金も手に入るで、村からしたら大助かりというわけです」


「まして、あたしたちはジャックを連れてるから。もしかしたら、と考えるだろうし、女ばかりだから、買われた子供も無下には扱わないだろう、そう思うよね」


ああ…。


私は前世で社会科の先生が『おしん』について話してくれた時のことを思いだした。


口減らし。うば捨て山。


そういえば、この村には老人がいなかった。

赤ン坊の泣き声もなかった。


「そんな顔しちゃダメよ」


ロッカが私の顔を両手で挟んでムニムニと揉む。


「いちいち入れ込んでたら、心がもたないわよ」


「それに、彼らが歓迎してくれる最後の理由をわたしはまだ話してませんよ」


リリジさんの言葉に、私は彼を見た。


ロッカも「あら、まだ理由なんてあったかしら?」と首をひねっている。


「それはね」とリリジさんは言った。

「わたし達が芸人だからですよ。彼等は、芸をみせて楽しませてくれるだろうと、私たちを歓迎しているんです」


私は。


私たちを遠巻きにして眺めている村の人に目を向けた。


子供たちは、おどおどと。

女性は、こそこそと。

男性は、何処か申し訳なげに。


でも、みんながみんな。何処かしら期待するような顔をしていた。


「リリジさん、ロッカ。私さ…歌うよ。村の人達に、少しの間だけでもつらいことを忘れて、笑ってもらえるように頑張るよ。だから、手伝って」


2人の返事は、聞くまでもなかった。

小学生の時に社会科の先生に聞かされた「おしん」の口減らしとか、姥捨て山とか、今でもトラウマ・レベルです。

日本は、よくこうまで発展できたなぁと感心します。

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