リリジさんの想いとか、マジ?
登場人物が、多くなりました。
誰が誰だか、読者の皆さんは把握してくれてますでしょうか?
新婚カップルのように甘々な雰囲気を垂れ流しているロッカとスタンリーを尻目に、残された私たちは微妙な雰囲気でいたんだけど。
バタン! と唐突に礼拝堂の扉が開け放たれたことで、緊張が走った。
まさかだけど、密かに集まっているのがバレて、殿下が襲って来たのかと思ったんだ。
でも、姿をあらわしたのは
「リリンシャールさん!」
頭にボンボンのついたナイトキャップを被ったショッキングピンクのパジャマに熊ちゃん柄のはいった腹巻き姿のリリジさんだった。
まさか、その姿で来たの!?
だだだだ! と駆けてきたリリジさん。年齢を感じさせない跳ねるような走り方だ。
そのまま私に向かってくる。
誰も止めようとしない。歴戦の強者であるメリニ将軍でさえ、ビックリして動けないでいる。
そりゃーねぇ。ロッカとスタンリーの和みに当てられたあとで、これじゃあ、心がついて行かないよね。恋愛映画を見ていたと思ったら、次の瞬間、コメディ・ホラーになってた感じだもの。
なんて、私としても現実逃避している場合じゃない。
リリジさんが迫っているのだ。
私は態度を決めた。腰を少し落として、両足を開く。
「おっしゃ!」こーい!
リリジさんは56歳なのだ。下手に避けたら、怪我をしかねない。
ドスーン! とリリジさんが体当たりをしてくる。
そのまま受け止め……られ…るはずないよねぇ!
2人して、コテンと倒れてしまう。
倒れる途中でケンプさんとメリニ将軍が背中に手を差し伸べてくれなかったら、頭を打ってたわ。
「何をしてんだ、お前は」
ケンプさんに怒られた。
すんません、いけると思ったんです。
「何者だ?!」
メリニ将軍が剣を抜き放って、リリジさんに突きつけている。
「ごめん、大丈夫だったかい、リリンシャールさん」
だというのに、当のリリジさんは気にした様子もない。
「その方がリリジです」
遅ればせで遣って来たライザが助け舟をだす。
それで、ようやくメリニ将軍は剣を引いてくれた。とはいっても、憤懣遣る方ないって顔してるけど。
「はぁ」と真剣が目の前からなくなって、ホッと息を吐く。包丁は平気だけど、剣はねぇ…怖いや。
「リリジさんは肝が据わってるね」
真剣を向けられても顔色ひとつ変えなかったリリジさんに感心すると
「こう見えても、一代でのし上がってますから」
だってさ。
こう見えても……ねぇ。なんだか妙に説得力がある。
「それにしてもリリンシャールさん! わたしはもう! 嬉しいやら悔しいやらで!」
ぞびぞび、とリリジさんが鼻をすする。
あーもう。チーンしなさい。
私はハンカチをリリジさんに渡した。それでリリジさんはチーン! と鼻をかむ。
汚い? もったいない?
それは違うでしょ。鼻水は生理現象なんだから汚いとかは関係ないし、ハンカチも鼻紙が高価だから、洗えばまた使える布で鼻をかむのはこの世界だと妥当なのよ。
チーン、したハンカチを「あとで洗って返します」リリジさんは自分の腹巻きの下に入れる。
「わたしは聖女の話を聞いた時にピンときたんです。これはリリンシャールさんのことだな、と。愕然としましたよ、ええ、絶望しましたよ。そうでしょう? 長いあいだ、それこそ半生をかけて求めていた女の子が、聖女になってしまうだなんて。歌手にしようだなんてのは夢のまた夢になってしまった…。ふて寝しましたとも」
とまで言って、リリジさんは決然とした目を私に向けた。
「ですが、ライザさんに話は聞きました。まさか、リリンシャールさんが王都を追い出された公爵令嬢だとは。しかも冤罪で。そんな連中が、酔狂にもこんな辺鄙で何もない街に来て、聖女とされたあなたに再び目を付けた。わたしはね、それを聞いて、自分でも驚くほどに悔しくて、それでいて、これでリリンシャールさんをこの田舎で危険で粗野な辺境の街から連れ出せると思えば嬉しくて!」
うんうん、リリジさんの興奮はよくわかった。
でもね、ココにはその『田舎』で『危険』で『粗野』で『辺境』で『辺鄙』な街の重鎮がそろい踏みしてるから。もうすこーし言葉を選ぼうか? ね? 将軍に院長にケンプさんが睨んでいるのは当然として、温和なフェクターさんでさえ苦々しい顔をしてるから。
ああ、ほらほらメリニ将軍は剣の柄にてをかけないで!
目顔でみなさんの怒りをいなして、私はリリジさんに言った。
「再三のリリジさんからの誘いを断っておきながら、自分勝手だとは思ってます。これから、とんでもない迷惑をかけることになるはずです。それでもリリジさん」
私は、運命の言葉を口にする。
「歌手にしてくれますか?」
リリジさんの目から涙が一筋こぼれた。
「ええ! もちろんですとも!」
私の手を、リリジさんの皺が多い両手が包み込む。
「でもね、リリンシャールさん。ひとつ訂正させてください。あなたは、ただの歌手になるんじゃない。聖女なんて目じゃない、それこそ白狼のような伝説となるほどの歌手になるんです! 人々に笑顔を与える歌手に! ええ! してみせますとも!」
「なってみせましょう!」
このリリジさんの心意気に応えなければ、それこそ女が廃るってもんよ!
「あ、でもリリジさん。歌手になるのは、私だけじゃなくて」
とサシャとロッカを紹介する。
へ? は? といった顔をしている2人だけど、もはや運命共同体。
逃がしませんことよ!
「あなた方は…」
リリジさんってば、ようやくサシャとロッカに気づいたみたい。
「聞いてません…」
「何を言ってくれちゃってんの!」
と文句を言う2人を黙って見ていたのだけど
「あははははは」
突然、笑いだした。
「いいじゃないですか! なるほど、お2(ふた)方とも華がある。そんじょそこいらの芸能人よりもよほど雰囲気がある。これに気づかなかったとは……このリリジ、一生の不覚ですわ」
わはははは、とリリジさんが大笑いしている。
私も「わはははは」と大笑いする。
だから聞こえない。左右からの文句なんて聞こえない、クレームは受け付けないのだ!
「おいおい、笑ってる場合じゃねーだろ」
というケンプさんの至極真っ当な指摘に、私とリリジさんは笑うのをやめた。
サシャもロッカも『後で覚えてなさいよね』的なことを言って、引き下がる。
それで、再び砦の街からどうやって逃げ出すかの相談を始めたんだけど、どうにも良案がでない。
ライザが言うには、殿下たちは既に正門に兵士を貼り付けて、朝の開門からの出入りに備えているという。
「さすがは殿下と(ヒロインの)取り巻き。無駄にスペックが高い」
そうなのだ。いけ好かない連中だけど、あれでも能力は非常に高い。
でも、と思う。お兄様…クルシュ様はどうやら動いてないようだ、と。あの人が動いていたのなら、深夜だろうと関係なく修道院まで押し込んできてだろう。そういう人なのだ。
みんなが思案投げ首をしているなか、私は「はい」と小さく挙手をした。
「こうなったらさ、正面から行くしかないよね?」
友達の家で、マリオの新作を遊びました。
僕はゲームが下手なので見ているだけでしたが、みんなでワーワー盛り上がって、楽しかったです!