魔獣とか、マジ?
やった!
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「騎士様! 娘を! 娘を助けてください!」
女の人はアゼイの足もとに縋りつくようにして懇願した。
「落ち着きなさい。いったい何があったのですか?」
膝をついてアゼイが尋ねる。
「娘が帰ってこないのです! 子供たちで薬草を採りに行ったのですが、その帰ってきたなかに娘がいないのです! きっと、あの子は取り残されて…」
うう…。と女の人は泣き崩れてしまう。
どういうことだろう? 私とアゼイが顔を見合わせた時だった。
カーン! カーン! 鐘楼の鐘が打ち鳴らされた。
「魔獣だ! 魔獣が出たぞ!」
村中の人が門のほうへと走ってゆく。
「しっかりして!」私も膝をついて、女の人を抱き起した。
「薬草を採取しに出ていた子供たちが魔獣を目撃した。でも、その帰ってきた子たちのなかに、あなたの娘さんがいなかったのね?」
コクコクと女の人がうなずく。
私はアゼイを向いた。
「魔獣って、グァバじゃないの? あいつ等って、確か番いで行動するはずよね」
ゲームではそういう設定だった。乙女ゲーのくせして誰得なRPG要素があったなか、グァバは常にオスとメスで対になって出現して戦闘になっていた。
「だろうな。昨夜のはメスだった。この村の近場にオスがうろついていてもおかしくない」
「なら、はやく助けに行かないと」
だけど、アゼイは苦渋の顔で首を振った。
「できない」
「なに寝言ほざいてんのよ! 女の子が取り残されてるのよ! あんた、騎士でしょうが!」
「ああ、俺は騎士だ。だからこそ、任務を優先せざるを得ない」
「それって、私の護衛よね?」
「そうだ、俺はお前を守ることをなによりも優先する」
「私がここで大人しくしてるから、て言っても?」
「俺が村を出てるうちに、入れ違いで魔獣が来ないとも限らないだろう?」
私は奥歯をギリリと噛み締めた。
魔獣は、とてもじゃないけど村人では倒せない。
それというのも村人…一般の人間には魔力がないからだ。
魔獣を倒すには魔力が必要で、魔力は貴族しか保持していない。そして、騎士とは軍隊教育を受けた貴族のことを言うのだ。
私は立ち上がった。
「おい、何処へ行く」
アゼイが訊くけど、答えない。
そのままアゼイの馬にヒラリと跳び乗った。
前世の私は乗馬なんてしたこともないけど、リリンシャールはお嬢様。嗜みとして乗馬も習得してる。
走り出そうとしたところで、アゼイに馬の轡をとられてしまった。
「てめぇ。どーゆーつもりだ」
「知れたことじゃない。頼りにならない騎士様に代わって、私が魔獣を倒して女の子を助けるのよ」
「行ったところで、どうやってグァバを倒すつもりなんだよ」
「ライフルがあるじゃない」
対魔獣用の特殊な武器。剣の時代は、それこそ魔獣の正面に立ちはだかって戦闘をこなさなければならなかったようだけども、現代は銃器がある。弾丸に魔力をまとわせて遠距離から攻撃できる。これならば、私にだって魔獣を倒せるはずだ。
「使ったことあんのかよ?」
「……ないわよ。けど、引き金をひけばいいんでしょ?」
ち、とアゼイは舌打ちをして自らの頭をグシャグシャと掻いた。
「ッのじゃじゃ馬が。わーたよ、魔獣退治してやるよ。その代わり、お前もついてこい。つくづく分かったわ、お前は何をしでかすか分からねぇ、ぜってー俺のそばを離れんなよ」
「そういうのは、もっとロマンチックに言ってもらいたいわね」
「ガキのくせに、生意気言ってんじゃねーよ」
ちょっと赤くなって、アゼイが私の背後に跳び乗る。
アゼイは馬を走らせた。
魔獣の居場所は馬が察知するらしい。そういう風に訓練されているのだ。
「にしても、こんな村の近くに魔獣が出るとは」
「普段はこんなこと、ないの?」
「ないな。まさか森津波の前触れでもねーんだろうけど」
「森津波って。魔獣が魔の森から溢れ出てくることよね」
「だいたい100年周期で起こるらしい。前の森津波は80年前だった。そろそろだ、とは言われてるんだけどな」
ゲームだと。森津波のせいで世界はたびたび崩壊の危機にさらされている。
なんせ魔獣の通り抜けたあとは……
「臭ってきたな」
アゼイの呟きに、私も同意した。
馬が進むうちにも、向かう先の大地が紫色に変色しているのが分かる。
世界が崩壊しかかったのは、魔獣という個体が強力だったからではない。
それよりも、魔獣の通ったあとが問題なのだ。
馬が立ち止まる。
「ここまでだな、歩くぞ」
私たちは馬を降りた。
進む。紫色に変色して腐った大地を進む。
そう。魔獣は大地を腐らせるのだ。
腐った大地は何も生まなくなる。
木も、草も、何も芽吹かなくなってしまう。
それこそ20年は、死の大地になってしまうのだ。
私たちは死んだ地面を注意深くなぞって進んだ。
「女の子がいるとしたら、この先にいるはずだ」
「わかるの?」
「森からはぐれた魔獣ってのは2つの習性をもってるんだ。ひとつは、森から離れるように移動する。ぜったいに森に帰るようなことはしない。もうひとつの習性は、生き物を襲う。それが何であれ、生きているものを殺そうとする」
魔獣たる所以だ。
アゼイは私をジッと見詰めた。
「いいか、何があっても取り乱すなよ」
生きているにせよ、死んでいるにせよ。
そういうことだろう。
「わかってる」
私はうなずいた。
段々と鼻にツンとくる臭いが強くなってくる。
昨夜、嗅いだ臭いだ。
アゼイが私のまえに腕を伸ばして立ち止まるよう無言で指示する。
彼が目を向ける先に、ソレはいた。
オスだけあって、暗闇の中でみたメスのグァバよりもふた回りは大きい。
長い牙を地面にむけて、オスのグァバは何かをむさぼっていた。
ボリボリと咀嚼する音が、ここまで聞こえる。
私は口を手で覆った。
そうしないと吐いてしまいそうだった。
アゼイがその場で片膝立ちになる。そうしてライフルを構えて……バンと音が鳴った。
グァバの頭がはじけ飛ぶ。
アゼイはガチャリと音をさせてライフルに次弾を装填した。
そのまま、しばらく緊張を解かずに構えを持続する。
「ここで、待ってろ」
言い置いて、アゼイは倒れたグァバへと歩み寄った。
バン! と至近距離から2撃目が放たれる。
私はおそるおそる近づいた。
魔獣が怖いんじゃない。むさぼっていたモノが…怖かったのだ。
「よかったな」
アゼイの言う通り、魔獣がむさぼっていたのは狼だった。
女の子じゃない。
ホッと安堵の息がもれる。
「だったら、何処に?」
「わからん。とりあえず、こいつの通った痕を遡るしかないな」
女の子が無事であることを信じて、私たちは腐った大地を反対方向へと歩いた。
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