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お別れの言葉とか、マジ?

「リリジさんの居場所なら、わたくしが把握してます」


と、ナイスなことを言ってくれたのは、地味顔になってしまったシスター?ライザだ。


「ていうか、何で知ってるんですか?」


「リリンシャールさまの事なら、全てを把握しておりますから」


おいおい。今、何て言いましたか? リリンシャールさま…さま? いいや、問題はそこじゃない。


「全て、ですか?」


「全て、デス」


「…試しに訊きますけど、昨日、私が眠ったのは?」


「ベッドに入ったのは20時ちょうど。眠ったのは20時08分ですね」


マジか…。


助けを求めて、みんなを見るんだけど、一斉に視線を逸らされてしまった。


「リリンシャール様のことを見守るのは命令ですから」


分かります、命令なんですよね。命令。メイレイだからですよね!?


私はでも、この非常な現実から目を逸らした。


「ところで、様、付けは止めません? 調子が狂うので」


「ご命令とあらば。わたくしのこともライザとだけ呼んでください」


そう言ってもらえると助かったりする。


シスター・ライザは超美人。だけど『ライザ』は超地味なんだもん。完全に私のなかで別人設定になってるから。


「では、ライザ。早速だけど、リリジさんに連絡してくれる?」


「承知」


と告げて、ライザは素早く礼拝堂を出て行った。


今の時刻は1時。リリジさんは寝てると思う。本当にゴメンだ。


私は礼拝堂をゆっくりと見回した。


2度と…ココに来ることはないだろう。


イジリス教のシンボルに頭を下げる。


そして頭を上げた私は、次に院長に正対した。


「これまで良くしてくださって、ありがとうございました」


「リリンシャール」そっと院長が私の手を握ってくれる。

「あなたはかげ日向ひなたなく頑張ることのできる人です。そんなあなたから、幾度もわたくしは感銘を受けました。自分らしくありなさい、何があろうと前向きなあなたでいてください」


「私も…院長から、もっともっと学びたかったです」


私と院長は抱き合った。


こんなことがなかったら、私は本当にシスターになりたかった。院長のような、キリリと芯の通った女性になりたかった。


院長と離れる。


次はケンプさんだ。


「ケンプさん、ごめんね。こんなことになっちゃった」


「お前さんは、ワシんとこに来た時も突然だったが、去る時突然なんだな」


「ケンプさんには色々と世話になちゃったよね」


「ああ、色々と世話したな。けど、それ以上にリリンには世話になったからなぁ」


私はニッコリと。

ケンプさんはニカッと。

お互いに笑いあう。


「楽しかったよ、ケンプさん」


「ワシも楽しませてもらった」


握手をする。固い、握手をする。


そして、フェクターさん。


「私のような小娘の突飛な思い付きに賛成して、形にしてくれるような方は、世界広しと言えどもフェクターさんだけだと思います。そういう意味では、あなたに出会えた私は幸せ者でした」


「わたしの生涯での幸福は3つです。ひとつは、妻と出会えたこと。ふたつは、娘のロッカを授かったこと。そして、みっつめが、リリンシャールさん、あなたと出会えたことです」


握手をする。


「奥様の王都での成功を祈ってます」


「リリンシャールさんの突飛な思い付きのおかげで、まぁ成功は確約されたようなものです」


フェクターさんは茶目っ気たっぷりに微笑む。


マジ、色男だ。


で、私はロッカに向き直ったんだけど。


「あ、そういうの私、要らないから」


余りといえば余りにもドライな反応だった。


ちょっと涙ぐんでしまう。


「ちょ、ちょっと泣かないでよ。そうじゃなくてさ、あたしはリリンと別れるつもりなんてないから」


「はぁ?」


と疑問形を口にしたのは私だったか、それともフェクターさんだったか。


「どういうこと?」


「どういうことも何も、付いて行くって言ってんの」


「ロッカ?」


フェクターさんが心底困ったとでも言いたげに娘を見る。


「パパ。あたし、リリンと一緒に行くから」


「本気なのかい?」


「本気も本気よ。だって、こんなに面白いに、これから先、出会える気がしないもの。それにさ」


とロッカは院長を見てバツが悪そうにしながらも言った。


「ココでの人脈作りも充分にできたし」


「お前はママと同じで、1度決めたことは撤回しないからなぁ。よろしい、リリンシャールさんを助けてきなさい」


「サンキュー、パパ!」


ロッカはフェクターさんに抱き着いて、ほっぺたにキッスをしている。


というか?


「2人とも待ってよ! 私はこれから王家に追われるようになるのよ? そこんところ分かってるの?」


「分かってて言ってんのよ。それにさ、リリンにはリリンにはあたしみたいなシッカリ者がそばにいたほうが安心でしょうが?」


「それはまぁ」


ロッカがいてくれると心強いけど。


「なら、親友の想いってやつを素直に受け取りなさいよね」


私はポロポロと涙がこぼれそうになる目を手の平でぬぐった。


「よろしく、親友」


「こっちこそね、親友」


私はロッカとハグをした。


涙は我慢できたけど、鼻がぐしゅぐしゅになっていて、ついついロッカの肩に鼻をこすりつけてしまった。

それに気づいたロッカが鬼の形相で怒るまで、私とロッカは抱き合っていた。


そうして最後は元気のないサシャなんだけども。


私が別れを口にする前に、サシャが先にこう言った。


「わたくしとジャックも連れて行って」


と。

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