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もう逃げないとか、マジ?

みんなに見られながら、クッキーをはむはむと食べる。


このクッキーはロッカが部屋から持ってきた秘蔵の品だ。

秘蔵していただけあって、味は如何にもお上品だ。けど、私の好みからすると、もっとチープな方がよかったりする。安いパサパサのクッキーやビスケットを紅茶やコーヒーにひたしながら少しずつ食べるのだ。


ん? お行儀が悪い?


サシャにもロッカにも言われましたよ。だから、こっちに来てからはやってないよ。でも、あの味が恋しいんだよね~。だって美味しいんだもん。


クッキーを独占しながら、みんなが集まっていた理由を聞く。


それなりに大きな缶々(かんかん)入りの物を半分ほどお腹に移したところで「けっぷ」と口許に手をあてがって満足した私は言った。


あ、院長の眉間に皺が。すみません、お下品でしたね。


「要するに…」


私は出来る限りいかめしい顔をつくって、みんなを見回した。


「シスター・ライザは化粧が上手、だと?」


「あのなぁ、リリン。今は冗談言ってる場合じゃねーだろ?」


「いや~、なんかミンナして難しい顔してるから。つい、ね」


ヘラリ、と笑うと、ようやくみんなの顔が『仕方ない奴だな』という感じにほぐれてくれた。


そうそう、私なんかのことで悩む必要ないんだってば。


ていうかさ、本音を言えばお母様の優しさに涙が出そうだったんだ。


捨てられたと思ってた。

なのに、守ってくれてた。


ふぅ、と感情を息に孕ませて体から追い出す。


今必要なのは感動することじゃない。考えること。泣いちゃったら、何も考えられなくなっちゃう。


「んで、真面目に言っちゃうけど」


第1に、と私は指を1本立てた。


「この街を出るのは、私としても肯定せざるを得ないかな? むざむざ殿下たちに捕まって手柄になんてなるつもりはないし」


第2に、と中指を追加で立てる。


「私をかくまうとか言ってますけど、そんな逃げるような真似はもうしないから! うんうん、みんなの言いたいことも分かるよ? けど、連中は逃げてもこうして追っかけてくるし。んだったら、正面から正体さらして殴りあっちゃるわい! って感じ。え? もしかして怒ってるのって? いやいや、もしかしないでも怒ってますから」


ふんす! と鼻息をひとつ荒々しく吐き出して、私は3本目の指を立てた。


「で。最後にアゼイだけど」


私はアゼイの前に立って、彼の顔を見詰めた。


やましいことでもしているみたいに、アゼイが目を逸らす。


「なんつー顔してんの」


私はアゼイの胸を拳で軽く突いた。


「あんたは正しい! だって騎士なんだもん。主人に忠誠を尽くしてこその騎士でしょ? 恥ずべき事なんてちっともないじゃん」


「リリン…」


「たださ」私は手を合わせて拝んでみせた。

「ここに居た人と話し合ったことは、見なかった聞かなったことにしてほしいかな~なんて」


顔を上げて、チラリとアゼイを伺う。


彼は苦笑していた。くれていた。


「お前なぁ…調子よすぎだろ? 今、主人に忠誠を尽くすのが騎士とか言ってなかったか?」


「それはそれ、これはこれ、ということで…」


「わかったよ。俺はココに居なかった。だから、何も聞いてない」


言うと、アゼイは踵を返してみんなに背中を見せた。


1人だけ、出ていく。去っていく。


「ねぇ、アゼイ」私は礼拝堂の扉を開けた彼の背中に声をかけた。


「これってさ、借りだからね。何時か絶対に返すからね」


これっきりじゃない。また、会おうね。


「ああ、貸しひとつだ。利子つけて返せよな」


振り向きもせずに言って、アゼイの姿は扉の向こうに消えてしまった。


大丈夫、きっとまた会える。


私は心のなかで気合いを入れなおすと、改めてみんなを振り向いて宣言した。


「さっきも言ったけど。私は逃げない」


たとえお母様の実家に匿ってもらったところで、相手は王家だ。どう考えても、迷惑をかけて、その結果として私が悪女として吊るしあげられる未来しか見えない。


「だが、どうする積もりなんだ?」


メリニ将軍が尋ねる。


「有名になっちゃる」


私の発言に、サシャもロッカも、院長もケンプさんも、フェクターさんやメリニ将軍でさえ首を傾げる。


「この国どころか、他の国でも私を知らない人がいないくらい有名になって、冤罪えんざいなすり付けるどころか、手出しできないようになっちゃる!」


「どーやって?」


いちはやく立ち直ったロッカが訊いてくるので、私は胸を張って答えた。


「歌手になるに決まってるじゃん!」


へ? という顔をしたのはケンプさんに院長、メリニ将軍だ。


けど、フェクターさんに、ロッカとサシャは納得顔をしてくれた。


「なかなか大した案ですよ、それは」


「あたしも賛成、いけると思う」


戸惑う3人に、親娘がアッチラの街でのことを話して聞かせている。


あ、そういう関係のない話はしないでください! 院長、違うんです、誤解ですから!


「でも、それならリリジさんに渡りをつけないといけないわよね」


「それなら問題ないんですよ、ロッカさん。ついこのあいだ、リリジさんとバッタリ会ったばかりだもん」


まさに天の巡りあわせ!


「じゃあ、リリジさん、この街にいるんだ。何処に居るの?」


んん?


いきなり頼りなくなった私の顔つきに、逆にロッカの顔が厳しくなる。


「あのね、明日には殿下たちがリリンを捕まえようと動き出すの。だから、今、夜のうちに逃げだす算段をつけないといけないって話したわよね」


「うん、聞いた」


「だったら、リリジさんに連絡付けないといけないでしょ? 今すぐにでも。だから、ね? リリジさんは何処に居るの?」


私は…自分の可愛らしい鼻の先を指先で掻いた。


えへへ、と笑う。


「聞いてないや」


「だと思ったわよ!」


だと思われちゃってた…。

感想をいただいて、思い出しました。

そういえば、婚約破棄ものだったんだなぁと。

半ば忘れてました。

ざまぁ、は……あるんでしょうか?

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