ファンキー・リリジ再びとか、マジ?
「ありゃ、リリジさん」
私は呼びかけてきた相手を見て、目を丸くした。
ライダースジャケットみたいな体にピッタリした革ジャンを着て、帽子はピンクの編み帽。
すんごい、周囲から浮いてる。
さすがはファンキー・リリジさん。
そのリリジさんは、何故だか私と同じように目を丸くしている。
「こんなところで、何をしてるのですか?」
訊かれるけど、むしろ逆に何でココにいるのか訊きたいわ。…だいたい予想はついてるけどさ。
とはいえ、私は答えた。
「お店の手伝いをしてるんですよ」
「シスター見習いというのは、やっぱり嘘…」
「いえいえ、嘘じゃありませんから!」
私は大慌てでリリジさんの誤解を解く。
「いわゆる奉仕活動の一環というやつです。私は嘘偽りなくシスター見習いですから」
「では、その服装は?」
「服装?」
と私は改めて自分の恰好をチェックした。
「ああこれですか。これは、小母ちゃ…この店を経営している女かみ将さんの息子さんの服ですよ。修道服を汚したら、洗濯が面倒なもので」
そうまで言っても、リリジさんは今だ疑っていそうな顔をしている。
私って、そんなにもシスター見習いに見えないもんかな?
「それにしても、よくこの人込みの中から、私に気づきましたね」
「気付いてなかったんですか? リリンシャールさん、あなた、とても目立ってますよ」
んん? 目立つような要素はないはずなんだけど。
私が首をひねっていると、リリジさんは教えてくれた。
「リリンシャールさんのような美人が、一生懸命に、汗水たらして働いていたら、それは注目しないのが無理というものです」
ふむふむ、確かに通りがかる人がチラチラ私を見ている。
ちなみに、私は通りに面した小部屋で生地をこねていた。通りとの間は壁ではなしに、ガラス板になっている。要するに、丸見えなのだ。前世でいうなら、デモンストレーションの蕎麦打ちを思い出してもらいたい。あんな感じ。
そうして。チラチラ、私を見ているのは女性ばかりだった。
リリジさんは『美人』とぼかして言ったけど。ほら、私ってばイケメンだから…。
そこまで考えて、私は気づいてしまった!
「小母ちゃん! 私を客寄せに使ったでしょ?」
「ありゃー、気づかれちまったかい」
ピザにトッピングを施していた小母ちゃんが、すんごい良い笑顔で言う。
「もう! 手伝いはここまでだからね!」
私はさっさと修道服に着替えて、店をあとにした。
生地が足りなかったのは本当なんだろうけどさ。
「ありがとね~」
と、小母ちゃんの声がおいかけてくる。
そして、追いかけてくるのは、小母ちゃんの声だけじゃなかった。
「お久しぶりですね、リリンシャールさん」
リリジさんがニコニコ笑顔で私の隣りに並んだ。
「といっても、ひと月も経ってないはずですけど…。リリジさんは、お祭りを楽しみに来たんですか?」
「それもありますけど、目的はリリンシャールさんですよ」
「勧誘のことなら、無駄ですよ。私はシスター見習いなんですから」
「わかってますとも」
とリリジさんは口では言うけど、たぶん諦めてないんだろーなぁ。
「あの、ですね。私はデビューできませんけど、曲の手本みたいなものを提供することはできますから、それで、どうですか?」
「それはとても魅力的な提案なのですが、根本が違うのですよ。わたしが惚れたのは、あなたの考えだす曲よりも、あなたの歌声なんですから」
そうとまで言われたら、言い返すことなんてできない。
まぁ、そのうち諦めてくれるだろう。私は楽観することにした。
「そういえば、広場でシスターのみなさんが面白い歌をうたってましたね。あれは、やはり?」
「お察しのとおりです」
ほほぉ、なんてリリジさんは面白そうに私を見ている。
「シスター達の歌、どうでした?」
「なかなかのものでしたよ。あのままデビューしてもいけるでしょう」
「そうでしょうとも」
調子にのって、振り付けまで練習したんだから。
街の人達に披露したときには、やんやの喝采だったし。
「それで、リリジさんは何時まで逗留の予定なんですか?」
「ふふふ、まるで早く出て行ってもらいたいように聞こえますね」
「いいえ、そんなことはないんですけども…」
「なんて冗談ですよ。逗留の期間はですね、あなたがデビューをOKしてくれるまでです」
ニンマリと笑う。
ああ、これは長い戦いになりそうだ…。
次の回あたりから、物語を大きく動かそうと思います。