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私とサシャとロッカのお祭りとか、マジ?

お祭りの1日目。


私とロッカにサシャは連れ立って街を歩いていた。


空を見上げれば、雲ひとつない晴天。


「3日間、この天気が続けばいいね~」


「どうかなぁ? この時期の天気はコロコロ変わるから」


「そうですわね。むしろ、ここのところお天気が続いていたことのほうに、みなさん驚いてましたわよ」


へ~。砦の街での暮らしが長い2人の言葉に、私は感心してしまう。


街は、人であふれていた。


なんせ伝説の白狼が現実に姿をあらわしたのだ。


ひと目見ようと、それこそ王都からはるばる遣って来た人もいる。


そして、その白狼さまがお気に召したピザなる食べ物。


それを食べようと、わんさと人が押し寄せていた。


それこそ門の前では長蛇の列ができて、入城規制されていると聞いている。


もちろん、遠路をえっちらおっちら旅して、それで中には入れません。で、納得する人なんて少ない。というか、いない。


で、街の人達は自分たちがお祭りを楽しむのを二の次に、街の外でピザを売っているというような始末だった。


魔獣の森のほとりで、街に入れない。


普通なら身の危険を感じてしかるべきだけど、白狼が守ってくれるということで、恐慌は起きてない。


…でもさ、思うんだけど。白狼は『街を守る』とは言ったけど、街の外の門前まではどうなんだろう?


まぁ、いざとなれば守って…くれないか。

人間が嫌いって言ってたもんね。


う~ん。結局のところ、アゼイたち任せだね。


街のいちばん大きい広場では音楽がシスターや見習いによって奏でられている。


スタンド・バイ・ミー、メドレーだ。


シスターや見習いのみんなも、広い空の下で楽器を鳴らすことができて嬉しそう。

普段は、礼拝堂オンリーだからね。


え? 他のみんなが音楽でおもてなしをしているのに、3人組は何をしているのか、ですって?


それ訊いちゃう?


私はさ、ほら…楽器がさ、その…あれなのよ。何かと忙しくて、練習もほとんど参加できなかったし。ね? 分かってくれるでしょ?


…分かったわよ。ハッキリ言いますよ!


ヘタッピだから、礼拝と同じで戦力外通告を受けちゃったの!


サシャとロッカは違うよ?


サシャは孤児院担当だから、お祭りをひと通り楽しんだら、次はシスター・ライザと交代の予定。


ロッカはといえば、ずーっとグリングランデ商会の手伝いをしていて、この後も遠方からお越しになった商人さん達の接待とかあるみたい。


2人とも見習いなのに、大変だよね~。


なんて気軽に言ったら、半ば本気で小突かれたのは、つい先日のこと。


「こんな大変なのは、誰のせいだと思ってますの!」


「ホントだよ! なんで騒動の中心にいるリリンんがそんなに呑気にしてるのさ!」


て、マジで睨まれたもん。


けど、私、悪くないよね? ピザを考えただけだもん。ねぇ?


もっとも、こんなこと言えなかったけど。言ったら、絶対にロッカにプロレス技をかけられちゃうもん。


3人でピザを食べ歩きしながら、ブラブラする。


このピザも、種類をいっぱい食べられるようにと、すんごく小さく切り分けられている。

前世でいう、クラッカーぐらいの大きさかな?


私が試作したのは円型ピザだったけど、本番では長方形になっていて、それこそ均等に小さく小分けにできるように工夫されている。


「これ美味しい! 如何にもサシャが好きそうな感じ」


「どれどれ?」


と、私が半分かじったピザを、サシャが横からつまんで自分のお口に運ぶ。


「確かに、好きですわね」


ゴックン、してサシャが言う。


「ずいぶんたくましくなったわね」


ロッカが感心したように呆れたように言う。


ちょっと前のサシャなら、食べ歩きは勿論もちろん、私の食べかけを口にするなんてことは、まかり間違ってもしなかったと思う。


「こんなことで驚かないでいただきたいものですわね。知ってます? 子供たちには3秒ルールという、とんでもない考え方がありますのよ?」


侯爵家の御令嬢が、今では立派な肝っ玉カーチャンだ。


これ…貴族の生活に戻れるんだろうか?


その後、私たちは孤児院の子たちと近所の子供たちが合同でやっている演劇を見た。


ふうふむ。

物語は、まんま『幸せの青い鳥』だね。というか、少年役の幼児ジャックの演技が上手いな…。


「サシャさん、サシャさん。あれってば、私が子供たちに話して聞かせたやつだよね?」


「つくづく思い知りましたわ。わたくしとシスター・ライザに、お話をつくる才能がないということを」


引き続き『ピノキオ』に『花咲か爺さん』が演じられる。


そうして見終わって思ったのだけど。


「サシャって子供が好きなんだね」


突然、私が褒めたもんだから、サシャが「な、なんですの?」と狼狽うろたえている。


けど、マジで思ったんだよね。


だってさ、子供が好きでもないと、あんな演技をさせられないでしょ。

子供って移り気で根気がない。

台詞を憶えさせるどころか、ひとつ場所に留めておくことさえ大変だったはずなんだ。


なのに、子供たちは、銘々が役割をもって、真剣に仕事に励んでる。


演技をする子。袖の端で台詞を読む子。舞台道具を整える子。お客様からおひねりを貰う子。


たぶんだけど。飴がサシャで、ムチがシスター・ライザといった具合に、使い分けたんだろう。


「サシャは偉いなぁ」


思わず、頭をなでりなでり、してしまう。


「ちょ! なんですの!?」


嫌がってはいるけど、逃げないから、ナデナデを続行していると。


クイクイ、と袖を引かれた。


「あたしも頑張ったんだけど」


あらま、ロッカさん。甘えん坊ですね。


ということで、ロッカの頭もよしよししてあげる。


んで、仕事のある2人と別れた私は、ピザ生地が足りなくて困っているという小母ちゃんを手伝っていたんだけど。


「もしや、リリンシャールさん?」


呼ばれて、私は「うんしょ、こらしょ」とねていた生地から顔を上げたのだった。

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