変態騎士アゼイとか、マジ?
読んでくださった方に、心からの感謝を。
そしてブックマークしてくれた3人の方に。
ありがとうございます!
「おい、起きろ」
誰かが何かを言ってるけど。
放っておいてよ、私はまだ眠いんだから。
「起きろッてんだろ!」
頬っぺたをムニ~と抓られて私は目を覚ました。
夜は明けたようで、日差しがまぶしい。
「何すんのよ!」
私のモチモチ頬っぺに悪戯していた腕を振り払う。
そこで気づいた。
あれ? ここ何処だ?
私は馬に乗っていた。もちろん、寝ていた私が手綱を握ってるはずがない。手綱を握っているのは背後にいる黒髪の騎士、略して黒騎士だった。
「というか。何で私が馬に乗せられて、あんたが背中に張りついてんのよ」
「憶えてないのかよ…。お前、御者どもの死体を見て、気を失ったんだよ」
昨夜の光景がフラッシュバックする。首筋を、脇腹を、噛み千切られた死体。苦悶の表情。
胃の中のものが逆流してきて、慌てて口をおさえる。
「こんなところで吐いてくれるなよな」
黒騎士が心底から嫌そうに言う。
決めた。吐くときは、黒騎士を振り向いて、ぶっかけてやる。
カッポカッポと馬が進むうちにも、だんだんと吐き気が治まってくる。
併せて冷静になれもした。
私が馬に乗っているということは、だ。気を失ったのを黒騎士が運んでくれたということに他ならない。
とりあえず、お礼を言っておくべきだろう。
そう思ったのだけど。
「くっそ重いのを我慢して馬に運んでやったのに、礼もなしかよ」
この言い草である。
乙女に向かって重いとか。そりゃー私はノッポだから軽くはないだろうよ。にしたって、『くそ』て何よ、『くっそ』て。言い方ってものがあるはずで、カチンとこない女の子がいるだろうか?
ハハン、と私は鼻で笑ってやった。
「騎士のくせして女の子が重いだなんて、鍛錬が足りないんじゃないですかねぇ」
う、と黒騎士が鼻白む。
「もうすぐ村に着くから起こしてやったってのに。こんなことなら、ヨダレ垂らした顔をさらさせたまま村に入っちまえばよかったぜ」
「ヨダレなんか垂らしてないし」
慌てて口許を確認する。
ほら、何にも………速やかに証拠をフキフキする。
「お前…本当に元公爵令嬢のリリンシャールなんだろうな? 替え玉とかじゃねーの?」
黒騎士が呆れたように言う。
まぁ、半分当たりだね。私という人格が復活してしまってから、本来のリリンシャールの意識は沈んでしまっているし。それでも私のなかにリリンシャールの記憶はあるわけで…半々なんだよね。
「何者だ!」
槍を手にした村の門衛から誰何を受けた。
野盗はいるし、魔獣はでるしで、日本とちがって物騒な世界だから、村全体が柵に囲まれてるんだ。
「俺は王都からきた騎士だ! 名はアゼイ! 連れが怪我をしたので治療のために村に寄らせてほしい!」
衝撃の事実が判明しました。黒騎士の名前はアゼイというらしい。
「ハ! 騎士様ですか。失礼ですが証明するものを提示していただけますか」
いやいや、というかさ。
「私、怪我なんかしてないよ?」
「自分の右足をよく見てみろ」
小声で指摘されて、私はスカートからスラリとのびた脚に目をやって
「おお!」
ビックリしてしまった。
「陛下から下賜された小剣だ。これでいいだろう」
「拝見させていただきます」
右足の膝小僧の全体が青タンになっているのだ。
「お返しいたします」
「では、通らせてもらうぞ」
おそらく、御者の親父に飛び膝蹴りをしたときのものだろう。
「うう…」
なんか青タン見たら、いきなり膝が痛くなってきた。
「お前なぁ。百面相してんなよ、恥ずかしいだろ」
「膝が痛いんですけど…」
「今さらかよ…」
騎士様の来村ということで、村中からの視線を集めるなか、私はお風呂屋さんに連れて行かれた。
さすがは日本製のゲームというべきか。ただの村にもお風呂屋さんがあるとか。水は何処から、燃料はどーする、とかいう疑問には「魔石だ」とアゼイが端的に答えてくれた。
「にしても、何でお風呂?」
怪我の治療をしてくれるんじゃないの? と言外に問うと
「こんなこと、さすがに女に言うのは気が引けるんだけどよ。お前…ちょっと臭うんだよ」
「ぎゃあああああああ!」
私は叫んで、お風呂屋さんに飛び込んだ。
そりゃあ、どんな美少女でも5日も馬車に揺られてたら臭うよね。しかも今は初夏だし、汗かくし。
番台のおばちゃんに「外の( 変態 )騎士がお金を払うから」と断って、お風呂をつかわせてもらう。
服を脱いで…スンスン嗅ぐ。
「…けっこうくる」
こんな臭い(スメル)のする女を抱きかかえたり、一緒に馬に乗ったりと、アゼイの忍耐に感心してしまう。
なんだかんだで、騎士なんだよね。
いいや待てよ。あの病みが入ったクルシュお兄様に従うような人間なのだ。同類を呼び込んで、そういう性癖だとも限らない。
くわばらくわばら。
朝っぱらということで、誰もお客さんはいない。まっとうな人なら働いてる時間だもん。
私は羞恥心に身悶えしながらお湯を浴びて、石鹸とおばちゃんに渡されたタオルで体をゴシゴシして、泡が茶色いことに衝撃をうけ、髪を洗えば短いので楽だな~と思ったりしながら、湯船につかって「極楽だわ~」と堪能した。
思わず歌ってしまうのは、ザ・ドリフターズの『いい湯だなビバノンロック』だ。
ババンバ バンバンバン♪ アハハン♪
「呑気に歌ってんじゃねーよ、待ってるこっちの身にもなれ」
おーおー、アゼイが脱衣所のあたりで喚いてますね。
「こっちは女風呂なんですけどぉ、あなたは騎士とは名ばかりの変態ですかぁ?」
「ざッけんな! あと10分以内に出てこないと、裸だろうが何だろうが連れ出すからな」
これはマズイ。本気で突入してきそうだ。
アゼイの気配がなくなったのを確認してから、私は湯船をでて脱衣所へと戻った。
新しい服が置いてある。番台のおばちゃんの娘のものだそうな。
「お代はもらってるから、それを着な」
とのことなので、ありがたくいただく。
因みに。おばちゃんは、なかなかにフクヨカだ。娘さんも恰幅が良いのだろう。もらった服は見事にブカブカだった。下着はだから着けてないけど、下はズボンだから問題ない。問題ないと言ったら問題ないのだ! え? 上? 上はさらしを巻いてますよ、この世界にブラジャーはないですから。
「あははははははははは!」
私を見て、アゼイは大笑いしてくださりやがった。
憮然とする私を縁台に座らせて、青タンになった膝小僧にシップみたいな薬草を貼り付けてくれる。
「半日もしたら、痛みも引くだろうよ」
「その…色々とありがとう」
感謝をしたら、アゼイにジロジロと見詰められた。
「…なによ?」
「いきなりしおらしくなって、湯あたりでもしたか?」
こーいう奴なんだ。
私は無言でアゼイの肩にパンチした。
というのに、奴は気にしたようすもない。むしろパンチした私の手のほうが痛い。
「今日はこの村に泊まるぞ」
アゼイの提案は、私にとって意外だった。
「いいの? はやいとこ修道院に行かないといけないんじゃないの?」
「別に急いじゃねーし。お前も休息がいるだろ」
ううん? なんかさ、起きた時から感じてたんだけど。
アゼイの私にたいする当たりが、微妙に柔らかくなってないか?
「あんた…!」私は自分の体を抱きしめた。
「私が気を失ってるあいだに、エッチなことを」
「するか! 誰がそんな貧相な体に欲情するッってんだ」
言ってくれますね、この変態騎士が。
あん? とアゼイの片眉が不機嫌に吊り上がった。
「誰が変態騎士だと?」
しまった、心のなかの声が漏れてしまった。
「私はそんなこと言ってませ~ん」
口笛を吹いて誤魔化す。
「騎士様!」
そんな時だった。息せき切って女の人が駆け付けてきたのは。