表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/101

修道院のみんなにノリのいい歌を教えようとか、マジ?

私が歌いだすと、みんなは徐々に楽器の演奏をやめてロリポップに耳を傾けてくれた。


練習の邪魔をした恰好になるけど、非難の目を向けられるようなことはない。

それぐらいに修道院のみんなとは打ち解けているし、手前ミソになるけど『千里の道も挨拶から。そのうち礼拝に来てもらおう!』作戦が認められてもいるのだ。


というか。ぶっちゃけちゃえば、息抜きにちょうどよかったんじゃないかな?


ロリポップはとても短い曲だ。2分ちょっとしかない。


あっという間に歌い終わって、私はシスター方と見習いのみんなを見回した。


そのまま返事を待つことなく、次の曲を歌う。


MRミスター・リー』。ボベッツという女性のグループが歌った曲だ。


段々とみんなが、特に若い見習いがノッテきているのが分かる。


お次はバディ・ホリーの『エヴリデイ』。間奏は手拍子で。とっても落ち着いたしっとりとした歌だ。


それから、次々と歌う。


シャーリー&リーの『レット・ザ・グッド・タイムス・ロール』。お茶目でキュートな男女の歌。これは男の人と女の人の声を使い分けて歌ってみた。


デル・ヴァイキングスの『カム・ゴー・ウィズ・ミー』。男の人からのラブレターみたいな歌。


同じくデル・ヴァイキングスから『ウィスパーリング・ベルズ』。 テンポのいい、軽めの曲。


シルエッツの『ゲット・ア・ジョブ』。シャラララ♪ が聞いていて楽しい、コメディ色のある歌。


それから、もういっぺん『ロリポップ』。今は1人で歌っているけど、大勢で歌ったらぜったいに面白くなるはずなんだ。


コースターズの『ヤケティ・ヤック』 。とってもおかしな詞の歌。部屋の掃除もして、台所も綺麗にして、なのにロックンロールはしちゃダメだ、という小言ばかりの親に『Yakety Yakうるさいなぁ』と文句を言うと『Don't talk backおだまり』と怒られててしまう、そんな面白い歌詞の曲。


ジェリー・リー・ルイスの『火の玉ロック』。今まで歌ったどの曲よりもロック色の強い歌だ。受け入れられるかな? と思ったけど、意外とスンナリみんなは聴いてくれた。キス・ミー・ベイベ、とかの部分では、見習いにウィンクかましたのも良かったかな?


で、ボベッツの『ミスター・リー』をもう一度。これとロリポップを始めに歌ったのは、女性の歌だし、ノリもいいし、この2曲からのほうが入りやすいかな、と思ったからだ。


で。最後は。


ベン・E.キングの『スタンド・バイ・ミー』。言わずと知れた名曲だよね。日本人の私に、郷愁を感じさせてしまうほどの歌だもの。 間奏は口笛で。はしたない? 結構です、気にしないもん。


ここまでで気づいた人もいるでしょ?


このラインナップは映画『スタンド・バイ・ミー』のサントラをなぞってみたんだ。


みんなが盛大な拍手をしてくれる。


それはそうだよね、だって歌ったのは全部がヒット曲で名曲なんだもん。


そしてさ、音楽を…楽器を手にしているなら、どうしたってウズウズするはず。


弾きたい! て思うはず。


「差し出がましいのは承知してます。でも、お祭りなんです。今の曲…ってみませんか?」


果たして。


満場一致で私の意見は採用された。


そうして、私はみんなに歌と曲のレクチャーをした。

といっても、私は歌うしか能がない。

だから、表面的な音だけを伝えて、あとは各楽器ごとにお任せだ。

ピアノがあったら、もう少しすんなりと教えられたんだけど、修道院には無いからなぁ…。


ちなみに、でしゃばるのはココまで。

お祭りで、私は歌をうたうつもりはない。


ボーカル役は、シスター方や見習いにやってもらおうと思っている。


そりゃ、歌いたいよ。

大勢の前で、歌いたいよ。


でもさ、やっぱり歌わない。


だってさ。歌って、みんなで楽しむものだもの。


そうでしょ?






そらからの、お祭りまでの日々は、それはもうあっという間だった。


私は、修道院で歌を教えつつ、ケンプさんに貰ったカイロを院のみんなに配って、たいそう喜んでもらえた。


もちろん、ケンプさんの『カイロでホカホカ、将を討たんと欲すれば馬から射よ』作戦は大成功! 奥様、お嬢様から熱烈な支持を獲得したケンプさんに逆らえるような人はいなくて、街は完全に完璧にお祭りモードへと移行した。


街の目抜き通りには、お祭りまで後〇日という巨大な横断幕が掲げられて、日々、〇のなかの数字が減っている。


ピザもどんどんと変化していた。トッピングに凝る地区もあれば、チーズに凝る地区もある。トマトソースの改良に着手する地区もあるし、なんとピザにかける辛みオイルの『オーリオ・ピカンテ』を独自に開発してしまう猛者までいた。


あ、そうそう。ピザ・カッターは作ってもらったよ。


アゼイも兵士さんや騎士さまを連れて、街中を歩き回っている。お祭り当日の騒ぎを想定して、警備の巡回ルートとかを考えてるんだって。


フェクターさんとロッカも、街の外から買い込んでいる様々な物資の調達で忙しそう。


サシャとシスター・ライザはといえば、孤児院で演劇をやることになったみたいで、その演技指導とか舞台づくりとか、そもそもの台本制作とかで、ほとんど修道院にいないぐらいだ。


幼児ジャックは、大好きなサシャ姉ちゃんと一緒にいるし。ちなみに、最近になって髪を伸ばし始めてしまった…。ザリザリができなくなって、ツライ…。


ヒックスさんは……え? 誰だって? …ジャックのお父さんですよ。サシャが失恋した相手ですよ。は、市場地区の人達を引き連れて、白狼に守られながら、トマト狩りにいそしんでる。


どうにも兵士さんや騎士さまの手が、トマトの収穫まで回らなくなってしまったんだ。


というわけで、街中は大忙し。


てんてこ舞い。


みんな、どこか切羽詰まった表情ながらもニコニコ。


で、遂に。遂に! お祭りの当日になったのです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ