誤魔化そうとか、マジ?
ごめんなさい。短いです。
腹へリーズの分までピザを堪能した白狼とチビ狼たちは
「では、また明日来る」
と言い置いて、疾風の勢いで駆けて行ってしまった。
というか、何処から入ってきて、何処から帰って行くんだろう? あの高い防壁をピョンと跳んでしまうんだろうか?
白狼が出たという事件は、でも今のところ大事になってない。
お料理上手さん達はこの場で白狼見物をしていたし、腹へリーズも無闇に騒ぐようなことをしなかったからね。
いや~、よかった、よかった。
ふい~、と冷や汗をぬぐう。
…みなさんが、何か言いたげに私を見ている。
私、普通に白狼とお話してたし、変だもんね。
でも、あえて、そんな視線は無視する。
「さぁ! もういっぺんピザを焼き直しましょう!」
材料はまだまだある。
みんなを見回すけど、どうも反応が薄い。
「あの~、さっきの白狼と聖女さまは……」
そんな話、聞きたくありませんのことよ! ていうか、聖女(笑)じゃなくなってる!
私は、キッ! とキツイ眼差しで余計なことをお喋りしようとした男性を黙らせると
「あれ~? 伝説の白狼が大絶賛したピザなのに、食べないでいいんですかぁ?」
と大声で腹へリーズに訊いた。
白狼の闖入に度肝を抜かれて忘れかけていた、欲望に目を向けさせる。
欲望。もちろん、食欲だ。
腹へリーズはお仲間同士で顔を見合わせた。
「食べたい!」
「わたしだって!」
「ペコペコだ!」
次に煽るべきはお料理上手さん達だ。
「みなさん! まさか明日も白狼に今日と同じピザを出すおつもりですか? 言っておきます! ピザは、想像力の翼の分だけバリエーションが広がる食べ物だということを!」
ざわり、とお料理上手さん達の気配が変わった。
「まずは、生地。フワフワじゃない、サクサク食感もありです。チーズだって、色々と種類があるでしょう? ハムや野菜をのせることをトッピングといいますが、それだって工夫できるはずです。いいですか! 極論してしまえばトマトソースを使わなくたっていいのです!」
でも、トマトソースなしだと白狼は喜ばないだろうけど。だって、トマトが好きなんだし。
「お祭りの当日は、それぞれの地区で特色のあるピザをつくってもらい、どの地区のピザが人気があったのか発表もさせていただきます!」
これで決まった。
お料理上手さん達の顔付きが真剣なものになっている。
「では、みなさん! 張り切ってくださいね!」
既に私の声はみんなに届いてない。
ピザも食べたし、大満足だ!
「さ、かーえろッと」
そそくさと広場をあとにしようとしたんだけど
「そっちは工業地区です。リリンシャールの帰る方向はコッチですよね」
と聞き覚えのあり過ぎる声と共に肩を掴まれてしまった。
「なんでここに?」
振り向けば、やっぱりシスター・ライザだ。
「ピザとやらを頂きに、というのは冗談です。あなたを呼びに来ました」
私はハンカチを取り出して、シスターのお口の端のトマトソースを拭ってあげる。
「それで、お味はどうでしたか?」
「あと2枚はいけます」
「それは切り分けた枚数でですか?」
「切り分けずにで、です」
「では、満足するまで食べていてください」
ちゃお、と踵を返そうとしたのだけど
「…肩を放してくれません?」
「逃げませんか?」
私は応えずに、そっぽを向いた。
シスター・ライザから解放されたら、それこそバスケットの速攻みたいにダッシュする。
「観念して、メリニ将軍の所に行きましょうか?」
「あれ? 院長の部屋じゃないんですか?」
それなら、まだ気が楽だ。
「もちろん、院長もいますよ」
「ですよね…」
ということで、私はシスター・ライザに連行されるのでした。