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使い捨てカイロと異世界トマトとか、マジ?

寒い日にポッケにいれると幸せになれる、使い捨ての携帯カイロ。


あれって、材料は単純だし、作り方も特別なことはないんだよね。

まず布袋…はもったいないから紙の袋を用意して、そこに砂鉄と粉末状の木炭、塩水、木粉、を入れるだけ。それぞれ割合とかはあるけど、それはまぁ、ケンプさん任せということで。


ちなみに私がカイロの中身のことを知ってるのはね、初等部のときに理科の実験で教わったから。


「そんな物が温かくなるのか?」


半信半疑ながらも、人のいいケンプさんはちゃっちゃかカイロの中身を用意してくれている。


私はそのあいだに手の平より少し小さめの大きさの紙袋をつくる。


「どれどれ」


紙袋のなかに適当に材料を入れて、ケンプさんがシャカシャカ振る。


使い捨てのカイロは空気をとりこんで、ぬくくなる…はず?


「こらービックリだ。確かにほんのりと温かい」


「ホントだ。キチンと材料の配分を研究したら、もっと効果がアップするんじゃないかな?」


2人で「イエーイ」とハイタッチを交わす。この世界にハイタッチの文化はないけど、私が教えたのである。


ちなみに、だけど。孤児院では密かにハンドシェイクを流行らせつつある。ハンドシェイクといっても、ただの握手じゃない。アメリカ人のフットボール選手がやるような『ヘイヘイヘヘヘイ、ヘイヘヘヘイ』みたいなリズムで拳やら腕やらをぶつけ合う、あれだ。今のところ、一番面白がっているのはシスター・ライザで、率先して流行らせてくれている。


言うまでもないけど、サシャには内緒だ。しつけに厳しい彼女にばれたら、禁止されるだろうし、増して元凶が私だと知れた日には……恐ろしい…。


「面白いもんだな。しかし、こんな道具であの連中が動くか、と言ったら、難しいかも知らんな。なんせ、年がら年中、体から湯気をあげて汗だくで働いているような連中だからな」


「だったらさ、お嫁さんとか娘さんに配ればいいよ。女の人は冷え性の人が多いから、すっごい喜んでくれると思うよ。そうしたら、そこから頼んでみればいいんだよ。将を射んと欲すればまず馬を射よ、てね」


「将を射んと欲すればまず馬を射よ、か。なるほどな、確かに理にかなってるわ」


ケンプさんは『うんうん』頷いていたけど、ニッカリと笑った。


「ありがとうな、リリン。これで、どうにでもなりそうだ」


どうにか、じゃなくて、どうにでも、というのがミソだね。


「よかったね、ケンプさん。ついでにカイロが出来上がったら、私にも頂戴ね?」


「いやいや、頂戴ね? じゃなくてだな、これだけの物なんだぞ? 金をとろうとは思わんのか?」


「そうは言われても。私はシスター見習いだからお金は要らないし、それにカイロの中身は簡単だからね。直ぐに真似されちゃうよ、きっと」


「そうだな。確実に真似されるだろうな」


「でしょ? 私としては、カイロが広まってくれたら、それだけで大成功って感じだから」


「つくづく思うが、お前さんは欲がないな」


ケンプさんが呆れたみたいに肩をすくめる。


欲がない、なんてことはナイのだ! 冬は好きだけど、寒いのは好きじゃない。だからこうしてカイロをこさえてもらったんだし。美味しいご飯も食べたい、出来ればお風呂だって毎日入りたい。友達だって欲しいし、みんなとワイワイ楽しみたい。何よりも、歌をうたっていたい。


たぶんだけど。ケンプさんの考えている欲とは方向性が違うだけで、欲望としては私のほうがごうが深いと思う。


時計を見れば、時刻は午後の3時。


なんやかんやと長居をしてしまった。


「仕事の邪魔をしてごめんね」


「なんのなんの、助かったぞ」


というような遣り取りをして、私はケンプさんの鍛冶処を後にした。


もしかしたら、トマト回収隊が帰って来てるんじゃないかな? そんな期待を胸に、ルンルン気分で砦の正門前の広場に向かう。


すると、思っていた通り。広場には出発していた馬車が停まっていた。


私に気づいたトマト回収隊の兵士さんや騎士さまが手を振ってくれる。


彼等彼女等こそが、軍のなかで結成された『お祭り成功させ隊』だ。半分のメンバーはメリニ将軍が選抜してくれたけど、残りのメンバーは自主的に隊にはいってくれた。


むろん、下心があってだ。


私は、お祭り成功させ隊の隊長であるアゼイのもとに歩み寄った。


「どうだった?」


「ご覧の通りだよ」


馬車の荷台には箱が山積みになっていて、中には緑色をしたトマトがこれでもかというほどに詰まっていた。


「赤いのはなかった?」


「なかったな。地面に落ちてもなかった」


不思議だけど、そこは置いておこう。


問題はトマトだ。このまま数日置いておいて熟すのを待つしかないみたいだ。味は確実に落ちてしまうけど…。


「リリンさん」


と呼びかけられたので振り返れば、自主参加のメンバーが期待に目を輝かせて私を見ていた。


「これで、美味しいものが食べられるんですよね?」


そうなのだ。下心というのは『美味しいものが確実に、誰よりも早く食べられる』というものだった。


「う~ん」


返事ができずに私はトマトを見た。


これが赤く熟すまで待たないといけない。でも、前世だと緑色から赤色になるまで20日間はかかると聞いたおぼえがある。


20日間……そんなに待たせられないよねぇ。


と考えていたら。


「あら?」


トマトが…赤くなってきてる?


箱からトマトを掴んで、目の前にかざした。


見る間に、赤く変色している。


前世の常識とか、通用しないね。異世界のトマトはマジ凄い!


私は、直ぐに返事が貰えずにガックリしている、腹へリーズを振り向いた。


「みんな! あとはピザ窯さえ職人さんが作ってくれたら、美味しいものが食べられるよ!」


やった! 熱狂がみんなから声になって溢れる。


うんうん、その気持ち分かるよ。


でも、この私の言葉は余計だった。


翌日から腹へリーズはピザ窯つくりにさえ手を出し始めて、なんと3日と経たずに街中に予定していたピザ窯が完成してしまうのだ。

異世界トマト。都合がいいのは、重々に承知してます。

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