ケンプさんの悩みを解決とか、マジ?
トマト狩りには私もついて行きたかったんだけど、残念ながら留守番を言い渡されてしまった。
そりゃそうだよね。しょせんはシスター見習いだし。魔獣の森には入らないとはいえ、危険なことには変わりないもの。
で、お祭り実行委員の1人として奉仕活動がお休みになっている私は、暇を持て余してブラブラ歩きをすることにした。
通りを歩けば、兵士さんも騎士さまも、街の人達も、みんながみんな華やいだ顔をしている。
お祭りの開催は1ヵ月後。
これほど盛大な祝い事はこれまでなかったらしいから、みんな楽しみなんだろう。
なんせクリスマスもハロウィンも雛祭もお花見も、バレンタインや花火大会だってないから。ゆいいつ年越しのときだけは祝い事をするらしいけど、それだって家族だけで何時もよりすこしばかり豪華な、それこそ食卓にひと皿ふた皿が追加される食卓を囲んで『今年も無事にすごせて良かったね』といった感じらしい。
それにしても。歩いていると、呼気が白くなる。寒くなった。
季節はもう冬だ。
私も修道服を厚手の物に衣替えしてるし、街行く人もだいぶん温かそうな恰好になっている。聞いた話だと、あと2週間もすると、もっと気温が下がるみたい。雪も降って、軽く積もるとか。
私は正直、寒さに弱い。増して、修道院は石造りで冷えがハンパない。マフラーとか手袋とか欲しいけど、たぶん許してくれない気がする。
「カイロでもつくろうかな?」
何気なく呟いたんだけど
「あれ? 私ってば天才?」
名案な気がする。
思いついたが吉日とばかりに、例によってケンプさんの鍛冶処を目指した。
途中にある広場で、隅のほうにピザ窯が設えつつあるのを目にする。手隙きの職人さんたちが代わり番コで地区ごとにある広場にピザ窯をつくってくれているのだ。
私に気づいた職人さん達に、手を振って「頑張ってくださいね!」と通り過ぎる。
「おう! あんたも早いとこ美味いものを食わせてくれよな!」
「まっかせて!」
うまくトマトが運び込まれたら、さっそくピザをつくって、それから奥様方にレクチャーしないと。
たッのしみだ♪ たッのしみだ♪
は~やく食べたいトマトさん♪
スキップして歌いながら、ケンプさんの鍛冶処へ到着。
「ケ~ンプさん」
あっそびましょ、とはさすがに言わないけど、トントンと勝手口をノックして、返事を待たずに突入。
いや~、我ながら礼儀知らずが極まってるわ。とてもじゃないけど、公爵家の令嬢の所業じゃない。
「ん? リリンか?」
珍しく、ケンプさんは食卓の上に紙を広げて書き物をしていた。
「なにしてるの?」
と訊けば
「地区の連中に声をかけたんだが、どうにも捗々(はかばか)しくなくてな」
難しい顔をして答えてくれた。
「え~、なんで? お祭りだよ? ワイワイできるのに、嫌なの?」
「嫌とかじゃなくてだな、要するに見返りもないのにタダ働きなんてしてられるか。ってことだろうよ」
「それこそ、え~だよ。お祭りなんだから、ちょっとくらい協力してくれたっていいじゃん!」
ダン! と思わずテーブルを叩いてしまう。…けど、イテテテッテ、拳が真っ赤になってしまった。
「そうは言うがな。仕方ないだろうよ。なんせ、祭りだなんて、この街の連中は言葉を知ってはいてもどういうもんか経験したことがないからな。そんな連中に、祭りをやるからタダ働きしろ、っと言ったところで良い顔はしないだろうさ」
「要するに、見返りがいるんだ?」
「だが、金は駄目だぞ。金で釣ろうとすると、逆に頑なになる連中も多いからな」
「それで、悩んでるの?」
「そういうことだ」
なるほど、なるほど、まさにグッドタイミング!
私はポンと掌を打った。
「だったらさ、暖房の道具をみんなに配ったらどうかな?」
「ストーブとかか? そんな高価なもの受け取ってくれんぞ」
「違う違う。もっと小さい携帯式のね、道具があるんだ。その名も、カイロだよ」
土佐の割れ刀、からのアイデアの使いまわしです。
申し訳ない。