ロッカに卍固めをされたとか、マジ?
短いです!
でも1日1回投稿!
「ど~ゆ~こと!」
ぐええ! 現在、激昂してロッカに卍固めを決められております、リリンシャールでっす!
孤児院で幼児ジャックに教えていたのを見ていたらしい。なんという才能!
それにつけても…タップの意味も教えとけばよかった! 体をパンパン叩かれたら、それはギブアップの意味なんですよロッカさん!
ぐえええええ!
「ちょっと、やめてあげなさいな」
まさに天使! サシャが言って、ようやくロッカは私を開放してくれた。
ロッカの部屋のふわふか絨毯に力なく寝転がってしまう。
…それにしても、ルームメイトを他所の部屋に行かせておいてよかったね。こんなところを見られたら、ロッカのおしとやかなイメージは丸潰れだから。
「いてててて」
私はようよう立ち上がった。
良妻のサシャが、私の体をはたいてくれる。
まぁね。ロッカが怒ってるのも分かるんだよ。だって、お祭りで私が『美味しいもの』を提供するということは、当然だけど私だけで大量の料理をこさえることは不可能なわけで、イコール、不特定多数の人にレシピを公開して手伝ってもらうことになる。そうなると、もしかしないでも遠からず王都にまでレシピは広まってしまうわけで、ロッカの『美味しい料理で王都の貴族や商人の胃袋をおさえちゃおう!』計画が水泡に帰してしまうのだ。
「ロッカさんや、ロッカさん。フェクターさんからの言伝を聞いてくださいな」
ぷんすか怒っている彼女に、私は声をかけた。
「あのね、どうしたってメリニ将軍の要請を断れなかったんだって。あそこで断ってしまうと、街の人からのやっかみも含めて、この街での商売が立ち行かなくなる可能性もあった、と言ってました」
「完全に誤算だったわ…!」
「だよね、お祭りだなんてねぇ?」
ロッカに私は同意したんだけれど
「違うわ、違うのよ。誤算だったのは、あなたの影響力よ。他の商人や職人さん達への好感度は計算のうちで、リリンを独占してしまったことに関しては、あとでグリングランデ商会からお詫びなりしてどうとでもなったけど。まさか、食で兵士さんや暮らしている人たちの気持ちを鷲掴みにして、暴動寸前になるだなんて思わないじゃない!」
「いや~、私もそこはビックリだったよ」
メリニ将軍やケンプさんに訊いた話だと、私の料理を食べた人たちから口伝でドンドン噂が尾ひれをつけて広まったらしいんだよね。そのうちに、食べた人と食べてない人とのあいだで『不公平だ!』『ずるい!』なんていう喧嘩まで起きてたとか。
たかが食べ物で、と馬鹿にすることなかれ。美味しいものは音楽と同じで人の心を魅了するのだ。
「でも、確かにリリンの作る料理は独創的で、この世の物とは思えないほど美味ですもの」
「ああ~どうしよう…。リリンの料理は、王都で成功するのに必要だったのに。ママに何ていえばいいのか…」
「いやいや、そこは安心してちょうだいな。ちゃんと考えてるから」
「だって…」
「まぁ、お聞きくださいな。そもそも街の人達にくまなく配れるほど大量のブイヨンやフォンを用意するとなると、材料の牛や鶏がどうしたって足りないし、それに薪だって街中からかき集めても不足するでしょ?」
「そう…ですわね。牛や鶏といった材料はグリングランデ商会が用意できるかもしれませんけど、薪はこれから寒くなることを考えると他の街や村から仕入れるにしても追いつかないでしょうね」
そうなのだ。ブイヨンやフォンはとにかく煮込まなければならない。そうなれば、燃料の薪だって莫大な量になる。私の場合は廃材を使わせてもらったから、ほとんど費用は掛からなかったけどね。
「ということで、ロッカに教えて、前にこさえたような料理は、今回はつくりません。それにね、暴動寸前になるほどみんなは美食に飢えてるんだよ? ここでお祭りの日まで待ってもらったとしても我慢できないだろうしね」
「けどさ、だったらどうするのよ?」
「そこは、おまかせあれ」
私はニヘヘと笑ったのだ。