お祭りをすることに決まったとか、マジ?
本日の投稿、すべりこみセーフ!
メェ将軍(仮)はマジで本当に偉い人だった。
どれぐらいかというと……私は今、政庁のいっとう上の階にあるオフィスにいるのだ。それはつまり、メェ将軍はこの街の町長さんだということで、魔獣のほとりの砦の街をまかされる町長さんは、軍の将軍でもあるわけで…。
佇立した私は執務机越しに、座っているメェ将軍と対峙していた。
私の横には、アゼイ。それに院長とケンプさん、くわえて何故だかフェクターさんがいる。
アゼイは私の守役だからココにいるのは分かる。院長も、いってみれば保護者だし、ケンプさんは騒ぎの渦中にいたから証言を求められてだろう。でも、フェクターさんが分からない。
というか…!
またしても私ってば、無実の罪で弾劾されるのだろうか。
今回に限って言えば、私は何も悪いことしてないのに!
「さて、全員揃ったようだな」
ヤギ髭を一回しごいて、メェ将軍(仮)は口火を開いた。
「我が院の見習いが、まことにすみません」
さっそくとばかりに院長が頭を下げようとすると
「謝ることなんてないんだ、ジャッキー」
そう言ったのはケンプさんだ。
「騒動はワシが引き起こしたようなもんで、リリンは何も悪くないんだ。だというのに、わざわざジャッキーまで呼びつけやがって」
ジロリとケンプさんがメェ将軍(仮)を睨む。
「ふん! つーか、なんでおめぇがいるんだ。呼んでないぞ、オレは!」
「ワシがいたら、困るのは何でだ? ああん? おおかた、話し合いの後でジャッキーを食事にでも誘うつもりだったんだろうが?」
「だとしたら、何だってーんだ!?」
メェ将軍(仮)がガタンと椅子を蹴立てる。
「35年前に振らてんだから、いいかげん諦めろってんだよ!」
「おめぇこそ36年前に振られてるだろうが!」
ああん! おおん! とケンプさんとメェ将軍(仮)が睨みあっていると
「いい加減になさい!」
院長の雷がおっこちた。
「「 はい 」」
子供のように素直に従う初老の男の人が2人。なんだか可愛いぞ。
……え~と。整理しようか。
まず、ケンプさんとメェ将軍(仮)は知り合いで、仲が悪い。
そして…2人とも、ずーと昔にアタックして振られている。
その相手の人の名前はたぶんジャッキーさんで……まさか…だけど…ジャッキーさんというのは…院長のこと、かな?
私は信じられない思いで院長を見た。
人に歴史ありだ。
院長はプンスカ怒りながら、言った。
「それで、わたくし達を呼んだのは、どういった用件なのですか? どうにも、リリンシャールを非難する様子ではないようですが」
「ああ、それはもう。リリンシャール嬢が悪くないというのは分かっている」
あら、そうなの、ホッとひと安心。
「では、何故?」
「祭だ」
メェ将軍(仮)は座りなおすと、鼻息も荒く言った。
でも。本人はともかく、私たちはクエスチョンマークである。
「てめぇ、て奴はいつもそうだ。おう! メリニ、もっとしっかり説明しやがれ!」
「だからだな! この砦ができて、直に100年だろうが」
「メリニは、それを記念して、お祭りがしたいのですね?」
「さすがジャッキー。オレの言わんとすることを良くわかってくれた!」
院長が補足して、メェ将軍(仮)改めメリニ将軍が大満足そうにうなずく。
「そこで、だ! まず、アゼイ・ワード」
と将軍がアゼイに視線を向ける。
「お前には祭の準備を任せたい」
「何故、自分なのです?」
「だって、お前。暇だろ?」
今明かされる、衝撃の事実。
え? アゼイってば……暇なの?
私の視線に、アゼイが居心地悪げに身じろぎする。
「自分は暇というわけでは」
「そんなことを言うが、しょっちゅう鍛錬場にいるではないか。ミューゼ家からの預かりのお前には大きな仕事を回せないし、他の連中よりは暇だろ?」
「それは…そうですが」
「ということで決まりだ。アゼイ・ワードには祭の企画と進行をまかせる」
次に。と、ケンプさんを見た。
「おめぇには、街の連中の仕切りを任せる」
「ああん? 何でワシがそんなことを」
例によってケンプさんは口答えしようとしたんだけど、メリニ将軍は「はぁ」と溜め息をついてみせた。
「やっぱ、おめぇには出来ねぇか…」
「出来ねぇとは言っとらんだろうが」
「おお! まさか出来るのに手伝わんのか? 聞いたか、ジャッキー?」
「ああ、くそくそくそくそ! わかった、街の連中は任せとけ!」
あれよの間に転がされているケンプさんである。
やっぱり将軍ともなれば、人を扱うのが上手だ。まぁ、ケンプさんの方もわざと転がっている様子ではあるけれど。
「で、だ。ジャッキーには、シスター連中を率いて、祭のときに音楽を演奏してもらいたい。前に言ってただろ、修道院と街の連中との交流の必要性だとかを。この際だから、祭で大規模に交流してくれや」
「そういうことでしたら、是非もありません」
院長が承諾する。
ていうか、お祭向けの音楽なんてシスター達は演奏できるんだろうか?
「そして、リリンシャール嬢と、フェクターには料理を任せたい」
「料理ですか?」
「そうだ。リリンシャール嬢は美味い料理をたんと拵えてくれ。グリングランデ商会には、その食材を用立てて欲しい。無論だが、費用はコチラが受け持つ」
いやいや、お祭りの食事を私だけでどうにかするとか。どー考えても無理でしょ。
断ろうとしたんだけど。
「承りました」
フェクターさんは承諾してしまった。
いや、まぁ。フェクターさんがOKなら、私もやり様はあるんだけども。
「リリンシャール嬢はどうだろうか?」
訊かれて、私も
「出来る限り、頑張ってみます」
参加を表明したのだ。
それにしても、お祭りか。
ちょっと…いいえ、けっこう楽しみだぞ!