表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/101

メェ将軍とか、マジ?

私が修道院から出てきた途端に、何時も挨拶をする人や、見知った人や、見知らぬ人までもが集まってきた。


「おうおう、久しぶりだな聖女様(笑)」

「顔見せないから心配したわよ」

「いったい何をしでかしたのさ」

「院長さまの大切にしていた壺を割ったんじゃろ?」

「いやいや、イジリスのシンボルに悪戯いたずらしたと、俺は聞いたぞ」

「あたしはシスターたちが寝ている間に、顔に悪戯書きをしたって聞いたけどねぇ?」

「違うって! いつも通りに木登りしてて、落ちたんだろ?」

「じゃあ、怪我をしたのかい?」

「それが聞いてくれよ! 驚いたことに、無傷だったらしいぜ」


へー、とみんなが私に注目する。


いや~、言いたい放題に言ってくれますね。


娯楽が少ないから、私が謹慎された理由をみんなでワイワイ考えてたんだろう。


ま、これなら本当のことを言っても『またまたぁ』と冗談としてスルーされそうだ。


ワイワイガヤガヤ、どんどん、人が集まってくる。


私が身動きできないでいると


「のきやがれ!」


髭もじゃのケンプさんが人ごみを掻き分けて遣って来た。

強面こわもてのケンプさんはこの街でちょっとした顔役だから、喧嘩になることもなく、道を開けてくれる。


「何事かと思えば、やっぱりリリンだったか!」


「おなつかしや、ケンプさん!」


思わず抱き着いてしまう。


「お、おう?」


と照れているらしいケンプさんの髭もじゃな顔を間近に見て。


はて? 気がついた。


「ケンプさん、痩せた?」


「それだ!」


いきなりだった。ほとんど雷みたいな大声がケンプさんの口からほとばしった!


耳がキーンとする。


集まっていた人たちも耳を抑えてる人が大勢いる。


でも、そんなことに構うことなく、ケンプさんは顔をしかめている私に詰め寄った。


「リリン! 腹が減った、何かつくってくれい!」


「へ?」


「お前さんの手料理に比べたら、何を食っても砂の味だ! 腹が減っても、食が進まんのだ! 何か美味いものをつくってくれ!」


そんな大声が切っ掛けになった。


俺も私もわしも僕も、と集まっていた人たちが『食べたい食べたい』と騒ぎ出したのだ。


中には私の料理を食べたことのある人もいるだろう。けど、ほとんどは食べたことのない人のはずだ。そんな人達は、噂で聞いて、想像が膨らんでいるに違いない。


どちらにせよ! 暴動寸前です!


遅まきながらケンプさんが『しまった!』という顔で、私を守ってくれようとしたんだけれど、興奮した大勢の人が寄せて来て、私とケンプさんとの間をはばんでしまった。


エマージェンシー! エマージェンシー!


マジで命の危機を感じざるを得ない。


とっさに白狼を呼び出すヘアピンに手がいきそうになるけど、さすがに…。


助けて~! と揉みくちゃにされながら、冗談抜きで『死』を感じた時だった。


「鎮まれ!」


とケンプさんに負けないほどの怒声が響き渡った。


殺気すら帯びた声音に、暴徒寸前の人達が怯んで押し黙る。

そして、カツカツとひづめの音をさせて遣って来た騎士さまを見るや、一斉にひざまずいた。


コントみたいだ。


そんな場違いなことを考えていると、袖を引かれた。


ケンプさんだ。


焦った様子で、クイクイと私の袖を引いている。


ああ、みんなと同じようにしろ、てことね。


真似をして、頭を下げる。


「すまなかったな、リリン」


「気にしないでよ」


小声で謝るケンプさんに、小声で返す。


「何事か、これは!」


馬上から、ヤギ髭を生やしたおじさんが見渡して訊いている。

胸にジャラジャラと勲章をぶら下げて、なんだかとっても偉そうだ。


そんな風に覗き見ていたのがマズかった。

ふっと、目が合ってしまった。


「そこなシスター見習い、どういうことか説明せよ」


メェ将軍(仮)が、とてつもなく偉そうに言う。実際に偉いんだろう。


「みんなが、私の手料理を食べたいと騒ぎ出しまして」


「手…料理だと?」


メェ将軍が首をひねっている。


そら、そうだよね。


「リリン!」


と、背後から呼びかけられた。


アゼイだ。


「私の守役のくせして、おっそい!」


とは、さすがに口に出しては言えない。みんながいるし。でも、代わりに睨むと、逆に睨み返されてしまった。


目は口程に物を言うというけど。確かに感じた。


『帰って早々、こんな騒動を起こすと誰が思うんだよ!』


そう言われた気がする。


面目次第もない。


「アゼイ・ワード。そこのシスター見習いと知り合い…いいや、そういうことか?」


「ハッ!」


メェ将軍が確認するみたいに訊いて、アゼイがかしこまってうなずく。


そういうこと、て。どーゆーこと?


「では、そなたがリリンシャールか。とりあえず、話を聞かせてもらわねばならんな」


砦の街に戻って1日目。というか2時間も経ってない。


だというのに私。何やら偉そうな人のお呼び出しを受けてしまいました……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ