院長とシスター見習いとか、マジ?
短いです。
毎日、1話。投稿出来たらいいなぁ。
3人で帰参を院長に報告した後。何故だか、私だけが残るように言われてしまった。
院長が、相変わらず神経質そうなお顔で私を検分するみたいに見詰めている。
それを正面から私も見返す。
別に喧嘩を売ってるわけじゃないよ? ただ、先に視線を逸らせたら負けみたいな感じがするから。それだけ。
それにさ、勘違いしないでほしいんだけど、私、院長のこと嫌いじゃない…むしろ好感を持ってるんだよね。
彼女を見てるとさ、前世で愛読書だった『赤毛のアン』の『マリラ』を思い出すの。自分にも他人にも厳しくて、それでいて子供好き(院長が子供好きで世話好きなのは確実なのだ。だって、そうでもないと孤児院なんて後見してられないもの)で、そんな甘ったるい自分を他の人に見せないようにしている、斜め上に伸びてしまったプライド。加えると、何時もイライラしてるのも似てるんだよね。もしかして、頭痛持ちなのかもしれない。もっとも容姿でいえば赤毛のアンの外伝を実写ドラマにした『アボンリーへの道』にでてきた『ヘティ・キング』のほうが近いんだけど。
それに好感度がアップしたのは、私たちが街の外へでるためのグリングランデ商会からの賄賂? 袖の下? をシスター・ライザを経由して受け取ったこと。言い方は悪いけどさ、生きるのはお金がかかる。それは清貧の修道女だって同じ。しかも院長は孤児院だって経営してるわけだし。まっとうではないお金だけれど、それでも受け取った。受け取ってくれた。きっと院長の性格からして悩みに悩んだんだと思うんだよね。それでもさ、折れた。それは、きっと、自分が楽しむためじゃなくて、孤児や修道院を守るためで…。賄賂を受け取ったのが院長以外だったら軽蔑したんだけど、この院長だからこそ私のなかで好感度がアップしたのだ。
おっと、考えが逸れてしまった。
先に視線を逸らしたのは院長だった。
勝った! 内心でガッツポーズ!
『そんなんだから勘違いされるのよ』悪友兼親友の溜め息が聞こえた気がするけれど、そんなん知らないし、友達になれる人はなってくれるし。
院長は、半世紀前は立派だったんだろうなぁという古びた執務机から手紙の束を取り出して、それを机の上に置いた。
「リリンシャール、あなたへの依頼書、それに嘆願書です」
「依頼書は分かるのですが…」
私が留守にしている間に、市場地区や工業地区や農業地区から手伝ってくれ! と来たんだろう。なんせ、ここのことろグリングランデ商会にベッタリだったし。
フェクターさんも言ってた。やっかみが凄いって。
「でも、嘆願書ですか?」
これが分からない。
「嘆願は、市民と兵士からのものです。あなたを他所の街にやらないでくれ。きっと、そんな感じの内容でしょう。わたくしはリリンシャールが留守をしている間、1日に少なくとも10回は言われましたから」
あらま。
街の人は、院長を始めとしたシスター方と私とのあいだに角があることを感じてたんだろう。もっとも『悪辣令嬢』なんだから、それは仕方ないことなんだけどね。
前にも言ったけど、悪辣令嬢は、超過大に評価してしまうと王家への反逆者で、王家に保護されているイジリス教は、もちろんのこと王家が大事。それはシスターや院長だって。
そんなだから、私と馴れ合うわけがないのだ。
そして、ギスギスした関係を見抜い感じていた人たちが、ある日、私の姿を見なくなった。
院長やシスターは、まさか、私が外の街へ向かったとは言えないわけで。
そうなると口を濁したんだろうことは、想像に難くない。『リリンシャールには外出禁止の罰を与えています』とか、そんな感じで。私のことを知っている人は、それで納得しただろう。
…ん? 納得されても、なんだか私が納得できないけど…。
まぁ、考えてしまうと話が進まないので、置いておきましょう。
外出禁止なりの罰を与えられたにしては、あまりにもリリンシャールの姿を見ない。
あれ? もしかして追放されたんじゃ?
なんて具合に発展したんじゃないだろうか、と想像してみる。
たぶん、正解だろう。
で、嘆願書が届いたと。
「それは、その…」
ご迷惑をおかけしました。そう続けようとした言葉は、院長が手の平を向けたことで飲み込んだ。
「謝罪するようなことではありません。あなたという人間が、如何に愛されているのかということなのですから」
「それはそうですね」
えへへ、と笑ってしまう。
と。パン! 院長が両掌を打ち鳴らした。
「そういうところですよ。シスター見習いとしての自覚をもって、ヘラヘラしない!」
OH! さすがはマリラ院長(仮)。
私は咄嗟に表情を引き締めた。
「それで、いいのです」
私は、ありがたく嘆願書と依頼書の山を受け取って、胸に抱きしめた。
「皆に、顔を見せてきなさい。むろん、言っていいことと悪いことの区別はついてますね?」
「はい、ついてます!」
言いながら、私はヘラリと顔が弛緩してしまうのを我慢できない。
だって、私を待っていてくれる人がいたなんて。嬉しいじゃない!
はぁ。と院長が眉間を揉みながら溜め息をつく。
そして、手の平をヒラヒラさせた。
行っていい、ということだ。
「失礼します」
と踵を返したところで
「リリンシャール」と呼び止められた。
振り返る。
院長は…
「お帰りなさい」
ちょっとだけ。ほんのちょびっとだけ、微笑みながら、言ってくれた。
サシャにもロッカにも院長は『お帰り』と言ってない。だって、2人はお客様だから。
でも、私には言ってくれた。
私は…
「ありがとうございます」
深く深く頭を下げた。
認められたのだ、ようやく認めてもらえたのだ。
涙がポツポツと床に落ちる。
しばらく、私は頭を上げられなかった。
だって、泣き顔をみられたら「シャンとしなさい!」そう言われただろうから。
私はシスター見習いなんだもの。
アボンリーへの道。は小さい頃に、母親にDVDを見せてもらいました。
僕は退屈だったんですが、母と姉は大好きみたいです。