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出発とか、マジ?

大急ぎで書きました。

用意してあった馬車は3台。そのうちの1台である、私たち女性組が乗り込むことになる馬車はそれはそれは豪勢なものだった。

外観こそボロ…失礼、長いこと大切にされたおもむきが感じられたけど、内装は広々として、クッションはふかふかで、居住性が抜群だ。


前世的にいえばリムジンだろうか。さすがはグリングランデ商会。


「でも、なんでこんな外観なのかな?」


「貴族に目を付けられないためよ」


ロッカが言うけど、説明不足で分かりませんのよ?


すると、サシャが補足してくれた。


「成り上がりの平民が、自分たちの物よりも立派な馬車に乗っていたら貴族はどう思うかしら?」


「なるほどね」


絶対に因縁をつけられるよね。平民のくせに生意気だ!って。ジャイアンみたいにさ。


「ホント、貴族ってろくでもない」


私はプンスカして言ってしまってから


「あ、え~とね、サシャは別だよ」


とジト目をして私を見ていた侯爵令嬢をフォローした。


「あのね、リリン。あなたも一応は貴族だったんですからね」


「自覚がないって怖いよね」


うんうん、とサシャとロッカが頷き合って、私をそこはかとなくディスる。

最近の2人は、私をいじることを覚えてしまったらしくて、何時もこうして攻撃するのだ。


でも! 今日は私はバリアがある。


「シスター・ライザ、2人がいじめるんですよぉ」


私はバリアである年長者に泣きつこうとしたんだけど、彼女は既に車中の人となってふわふかのクッションに寝っ転がっていた。


わ~、駄目な大人だ。見習い3人でげんなりする。


この頃、その本性を隠さなくなったシスター・ライザなのです。

ちなみに孤児院ですが、シスターの代わりに孤児の年長組みが留守をしてくれています。まぁ、魔獣の間引きの時と同じですね。


「やぁやぁ、お2人共、体調はどうですかな?」


荷物の積み込みを指示していたフェクターさんが迎えてくれた。

2人とは言うまでもなく私とサシャのことで、チラッと車中のだらしない人を見てからの発言である。大商人にすら呆れられている彼女は、一応、私たちのお目付け役……なのだ。


「すこぶる元気です。今日からしばらくのあいだ、よろしくお願いします」


答えながらも、日本人気質の私は気が気じゃない。だって、挨拶ぐらいしないとさぁ。


「ちょっと失礼します」


と断りを入れてから、私はシスター・ライザのおケツを『パン!』とひっぱたいた。すんごい張りがあって、いい音がした!


「いい大人なんですから、せめて挨拶ぐらいしてください」


シスターはむくりと上半身を起こした。


「よろしく~」


ヒラヒラと手を振ったかと思えば、バタンと突っ伏してしまった。


……寝てるし。


「ホント、すみません」


私はヘコヘコ、フェクターさんに頭を下げた。

駄目な姉をもった気分だ。


「あの人、何でもう寝てるの?」


「たぶん、昨日寝てないんだと思う。分かるかな、明日を楽しみにし過ぎて眠れなくなっちゃう感じ。あれだと思う」


「わたくし…ほんの少しですけど、分かってしまいます」


共感してしまうところがあるのか、サシャが嫌そうに言う。

おかしいなぁ? 治癒の魔法が使えるシスターといえば、イジリス教でもエリート中のエリートで憧れの存在のはずなのに。


それから、フェクターさんは旅に同行する人たちを紹介してくれた。


雑用係の男の人が2人に、炊事係の女の人が3人。

そして護衛に…


「アゼイ!」


私は思わず大きな声を出してしまった。


お久しぶり? いやいや、そんなことないんだよ。実は2日と開けずにちょくちょく会ってたから。


なら、なんで大きな声を出したかって? だって、アゼイってばすんごい顔色が悪いんだよ。


「ちょっと、なに、腐ったものでも食べたの?」


「なんだよ腐ったものって」


「生卵とか?」


「そんなの食べるかよ」


アゼイは笑うけど、力が全然ない。何時もは『太陽だぁ? なんぼのもんじゃい、かかてこいや!』て感じなのに。


「ねぇ、無理しないで寮で休んでたほうが良いんじゃないの?」


「心配すんなって、俺はお前の護衛なんだから」


アゼイはポンポンと私の頭を優しくたたく。きっと、何を言っても無駄だろう。


私は諦めの溜め息をついた。


「しんどかったら、我慢しないで言いなさいよね」


「馬鹿言ってんな」


アゼイは言い捨てると、サシャとロッカに頭を下げて裏手へと行ってしまった。


「アゼイ殿は、リリンさん達と顔見知りですし、何よりも彼から是非にと請われたので護衛を任せたのですが」


フェクターさんがちょっと不安そうに言う。

そりゃあ、護衛を任されていながら体調管理を怠るなんて信用ガタ落ちだよねぇ。


「いえ、あいつは確かに腕利きですから。グァバも1人で銃を使って倒したことがありますし」


私が保証すると、それでフェクターさんは安心してくれたようだ。

積み荷の確認に他の馬車へと歩いて行った。


まったく。アゼイったら心配かけて。


私は、サシャとロッカを振り向いた。


すると。


2人はニヤニヤしていた。女の子特有の、獲物を見つけた笑みだ。


ロッカが、サシャの頭をポンポンと叩いた。


「心配すんなって、俺はお前の護衛なんだから」


言って、ニンマリする。


「「恋人かな?」」


2人に声をそろえて訊かれて


「はぁ?」と伝法な口調になってしまう。

「何言ってんの? 2人だって、アゼイがミューゼの家から派遣された護衛だって知ってるじゃん」


前にも訊かれたんだよね。恋人か? って。で、修道院に来るまでの話をしたら「キャーキャー」すんごい興奮してた。いやさ、実際にグァバに襲われたり、退治したから分かるけど、現実だと臭いし怖いしでロマンスの欠片もないよ、ホント。そう言ったんだけど、聞きやしなかったんだよね。


「にしたってねぇ?」


今度はサシャがロッカの頭をポンポンして、ニヘラ、とする。


OH! SHIT!


この瞬間に確信しました。この話題で少なくとも2日はいじられると。


女の子ってさ。なんで、こんなに恋愛話が好物なんだろ?

私は前世も含めて恋をしたことがないから、ピンとこないんだよね。


悪友兼親友には、砂のように乾いた女、とまで言われてたし。


う~ん、恋愛ってそんなに楽しいんだろうか?

パパもママも別に仲が悪かったわけじゃないから、問題は私という人間のそのものにあるんだろうけど。


「ねぇ」「ねぇ」とサシャとロッカが何時になくアクティブに私に話しかけてくる。


正直、面倒くさい。


私は、奥の手とばかりに「こんな話があるんだけど」と前世で悪友兼親友に読まされた少女漫画の話を始めた。


でも、これが大失敗。


「それから?」「どうなるの?」「もっと」「これからじゃないの」と、私は馬車が出発してもお話を続けなくてはならなくなったんだ。


そして、その時に話して聞かせたものがグリングランデ商会から出版されて、世の女性に大受けするのだけど、それは後日のお話。


ともかく。

4月の温かい日。私たちは出発したんだ。

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