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美味しい料理とか、マジ?

500ポイントを超えました!

拙い作品ですが、これからも頑張って書いていきます。

読んでくださった方々。心から、ありがとうございます。

人は心底から美味しいと思えるものを前にすると、声を発しなくなる。


私は今。そんなことを知ってしまった。


少しばかり早い孤児院での夕飯だった。

私もサシャもロッカも、シスター・ライザも。普段はわいわいと大騒ぎな子供たちも。私の供した具沢山のポトフとふわふわパンに声もなく黙々と食べていた。


がっつくような真似をしている子もいない。みんながみんな大切な宝物を扱うように、ひと匙ひと匙を、パンのひと千切りを、ゆっくりと咀嚼している。


「ご馳走様でした」


夕飯のことも考慮して、私の分量はみんなよりも若干少ない(サシャとロッカは、どうせ夕飯を食べないからと私よりも3割増し多い)。だから早く食べ終えてしまった。決して、早食いだったからじゃないんだよ!


満足しつつ、次はアレを拵えよう、コレも食べたいな、なんてことを考えていると


「やってくれたわね」


ロッカがテーブルの下で私の太ももを『パシリ』と叩いた。


「なんで怒ってるの?」


「逆に、何で怒らないと思うの? サシャに訊いてごらんなさいな」


というので、サシャに目を向ければ


「こんなに美味しいものを私たちに内緒で食べようとしてたんですわよね?」


これは…何時になくマジ怒ですか? 食べ物の恨みは何よりも怖いんですね…。


「い、いやだな~2人共。私がそんなことするはず、な、なないじゃん?」


「何故、そこで疑問形なんですの?」


サシャからツイと目を逸らす。


「ジャック君からサシャへの連絡網がなかったらと思うと」


「ゾッとするわね」


そこまでか。いいや、確かに私が除け者にされたと考えたら、今の2人みたいにマジ怒になったろう。そこまでの美味しさだったのだ。


ハッキリ言いましょう。


私は…自分の才能が恐ろしい!


「美味かったぁ!」


不意に幼児ジャックが歓声をあげた。抜け目なく、ついでとばかりに夕飯のお相伴にあずかっていた幼児なのである。


ジャックの声に端を発して、子供たちが口々に感想を言い合う。


みんな満足そうだ。すんごく嬉しい。


両側から何やらブーブー文句を言ってる人達がいるけど、美味しいものを食べたんだから、子供たちみたいに喜んだらそれでいいのに。なんてことを心のなかで考えながらも、とりあえず神妙な顔付きだけはして「はいはい」「まったくその通りです」なんて半分自動的に頷いていたら


「リリンシャール、話があります」


とシスター・ライザに廊下へと連れ出された。

すると、どうしてか付いてくるサシャとロッカ。私を心配しているから、というよりも文句が言い足りないんだろう。そんな顔をしてるもん。


「あの夕飯は、どういうことですか?」


「どう、と言うと?」


「あれほどの美食は聞いたことすらありません。どうして、あなたが作れるのです?」


あっちゃー、まずいですよコレは。まさか前世で食べてました手伝わされてました、なんて言えないし。たぶん言ったら魔女裁判になる気がする。シスター・ライザの性格的に。


「それは、わたくしも知りたいですわね」


公爵家で食べてましたから。という言い訳はサシャがいる前ではつかえない。基本的に実家で口にしていたものも味は塩にコショウとか香辛料だったし。リリンシャールの記憶に照らすと、王都に住む貴族の贅を尽くした美食というのは『新鮮な野菜や果物』のことみたいだ。なんせ流通がしっかりしてない世界だから、運んでくるまでに傷んでしまうみたい。だから新鮮な葉物野菜をそのまま食べるのが美食になる…らしいんだ。


「あたしも知りたいんだけど」


成り金でお金がウハウハ、なロッカでさえ食べたことのない美味しい料理。


さて…私がどうしてそんな美味しいものを作ることができたのか。


「…い、いい女には……その、えーと…秘密があるものです、よ?」


咄嗟に嘘なんて思いつかないもん!


瞬間。シスター・ライザの額に青筋が、サシャとロッカが真顔になった。


「どうしようサシャ。あたし、苛っとしちゃった」


「あら、わたくしもですわ」


「女の秘密なんて言い草は、10年…いいえ30年早いです」


30年! いい女になるのに何て長い旅路!


というかさ! なんでココまで怒られなきゃならないんだって話!


私は半ギレして3人に対峙した。


「お三方、前に私がしたドラゴンの恩返しを憶えてますか?」


もちろん原題は『鶴の恩返し』です。鶴をドラゴンに置き換えただけです。


「罠にかかったドラゴンが美女に変身して、機を織るとかいう、荒唐無稽なお話でしたね」


ファンタジー世界の人達に荒唐無稽とか言われてしまうなんて。


まぁ、そこのところは置いておいて。


「私もさ、教えても良いんだけどさ、そしたらさ、もう2度とさ、料理なんてさ、作ってあげないなんて」


「「リリン!」」


サシャとロッカが体当たりするみたいな勢いで抱き着いてきた。


「何処にも行かないでくださいまし!」


ぶわ、と涙が出そうになった。


「そんなに私と別れたく…」


「せめて料理の作り方だけでも!」


「それからなら自由にして下さって結構ですから!」


…………ええい! 私は2人を力任せに振り払った。


「冗談、冗談だって」


「そうですわ、そんなに怒らないでくださいな」


「いいえ、あの目はマジだった」


「リリンシャール」と私を呼んだのは、野生のブルーベリーを食べさせて以来、異常なほどに食い気に支配された残念美人のシスター・ライザだ。


「あなたが自称いい女だというのは了解しました」


自称……すんごい恥ずかしいんですけど。とはいえ、これは遠回しに私の秘密は問わないと言ってくれているのだろう。


「ですから、明日も食事を作ってくれるんですよね?」


「まぁ、材料費さえ出してくれるなら」


「その費用はグリングランデ商会が持つわ!」


ロッカが真っ正面から私の両肩を掴んだ。逃がさないとばかりに凄い握力なんですけど…。


「リリン、あなた、今日みたいな料理を他にもつくれるのね?」


「できるけど…」


「勝った」


その呟きに、私もサシャも「へ?」という顔をしてしまうと


「勝ったも同然! これで負けるはずがない!」


あははは、とロッカが大笑いを始めてしまった。至近距離でそんな笑い方をされると、ツバが…!


「料理に変な薬を盛ったんじゃないでしょうね?」


サシャがとんでもない濡れ衣を着せようとしてるけど、ロッカに掴まれた私は抗弁もできずに、少女の喉チ〇コをただただ観察するしかないのだった。


その後。

翌日に私はブイヨンからコンソメをつくって、更にハンバーグをつくってみた。これがまた大人気。何故だか同席していたケンプさんとフェクターさんも涙を流さんばかりに喜んでくれた。


褒められてお調子に乗るのが、私。


3日目からは好き放題にさえてもらいました。ブイヨンどころか、フォンにまで手を出して、さらにラーメンが食べたくなったので豚骨スープもどきまで頑張りました。その際にはグリングランデ商会から派遣されたという料理人さんたちが手伝ってくれたけど、彼等がいなかったらと思うとゾッとする。


何故なら、孤児院や近所の人たちどころか兵士さんや騎士さままでがお相伴に集まってきて、毎日のようにそれこそ店でも開いているぐらいの量をつくることになったからだ。

一度なんて、食べられなかった兵士さんたちが暴動を起こしかけたほどだ。

マジであれはやばかった。アゼイがいなかったら孤児院は瓦礫の山になっていたかもしれない。


で。てんやわんやの毎日で、気づけば旅に出る日になっていたのです。


あれ~? 私、なんの用意もしてないんですけど。


「それなら大丈夫です。わたくしが整えておきましたから」


ああ、シスター・ライザが着いてくるのは確定なんですね。

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