歌った結果と食の革命とか、マジ?
書くのが遅すぎる…。
時間がなさすぎる…。
頻繁に投稿できなくて、申し訳ないです。
やっぱっぱぱぱ
来ぃて見ぃて、寄ってみて
グリングランデ、しょ~か~い
ヘイヘイヘヘイ
品ぞろえは(抜群!)
お求めやすい(価格!)
おほほ
コレは行ぃかねば、なぁるまいに
歌ってやりましたよ。勢いをつけて元気よくね。
でも、サシャとロッカは照れがあって、やっぱり練習しといたほうがよかったなって感じだった。
そうして、聴いてもらった皆の反応はといえば。
フェクターさんを始めとした大人組は首をひねっている。たぶんだけど、もっとキチンとした歌らしい歌を予想してたんだろうね。この世界ってジャズが主流だし。
でも、言ったじゃん。子供に憶えてもらう歌にするって。
だからさ、ほら。
「やっぱっぱぱぱ、だって。変なの」
「しょ~か~い」
「おほほ、おほほ、おほほ」
「行ぃかねば、なぁるまいに」
子供たちには大好評だ。みんなして大笑いしている。
「リリンのおねーちゃん、もっ回歌って?」
幼児からのアンコールだ。
私たちは、もう1回歌った。
吹っ切れたのか、サシャとロッカも声を張り上げている。
ヘイヘイヘヘイ、の辺りからは子供たちと一緒になって歌った。
そして何故だかシスター・ライザも無表情でコーラスしてるし。
「どうでしょう?」
私はドヤ顔でフェクターさん達を振り返った。
不安だったり不満そうだったりしていた幹部さん達も、子供たちが大興奮して歌っている様子に感心している。とはいえケンプさんとヒックスさんは、ただただ笑顔だったけど。ケンプさんは私が歌ってるのを聴けて満足、ヒックスさんはジャックが嬉しそうで満足、そんなところだろう。
「素晴らしいですよ! リリンシャールさんに頼んで正解でした」
フェクターさんがガシリと私の手を握った。
「いやー、それほどでもありますけど」
歌に関しては謙遜しない私なのである。
「では、収録は2週間後にアッチラの街で」
「へ?」いきなりの発言に戸惑う。
「あの…収録って、この街でするのでは?」
「それは無理ですよ。この街に録音スタジオなんてありませんからね」
「ということで、来週には馬車で旅に出るよ。もちろん、サシャもね」
「はい?」
とサシャも驚いてる。そりゃーそうでしょ。
フェクターさんとロッカはお話が急すぎるんだよ。
それにさ、私たちはシスター見習いなわけで、気軽に街の外に出ていけないんじゃない?
ほら。シスター・ライザがお菓子を片手に遣って来た。お菓子を片手にっていうのが恰好つかないけど。
厳しい表情でシスター・ライザはフェクターさんの前に立ちはだかった。
「如何ほどをお考えですか?」
「これでどうですか?」
フェクターさんが指を2本立てる。
「連れて行くのは3人なんですよ、それに監督役としてシスターも1人。それで2本はないのでは?」
「では」
とフェクターさんが指を3本立てる。
「仕方ありませんね、それで院長とも交渉してみましょう」
え? え? 何この遣り取り。すんごい見ちゃいけないもの見ちゃった気がするんですけど。
サシャも若干、表情が引きつってる。
そんな私とサシャの肩にロッカが手を置いた。
「お金って怖いんだから」
ヤヴァイ奴だ!
シスター・ライザは私を向いてニヤリと笑う。
地獄の沙汰も何とやらですね。
「さ、さぁ。私たちもお菓子を食べようか」
「…そうですわね」
サシャと子供たちに混ざってお菓子をいただく。
その後は「怖がらせてごめんね」と謝るロッカと合流して、代わりに大人組みは仕事にもどって、子供たちと一緒になって飲み食いをした。
ま、たまにはこんな日があってもいいかな。
食生活を変えたいのです。
私の思いは、ただこの一点にあるといっても過言ではない。
1つ! 塩味しかしないのを改善したい。
2つ! ふわふわパンが食べたい。
ということで、遣ってきました孤児院の厨房です。
今週と来週、さらには再来週と奉仕活動はグリングランデ商会になっているので、暇なんですわ。
「食べ物で遊ぶのは感心しません」
さっそくシスター・ライザのチェックがはいるけど。
「遊びじゃないですし。美味しいスープをつくるんです」
「その材料でですか?」
シスターの眼は胡乱気だ。
それもそのはず、私が市場から捨て値で購入してきたのは『固いから食べられないよ』と忠告された牛スジ肉と牛すね肉、それにタダでもらった牛の骨。加えて、市場を散策してみつけたセロリや玉ねぎ、ローリエやタイムの代わりになる香味野菜である。この香味野菜も、クセがあるとかで人気がなく、二束三文で購入できた。
この世界の誰がどう見ても、くず肉とくず野菜だ。
でーーも! お分かりでしょう。これだけの物があれば、ブイヨンが作れると。
ブイヨン。それは煮込み料理やスープに欠かせない出汁なのだ。
本当は鰹節や昆布があればよかったんだけど、ココは内陸だし、そもそも鰹節があるか分からないからね。そこで牛からつくるブイヨンに手を出したってわけ。
ん? なんでブイヨンなんて代物の作り方を知ってるんだって?
それは勿論のこと、例によって悪友兼親友が関係しているのです。
女子力激高のあいつの趣味は料理。私は付きっ切りで手伝わされたわけですわ。
興味津々の子供たちに手伝わせて、骨を洗わせる。それから、牛スジ・すね肉と骨を寸胴に突っ込んで下茹でだ。
グツグツと煮込む。アクがドカドカでてくるけど気にしない。これは材料の臭みなのだ。
この時点で見守っていた子供たちは「くッせー!」と逃げ出してしまっている。
たしかに臭い。でも、これを乗り切った先には美味しい料理が待っているのだ。
下茹でがすんだら、いったんゆで汁を捨ててしまう。それから新しく水を汲んで、強火で煮込む。
正直、この時ほどコンロに魔石が使われていて、火力の調節が自在なのを感謝したことはない。もしも薪なんて使われていた日には、絶対にブイヨンなんて作れなかったろう。
たんねんにアクを取り除く。
こういう地味な淡々とした作業は好きなんだ。
それからお次は、ざく切りにした香味野菜を投入。
火力を落として、再び浮いてくるアクを根気よく取り除く。
ふんふふふふーん♪ と鼻歌を口遊むこと3時間。
これを
「ヘループ! シスター・ライザ!」
呼び寄せた彼女に手伝ってもらって、煮汁を布で漉すのです。
この時に注意すべきは、乱暴にしないこと。せっかく透明なのに濁っちゃうからね。
「意外と美味しそうですね」
「意外は余計ですけど、これはマジで美味しいですよ」
ここで、いったんシスターには退場していただきましょう。
「ほらそら、出て行ってください」
ヨダレを垂らしそうなシスター・ライザの背中を押して厨房から追い出す。
…他人のことは言えないけど、腹ペコ顔を隠そうともしない美人って残念だよね。
厨房に戻った私は2つ目の課題に取り掛かる。
すなわち、ふわふわパンであります。
私は厨房のテーブルの上に乗せておいた塊に目を向けた。
濡れ布巾を払えば、ほーら、発酵した生地がある。指で押すと、凹んでもゆっくりと元に戻るではあ~りませんか。
「エクセレント!」
感激っすわ。
そもそもパンがふわふわになるのは発酵するからなのですが、前世ではドライイーストなんていう決して失敗しない便利な代物がありました。しかるに、この世界にはドライイーストはありません。発酵させるのには酵母を手作りするしかないのです。
で、手を出したのがリンゴに似た果物。これを熱湯消毒したした瓶のなかに皮ごと切って投入。さらに水を注いで、陽のあたらない涼しい場所…すなわち私の部屋にほっぽっておきます。するってーと、あーら不思議。3日目あたりから泡が出てきて、さらに4日目には蓋を開けるとプシュとガスがでるようになります。
ほい、これで酵母の完成。
この超微炭酸のリンゴジュース(仮)と小麦粉を消毒した容器の中でまぜまぜ。
放置することの6時間。無事に膨らんだら、それがパン種です。
ホントはここから更に水や小麦粉を足していくんだけど、今回は私のお腹と相談してそんな時間をかけていられないので、この少ないパン種だけで生地を練ってみました。
「でも、ここまで膨らむとは」
まさしく予想外。パン種が少ないから発酵も弱いと思っていたんだけど。これが異世界ということなのか!
私はこの異世界パンを小分けにして丸めて成型すると、窯のなかに突っ込んだ。
嬉しいことに、孤児院には大型のパン窯があった。なんでも、お金がないのでパンは自前でつくっていたらしい。もっともそれは過去の話。今は健康水やらピーラーをつかった兵士さんの厨房の手伝いやらで収入がグンと増えて、ちゃんとしたパン屋さんでパンを買ってるようだ。
パンを焼いている間に、ブイヨンを使ってポトフをつくる。
市場で買ってきた色とりどりの根野菜をざっくざっくと切って、鍋に入れて炒めてから、水と塩を加えてしばらく蒸します。そして水がなくなったら、再び水を追加して蒸す。これを3回。面倒くさいけど、この工程で野菜の甘味が凝縮するんだって悪友兼親友が言ってた。
それから葉野菜を投入。お肉は高いから無しの方向で。
ココでシスター・ライザ秘蔵の白ワインをちびっと拝借して、性懲りもなく蒸します。
へいへい、そろそろパンのいい匂いもしてきたぞ!
鍋にブイヨンをザバーと加えて、塩と胡椒で味を整えます。
ふんふん、これで完成じゃないんだな。隠し味でスダチもどきの皮を削って、と。
出来た!
ついに…ついに私はやり遂げた!
「ちょっと味見を」
小皿でポトフの味見をした私は……マジ泣きしてしまった。
味がしっかりしてる。美味しい!
「スパスィーバ!」
あれ? これってロシア語で『ありがとう』って意味だったけ。まぁいいや。
さらに、パン焼き窯からふっくらしたパンを取り出す。
感無量だ!
「う、ううううう」
泣いてしまってもいいじゃない。
そんな、しゃくりあげてる私の左の肩に
「泣くほど美味しいんだ」
右の肩に
「わたくし達もいただけますわよね」
ポンと手が置かれた。
「う、うううううう」
私は自分の食べる分が減ったのを確信して、マジの涙を流すのだった。