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歌を聴かせてあげましょうとか、マジ?

初、レビューをいただきました!

ジプシースズキさん、ありがとうございました!

凄い励みになります。


あと「嫁にしたい」と書いてあって、リリンのモデルにしている姉が恥ずかしがってました。

あはははははは(o^∇^o)ノ

大笑いしてやりましたとも!

「じゃ、行きましょうか」


廊下のモップがけを終えた途端に、私は猫かぶりをしたロッカに連れ出された。


「ちょ、そんなに急がなくても」


「だめだめ、時は金なりって教えてくれたのはリリンでしょ。至言だわ、パパも感心してたわよ」


ポロリと口にしてしまった前世のことわざなのだけど、ロッカは酷く感銘を受けてしまったみたいなのだ。

何かというと『時は金なり』と言うようになってしまった。


けど、その生臭いことわざと、おっとり顔のロッカとの組み合わせのそぐわないことと言ったら。私かサシャの前でしか口にしないこととはいえ、聞かされるたびに、笹しか食べないと思っていたパンダが実はお肉も食べるのだと知ってしまった時のような、モヤモヤ感に襲われてしまう。


ともあれ。

ロッカは途中でサシャも連行して、グリングランデ商会が所有する4階建ての建物へと急いだ。


「それにしても、リリンって人気なのね」


ふと、ロッカがそんなことを言い出した。


「たしかに孤児たちというか、小さい子供達には引っ張りだこですわね」


「私は常に子供たちの遊びの最前線にいるからね」


フフン、と胸を張る。近頃では高鬼とあっち向いてホイ、そしてそして異世界転生のド定番であるところのリバーシを牛乳瓶のふたで再現して大流行させたのだ!


すると「そういえば!」とロッカが詰め寄ってきた。

「リバーシだったっけ? あーいうのは広める前に教えてよね。せっかくのお金儲けのチャンスなんだから」


リバーシの流行に目をつけた木工職人たちが、本格的なモノを売り出しているのだ。むろん、グリングランデ商会も私も噛んではいない。そのことがロッカには不満らしい。


「あー…。でも、ああいうのは思い付きで作っちゃうからなぁ」


「そーいうとこ! そーいうとこがリリンはお嬢様なんだから! 儲けられるときに儲けとかないと!」


「そうは言うけど、グリングランデ商会は充分に利益を上げてるんでしょ? これ以上、1人勝ちしてるとねたみやそねみが出てくるよ?」


「そうですわよ、そういうガメツイところが成り上がりと馬鹿にされるんですわ」


私とサシャに注意されて、ロッカが「うぅ」と言葉に詰まっている。


「分かったわよ。パパにも口を酸っぱくして言われてるし…気をつける。というかね」


ロッカは「あたしが言いたかったのは違うのよ」と言った。


「リリンは人気で、奉仕活動で引く手あまただって言いたかったの、あたしは」


「そんなにですの?」


「そりゃーもう。さっきリリンが妬み嫉みとか言ってたけど、グリングランデ商会がここのところリリンを束縛してるせいで文句が凄いんだから」


「私って、ほら、働き者だから」


鼻高々で言っちゃうもんね。メンタルが日本人だから、手抜きができないんだ。といっても完璧主義とは違うんだけどさ。


サシャとロッカが揃って私のことを見る。そりゃーもうマジマジと。


褒めてくれるのかな、と思ったら。


「働き者の元公爵令嬢だなんて」


「ありえないよね~」


うんうん、と2人はうなずいてる。


あれ? なんか…褒められてない…ような?


「何時も歌ってるしさ」


「木登りもしますわよね」


「このあいだなんて、3秒ルールとか言って落ちたお菓子を食べようとしてたよ」


「あ、あれは部屋のなかだったし」


「それでしたら、孤児院の子供と本気で喧嘩をしてるのをわたくしは見たことがありましてよ」


「違うから! 本気じゃなかったし」


「だったら、あたしはね」


…と。何でか私のディスで盛り上がりながら、私たちは目的の場所へと着いたのだった。


あれ~? なんか納得いかないんですけど。

というか、何でそんなことまで知ってんのってコトまで把握されててビックリだわ。






「お、来たな3人娘」


会議室に入って一番に出迎えてくれたのはケンプさんだった。


「あれ? なんでケンプさんが」


「リリンのつくった歌とやらが聴きたくてな。抜け出して来ちまった」


ヌハハハハ、とかモジャモジャの髭を震わせて笑ってるけど、いいのかな?

今って、包丁づくりで猫の手も借りたいはずなんだけど。


そう思ってフェクターさんを見れば、仕方ないという風に苦笑している。


私とサシャ、ロッカはグリングランデ商会の会議室へと通された。


居るのはケンプさんの他に、幼児ジャックと、そのお父さんのヒックスさん。グリングランデ商会の幹部さんが3人と、もちろんフェクターさん。それに加えて、歌の反応をみるために孤児院からお招きした下は4歳から上は12歳までの子が10人。その子たちの監督役でシスター・ライザ。


総勢18人。これだけいると、広々とした会議室が手狭に感じてしまう。


「というか…。シスター・ライザはリラックスし過ぎじゃありませんか?」


用意されたお菓子を1人でパクついてるんですけど。子供たちですら我慢してるのに。


「いただいても良いとお許しを貰ってますから」


そうは言っても、実際に食べ始めるとは思っていなかったんだろう。一見しただけだと、シスター・ライザはお淑やかな美人に見えるからね。幹部さん達とヒックスさんの顔が引きつっている。

ちなみにフェクターさんは健康水の関係でシスター・ライザの傍若無人ぶりを知っているのでどうということもない。ケンプさんはといえば、興味がないみたいだ。さすがに職人。


会議室に入ると、さっそくサシャとロッカはシレッとした顔つきで私から離れて聞き役に回ろうとした。


そこで私は『パチン!』と指を鳴らす。


合図に動いたのは2人。


「サシャねーちゃん、俺、ねーちゃんの歌が聴きたいなぁ」


まずはジャックだ。6歳児という愛らしさを全開にしてサシャに迫っている。


サシャは、ハッキリ言うけどジャックに弱い。困ったようにジャックを見下ろしていたけど


「オレもサシャさんの歌を聴いてみたいな」


という、垢ぬけてきたと評判のヒックスさん(グリングランデ商会にお勤めの20歳以上の女性による聞き取り調査)の鶴の一声で、陥落した。


機動戦士ガン〇ム最終話の脱出艇でアムロを迎えるセーラさんみたいに両手を広げてサシャを迎える。


「お帰り」


「やってくれましたわね」


サシャがうなる。


おーこわいこわい。


そして。私の合図で動いたのは、もう1人。フェクターさんだ。


「王都で店舗を準備しているママも、きっとロッカの歌声を楽しみにしていると思うよ」


そうきましたか。てっきりお小遣いを減らすとかそういう方向だと思ってたんだけど。


「うう…」


ロッカは『ママ』に弱いみたい。ゴニョゴニョと言ってたけど、果たして私のこの広げた両手のなかに戻ってきた。


「お帰り」


「いつ連絡とったの?」


「昨日、あれから直ぐにね」


2人に歌わせるために、グリングランデ商会まで出向いたのだ。そこにヒックスさんが居合わせたのは、手間が省けて本当にラッキーだったけど。


私は今月一番の輝かんばかりの笑顔で訊いた。


「ぶっつけ本番だけど、歌えるよね?」


基本、子供でも歌いやすいように考えただけあって、問題なしに歌えるはずだ。

ま、練習してたらもっと良かったんだけどさ。


2人は不承不承でうなずく。


「あらまぁ。そんな顔で歌っても楽しくないでよ? ほら、笑顔笑顔」


「う~~~~分かった! もう、分かりました! 笑顔で歌えばいいんでしょ!」


ロッカがニッコリコと作り笑顔をはりつける。


「ほら、サシャも観念して」


「あとで憶えてなさいよ」


サシャがお上品なスマイルをかぶる。


流石というべきか、2人の微笑は完璧だ。


「パーフェクッ」


拳の親指だけを立てて『GOOD』だとサインしてあげると、その拳にサシャとロッカが無言のまま怒ったように拳をカツンとぶつけてきた。


そういえば前世では、よく悪友兼親友と拳を突き合わせて気合を入れてたっけ。むろん、そんな意味だとは2人とも知らないんだろうけど…。


思い出して「えへへ」と笑ってしまう。


「さ、私たちの歌を聴かせてあげましょう!」

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