デビューが決まったとか、マジ?
毎日、投稿してる人って凄い!
僕は、ここら辺で限界です…。
なんで~も揃うよ (裏声で:品揃え抜群!)
価格~も抜群 (裏声で:安すぎ!)
グリ、グリグリグリ、グリングランデ (パンパパンパン! と手拍子)しょ~かぁい!
私は即興で歌をつくって歌ってみせた。
みんなは、なんか呆然としている。
「な、なるほど。ラジオで今の歌を流したなら」
「すんごいインパクトになるね!」
再起動したフェクターさんの言葉に、娘のロッカがうなずく。
「リリンって、変な才能があるのね」
「まったくのう」
一方でサシャとケンプさんは、私のこの溢れ出る才能に感心している。
いいですことよ、もっと評価してくださいな。
フンス! と腰に手をあてがって鼻息が荒くなる私である。
「今のはあくまでも仮の宣伝歌ですが、本格的につくてもらうにしても守ってもらうことが2つあります」
私は指を2本立てた。
「その1ですが、簡潔な分かりやすい歌詞にすること」
ふむふむ、とみんながうなずく。
「その2は、耳に残るテンポにすること」
「どうしてなの?」
とサシャが絶妙な間合いで疑問を口にしてくれる。
「いい質問ですね。何故ならば、子供に憶えてもらうためです」
「おいおい、グリングランデの客は子供じゃないんだぜ」
「これまた、いい疑問ですねケンプさん。それはですね、ラジオを聞いて歌を憶えた子供が歌ってくれるのを期待してのことなんです。家族団らんの時に、路地で遊びながら、子供がグリングランデ商会の歌を口にしてくれたのなら、その宣伝効果はラジオでただ流すだけよりも何倍も効果的だと思いませんか?」
「そういうことか!」
「孤児院の子たちが健康水の歌を口にしているのと同じことですわね」
「そーいうこと」
フェクターさんとロッカがブルブルと震え出した。
と!
「パパ!」「ロッカ!」
親娘がガッシ! とばかりに抱き合ったではありませんか。
「これは勝ったも同然ね!」
「ああ、これで負けるはずがない!」
ウハハハ! アハハハ! と2人は大笑いを始めた。
「商人の親子って、みんなあんな感じなのかな?」
私がボソリと疑問を口にすると
「いや、それはない」
「ありえないから」
ケンプさんとサシャが揃って否定した。
「あいつの所は普通じゃない」
「一般的に、グリングランデぐらい大きな商会になると家族との付き合いも貴族と同じで薄いものよ」
「「ということで!」」
いきなりロッカとフェクターさんが私を振り向いた。
「「期限は2週間後までということで」」
「…なんのことですか?」
「やだぁ」ロッカがオバサンめいた仕草で手をヒラリンと払う。
「グリングランデ商会の宣伝歌をつくってくれる期限よ」
「へ?」
「王都への出店や、現地のラジオ局との契約、さらには宣伝歌の録音など諸々を考慮して、2週間ですな。もちろん、リリンシャールさんには礼金も払いますぞ」
いや…いやいやいやいや、何で私が考えることになってんの?
「あ、それと宣伝歌を歌うのはリリンと、それにサシャもだからね」
「はぁ!?」
と淑女らしからぬ声を出してしまうサシャだ。
「な…なな、何を仰ってますのかしら?」
「いいじゃん、いいじゃん、ついでだよ、ついで。思い出作りだよ」
ロッカは他人事だからヘラヘラしてたけど
「なるほど、思い出作りか。それならば、ロッカも録音に参加しなさい」
父親から思いがけなかっただろうことを言われて、当事者となってしまったみたいだ。
「ちょ! パパ!?」
「ロッカさん!?」
フェクターさんにロッカが縋りついて、ロッカにサシャがしがみついて、混沌としてる。
これってもう…出来ないなんて言えた雰囲気じゃないじゃん。
ポン、と肩に手を置かれた。ケンプさんだ。
「リリンも難儀な友達をもったもんだな」
「ですねぇ」
私は肩をすくめる。
前世ではメジャーデビューできなかったけど、今世ではいきなりラジオで歌が流れることになりそうだった。
あれから1週間。
グリングランデ商会から満を持して売りに出されたピーラーは、瞬く間に街を席巻した。
それというのも、実演販売が効果的だったみたいだ。
「ピーラーなんて言われてもピンとこないだろうから、実際に使いながら、こんなに素晴らしいんですよと口上しながら売ったらどうかな?」
前世でみた『男〇つらいよ』を思いだしながら何気なく言っちゃったんだよね。
それが、またしても仲良し親娘の琴線に触れたらしく、私は某柴又のお人の物真似をしてピーラーの叩き売りを実演してみせたのだ。
いやー、寅〇んって好いよね。私、大好きなんだよ!
ということで、今ではご家庭の主婦はもちろん、お手伝いをする子供用に、プロのコックさんですら、ピーラーを所持している始末だ。
ケンプさん……寝る間も惜しんで量産してたもんな…。
で。私はといえば。
ついにピーラーを使うことがありませんでした。
だって、私だけ厨房でピーラーを使ってたら、絶対に目立つでしょ? 注目されたら『それは何?』って訊かれて、最終的には真似されちゃうもん。
え? 砦の街で流行したピーラーが王都で真似されないかって?
それは心配ご無用ってもんですぜ。
なんせ、この街は辺境も辺境だからね。王都のほうから来る行商も馬車隊も、まさか面白いものがあるかな? なんて聞き取りはしないから。
…そんな辺境から王都に出店しようとしているグリングランデ商会の冒険心は素直に凄いよ。
ピーラーのバカ売れで、ケンプさんはウハウハ、フェクターさんもガッポガッポ、ついでに私も小銭をいただいた。
でも私の気持ちは重い。
だって…だってさ! 宣伝歌がちーーーーーとも思い浮かばないんだよ!