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ケンプさんに助言してたらグリングランデ商会が関係してきたとか、マジ?

つまーり、ケンプさんの鍛冶処にぼちぼち仕事が来たらいいわけだ。


そんなことなら簡単。


「ならさ、剣じゃなくて包丁を打ったらいいんだよ」


「包丁?」


「そ、包丁。私ね、今、厨房で奉仕活動してるんだけど、使わせてもらってる包丁が全然切れないんだ」


「ああ、それは削りだしの刃物なんだろうよ」


言って、ケンプさんは教えてくれた。削り出しというのは、金属を金型に流し込んだ物に旋盤などを使って刃を加えることを言うんだって。それに対してケンプさんの鍛冶処でつくっているのは鍛造たんぞう。これは金属を叩いて形作る方法で、鋳造の品物とは強度と粘りが全然ちがっているらしい。


「しかし包丁ですか。やはり、リリンシャールさんは目の付け所が違いますね」


フェクターさんの褒め殺しが止まらないんですが。

私ってば、褒められて伸びるタイプだから、グングン伸びちゃうぞ!


「厨房の料理人さんも、みんな切れる包丁を欲しがると思うんですよね。増してケンプさんのとこは軍から受注してるほどなんでしょ? ブランドとしての魅力もあると思うんだよね」


「ブランドだ? なんだそりゃ」


ありゃ。ブランドって概念がないのか。


「うーんとね。簡単に言うと、これを持ってるとカッコイイと思えるイメージみたいな?」


改めて説明するとなると難しい。


「イメージ?」


ケンプさんも首をひねってるし。


でもフェクターさんは分かってくれたみたいで。


「付加価値というわけですね」


だって。


「確かにケンプのつくる包丁は、それだけで非常に前向きなイメージにつながる」


これは凄いことだ! フェクターさんは独り言ちてる。


「ケンプ! 俺から頼み…いや、お願いがある。今度、俺の商会が王都に進出するのは知ってるだろ。その時にお前のつくる包丁を目玉商品にさせてくれ。とりあえずの注文として1000本だ」


「お? おおおお…」


ケンプさんが動揺してる。私は、彼の背中をバン! とどやした。


「凄いじゃない! 1000本だって! それにピーラーも作らないとだし、大忙しだよ」


「そうか…そうだな! 大忙しだ!」


わはははは、とケンプさんが嬉しそうに大笑いする。


それはそうと。


「フェクターさん、王都に進出するんですか?」


「ええ、そうなんですよ。リリンシャールさんの健康水のおかげで、我がグリングランデ商会も体力がつきましたからね。ここで手を広げてみようかと思いまして」


「ええ! 私が原因なんですか?」


スッゴイ責任を感じるんですが。


「なんて、冗談ですよ。いくら何でも、健康水の収益だけで王都の進出なんて考えません。前々から企画していたことですから、そんな深刻な顔をしないでください」


フェクターさんは眼尻に皺をよせて上品に笑う。

これはモテる男やで! なんて内心は隠して、私は訊いた。


「王都の進出ってむずかしいですよね。勝算はあるんですか?」


こう見えても私は王都に住んでたからね。地方から王都に出店したものの『しょせんは田舎者』だという偏見で閑古鳥が鳴いて、物が売れずに王都から撤退したという話は、令嬢仲間の笑い話でしょっちゅう聞いた。


「勝算は、正直に言ってあまり。それでも、王都への進出は商人ならだれもが夢みることですから」


「そういうもんなんですか?」


「そういうもんなんだよ!」


と誰かに背後から覆いかぶされて、私はびっくり仰天!


「こら!」


とフェクターさんに叱られているのは、私と同じシスター見習いでフェクターさんの実の娘のロッカだ。


「ごめーん」


ちっとも悪びれてないゴメンだけど、ロッカは私の前だと真面目の仮面をぬいで、こんな感じだからね。


「許してしんぜる」


「ははー」


ロッカは冗談ごかして頭を下げる。


「あんた達、いっつも同じことしてるわね」


とロッカの後から入ってきたのはサシャだ。


「あれ? サシャとロッカが一緒にケンプさんのとこまで来るなんて珍しいね」


それ以外で2人が一緒にいるのは珍しくもないんだけど。特に他の見習いの目がない孤児院だと、2人はいつもじゃれてるイメージがある。ていっても、ロッカが一方的に馴れ馴れしくしてる感じなんだけど。それでもサシャが邪険にしていないのは分かるわけで……サシャはツンデレさんなんだよねぇ。


「相談したいことがあってリリンを迎えに行ったんだけど、ひと足違いでさ。遠くのほうにリリンの背中が見えて、ケンプさんの鍛冶処のほうに歩いていくもんだから、それなら道行きのついでに孤児院に寄ってサシャも誘ってあげようかなっと」


「ついで、って何よ! ついで、って!」


「ありゃりゃ、ごめんごめん、そんな拗ねないでよ」


「拗ねてなんていません!」


「う~ん、ごめんったら、ごめんね」


まったくもって誠意の欠片もない謝罪だけど、ゴメンゴメンと言ってるうちに、ソッポを向いていたサシャが『仕方ないなぁ』って顔になっていくのが面白い。


2人は仲良しさんだわ~。


で、そんな2人のイチャコラが終わったところで、私は訊いた。


「ロッカの相談って何?」


「それそれ、それなのよ! パパは夢だからなんて言ってるけど、やっぱり成功してくれないと大赤字になっちゃうわけ」


わけ。でロッカがすんごい目力で私を見る。


「う、うん。そりゃーそうだろうね」


「そうなのよ! 赤字になれば従業員にも苦労をかけるし、そんなのは困るの!」


「は、はぁ」


「だから、是非ともリリンに王都で成功する商品を考えてもらいたいわけ!」


「そのことなんだがね」と横合いからフェクターさんが声をかけると、ロッカは


「ちょ、パパ! もう少しでリリンを引き入れられたのに…!」


え! 何それ?


ポン、と肩にサシャの手が置かれた。


「リリンは顔の割に強引さに弱いですわよね」


「顔の割にって」地味に傷つくんだけど。

「…じゃなくて、え? 私、もしかして誘導されてた?」


「ハッキリと」


ふと思いだしたのは悪友兼親友の言葉。『あんたッてば、あーしが居なかったら壺やら絵画やらをしこたま買わされてそうだよね』


やべ! 今まで意識してなかったけど、ロッカは苦手なタイプだったんだ。

…それでも、友達だし好きだけどね。


「すごい!」歓声を上げたのはロッカだ。

「こんな短時間で目玉商品を、それも2つも考えてくれるだなんて!」


ジャンプして私に飛びつく。

反射的に受け止めてしまったけれど、近くで見たらロッカの目がキラキラしてる。


「ああ…リリンが男だったら結婚してるのに」


ロッカの言いざまに、クスクスとサシャが笑ってる。


「男じゃなくて、すみませんね」


ストンとロッカを下ろして地面に立たせる。


「でね、もう一押し欲しいなーなんて?」


「可愛らしく小首をコテンしても、私は女なんだからね」


「ちぇー」


ロッカは唇をとんがらかせる。


「そんな不満顔されてもさ」


私ぁ、未来から来た青狸じゃないんだから。


「だったら……宣伝でもしたら?」


「というと? 新聞に広告を載せるとか?」


「新聞よりもラジオのほうが良いと思うけど。だって、新聞なんて一般の人は見てないでしょ」


「こういうやつか?」


ケンプさんがラジオを点けた。スピーカーなんてないからラッパ型の高声器から、ちょうどCMが流れる。


『ランジャ製菓のおいしいお菓子。チョコレート菓子が発売中です』


抑揚のない淡々とした声で男の人が宣伝している。お菓子の宣伝なのに、ちっとも買いたくならない…。


「こういうんじゃなくてさ、もっとこうパーとした宣伝にしようよ」


私は前世のことを思いだしながら言った。


ケンプさん、フェクターさん、サシャにロッカが不思議そうな顔をした。

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