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白狼とか、マジ?

6日ぶりの投稿とか!

さぼり過ぎ!

「以前は、この森に鉄道を通す計画があったらしい」


「ふーん」


私は持ち込んだ荷物をガサゴソと漁りつつ、取り合えずの返事をした。


「馬車じゃなくて、鉄道をつかって大々的に魔獣の間引きをしようと考えたわけだ」


「ほーん」


あれ? ここら辺に仕舞ったはずなのに、ないなぁ。


「けど、知っての通りで魔獣の森は外から運ばれたものを腐らせるからな。鉄道も腐ってしまって、それっきりというわけだ」


「へーん」


「…お前、人の話を聞いてないだろ?」


「あったぁ!」


私は探し当てた小袋を手に、馬車から飛び降りた。


ハァ。とノートに書き込みをしていたアゼイが溜め息ついてるけど、疲れてるのかな? そりゃー魔獣の間引きなんてしてるんだもん、疲れてないはずがないか。


今回の間引きは『大繁盛』だったらしい。今日の今までに、60匹もの魔獣を討伐しているのだ。初日は10匹。2日目は20匹。3日目は30匹。奥地に進むほどに魔獣が増えているということだ。


直接、戦闘に参加してない私でさえ緊張でグッタリしているのだ、兵士さんを指揮するアゼイはよっぽどだろう。


けどそれも、あと少し。森に入って今日で3日目。今夜はココで野営をして、明日には砦に引き返すことになる。


あとひと踏ん張りだ。


というわけで、私は小袋から『それ』を掴んでアゼイに突き出した。


「何だ?」


私の突き出された握り拳をみて、エンピツをもったままアゼイが怪訝な顔をする。


「いいから、手をだしてよ」


言われた通りにアゼイが広げた手を差し出す。


私はその大きな手の平に、掴んでいた物……各種ベリーのドライフルーツを乗せてあげた。


「なんだリリン、こんなもんを隠し持ってたのか?」


「別に隠してたわけじゃないよ。少しでもみんなの疲労が和らげばいいなと思って、買ってきておいたんだ」


魔獣退治をシスター・ライザに言われた後に、市場に行って大急ぎで買ってきたのだ。


「みんな、というと兵士の分もあるのか?」


「その積もりだけど?」


「そりゃまた、気の利くことで。お前のことだから、残りは自分で隠れて食べるのかと思ったわ」


「失礼な奴!」


正直、道中でこっそりと食べてしまおうと誘惑されたことは1度や2度じゃないけどさ!


私はフンスと鼻息を荒げてソッポを向くと、ドライフルーツを野営の準備をしている兵士さんに配って歩いた。

誰もが疲れた顔をしている。それでも怪我人をだすことなくこの折り返しの野営ポイントまで来れたのだ。

「ありがとう」と感謝される言葉よりも、無事なみんなの笑顔のほうが嬉しかった。


最後に、私はシスター・ライザを探した。


彼女は魔獣を退ける液体を周囲に振りまいていた。


魔獣の森には野営のポイントが3か所つくられている。1日目に泊まる場所、2日目に泊まる場所、そしてココ、3日目に泊まる場所だ。

この3か所のポイントは長いあいだをかけて少しずつ森を切り拓いて、魔獣が近づかないように特殊な薬を振りまくことで維持している大切な場所らしい。

間引き隊は、魔獣を退治することが第一だけど、その他にも野営ポイントを疎かにしないことも大切な任務に含まれているのだとアゼイに教えてもらった。


「シスター・ライザ、私がもってきたドライフルーツです」


シスターに小袋をそのまま渡す。


「ああ、久しぶりの甘味…」


受け取った彼女は、傍に生えていた灌木の枝をナイフで払った。すると、ドバドバと蛇口を開けたみたいな勢いで水がほとばしる。


通称、水の木だ。この水の木が野営ポイントには大量に自生している。むしろ自生しているからこそ、野営ポイントに選んだんじゃないだろうか。だって、この木が生えていれば、わざわざ水を運ばなくてもいいわけだし。


シスター・ライザは水で両手を洗うと、モグモグとドライフルーツを食べた。


その間にも枝からこぼれていた水が止まっている。

異常なほどの回復力だ。であればこそ、この野営ポイントを拓くのにどれほどの労力が必要だったのかが偲ばれる。


「それにしても、ここまで怪我人がでないでよかったですね」


モグモグと口を動かしていたシスターは、ごっくんと飲み込んでから「ご馳走さま」と私に言った。


「どういたしまして」


「それで怪我人でしたか? 銃が採用されてからというもの、間引きで怪我人がでたという話は聞いたことがありませんからね。シスターが必要とされるのは、もっぱら訓練での怪我人を治療する時になってますね。間引きにシスターが同行するのも、精神的な不安を抑制するという意味合いでしかありませんよ」


この世界での銃の発明は偉大だ。

しかも前の世界と違って、銃が戦争に使われることはほとんどない。それというのも、この世界では火薬が非常に高価なのだ。以前にアゼイがグァバを討伐したときは火薬のライフルを使っていたけど、あれは高位貴族ぐらいしか持っていない珍品らしい。だから、普通は火薬の代わりに蒸気の圧力を使用している。

この間引き隊の所持しているライフルも蒸気を利用したものだ。馬車の半分以上を占領している蒸気機関から幾本も出ているホースを兵士さんは腰に提げている長い筒につなげて、そこからまたライフルにホースをつなげて、それで初めてライフルは武器たりえる……ということを、この旅のあいだにアゼイから教えてもらった。

この蒸気機関だけど、前世とは構造が根本的に違う。石炭とかの燃料の代わりに、魔石を利用しているのだ。その魔石の魔力をホースを通して弾丸にまとわせることで、魔力のない兵士さんでも魔獣を退治できるという寸法なのだ。と聞きかじったことを偉そうに言ってみた。


因みに、重量のある蒸気機関を搭載した馬車をひく馬もまた異常な姿をしている。

前の世界では北海道で『ばんえい競馬』というものがあった。これは四肢の強靭な1トンを超える馬が、これまた1トン近い鉄ソリを牽引けんいんする競馬だったけど、蒸気機関をのせた馬車を2頭でひく馬は、ばんえい競馬の馬より2回りは大きい。


なんでも「魔獣にちかい生物ですから」とのこと。


何代にも渡って魔獣の森で馬車をひいた結果、生まれてきた馬はだんだんと陰気に侵されて巨大化したらしい。だから、やたらめったら食べる。馬車の半分は蒸気機関だけど、4分の1は馬のための食糧だ。


なんとこの馬。草や飼料をほとんど食べずに、お肉を主食にしているのだ!


それって最早、馬じゃなくね?

そう思ってしまった私は間違っているのだろうか?


てっきり、この世界特有の謎生物に馬車を引かせているのかと思ってたわ…。


「それにしても、ようやく半分ですか…」


シスター・ライザが「ふぅ」と色っぽい吐息をもらす。


女の私でもドキリとするほどに艶がある。

実はシスター・ライザは美人だ。兵士さんのなかにも、彼女のファンが幾人もいるのを私は知っている。


「ものは思いようですよ、ようやく、じゃなくて、あと半分と思えばいいんです」


「まさか、リリンシャールの発言で感銘を受けるときがくるとは」


「へへへ、感心しました?」


「今まであなたへの評価はマイナスでしたが、ここにきて8点ぐらいにはなりました」


「え? 8点ですか? それって10点満点評価でですよね?」


訊いても、シスター・ライザは「どうでしょうね」なんてとぼけて答えてくれない。


私はそんなシスターにしつこくすがって、最終的に


「マイナスに逆戻りです」


と、うんざりした顔で言われてしまうのだった。






私は寝つきが良い。しかも一度寝たら、なかなか目が覚めない。この魔獣討伐の旅でも熟睡をしていた。


のだけど。


「…………」


夜中に私は目が覚めてしまった。

こんなことは、前世もふくめて初めてだ。


おかしい…何かが…誰かが呼んでいる気がする。


私は起き上がって、隣で寝ているシスター・ライザを起こさないようにソロソロとテントを出た。


野営ポイントの中央で焚かれている火がパチパチと爆ぜている音が聞こえる。


私は星明りを頼りに声がするほうに足を向けた。


切羽詰まった、助けを求めるような声。


早く行かないと!

足早になる。


「何処へ行くんだ」


切り拓かれた野営地の結界を出ようとしたところで、後ろから肩を掴まれた。


「アゼイ?」


「夜は魔獣どもが活発になる。結界から1歩でも出たら、命の保証はないぞ」


「私…いかないと」


「だから何処へ?」


「分からない。分からないけど、誰かが助けてって呼んでるの」


「俺には何も聞こえないぞ」


「私には聞こえる」


こうして話している時間さえももどかしい。


私は再び歩き始めた。


そんな私の後をアゼイが無言でついてくる。


どれほど歩いただろう。


私は行き先に白く輝くかたまりをみつけた。


白狼はくろう?」


アゼイが言葉を落とす。


その声は鳥の声さえないしじまに思いのほか通って、白く輝く塊…純白の狼が首をもたげてコチラを向いた。


ウウウウウッ、と白狼の威嚇する声が聞こえる。


「ほんとうに…いたのか。魔獣の森を統べる王」


アゼイが呟く。


私は構うことなく白狼へと歩を進めた。


「待て、リリン。それ以上、近づくな」


アゼイが私の手首を掴む。


「でも、あの子が泣いてる」


「あの白狼がお前を呼んだのか?」


私はうなずいた。


「助けを求めて苦しんでるの」


「俺は、お前の兄から何があっても守るように言われている。だから、これ以上、リリンを白狼に近づけさせるわけにはいかない」


アゼイの顔は本気だ。この場から1歩でも前に進めば、私はどうされたって連れ戻されるだろう。それこそ、騒ぐようなら絞め落とされてでも連行されかねない。


「わかった」


承知した私は……歌った。


乙女ゲームのなかの劇中歌。ヒロイン一行が強敵の前にくじけそうになったとき、仲間の1人が歌った励ましの応援歌。


何故、歌おうと思ったのか? 自分でも分からない。でも……何もしないよりはいいと思ったのだ。


歌う。

歌う。

ただ、純白の狼の癒されるのを願って。

歌う。

歌う。


それは、まったくの不意だった。


キューン。


可愛らしい鳴き声がいくつも聞こえてきたのだ。


白狼はお産をしていたのだ。


遠目でも分かる。純白の狼は甲斐甲斐しく生まれたばかりの赤ン坊を舐めている。


しばらくすると、白狼は起き上がった。


綺麗な生き物だ。

輝く純白の毛も美しいが、何よりも立ち姿が圧倒的に鮮やかだった。


白狼が、こちらに近づいてくる。

その後を3匹の赤ン坊がヨチヨチと従っている。


もう歩けるんだ。さすがは魔獣? なのかな。


目の端にアゼイが銃を手にしようとしているのが映った。


「平気だから」


私は、彼の手をおさえる。


白狼はそんな私たちの遣り取りをジッと立ち止まって見ていたけど、再び近づいてきた。


「礼を言わせてもらおう、人族の娘よ」


1メートルほど手前でお座りをした白狼が喋る。


アゼイが絶句しているのが感じられるけど、私はそれほど驚いてはいなかった。

なんせ、ファンタジー世界なのだ。何があってもおかしくはない。


「そなたの歌の癒しがなければ、我は死んで、子もまた腹の中で死んでいただろう」


「えへへ」と私は照れてしまった。

「歌声で癒されたなんて、最高の誉め言葉だわ」


「ふむ」白狼は小首を傾げる。

「人族の娘よ。ひとつ訊くが、今まで歌で癒したことがないのか?」


「歌で癒す? 精神的なこと?」


「そうではない」


「う~ん? 歌で怪我を治すことはできないよ。シスターなら楽器を弾くことで傷の回復をできるけど」


「なるほど…そこまでか」


白狼は嘆くようにつぶやく。


私は、そのことについて訊こうとしたのだけど、ムチムチとした3匹の子狼が足にスリスリしてきたことで一気に思考の外に置いてしまった。


前にも言ったけど、私は坊主頭のザリザリ感が好きだ。でも、フサホワだって好きなのだ。それが可愛らしい子狼ともなれば、デレてしまって何の問題があろうか!


しゃがみこんで、3匹の子狼を撫でまわす。


「産まれてよかったね」


「そなたは優しいな」


白狼の目が細められる。笑ったのかもしれない。


「あなたは…魔獣なの?」


どうしても、そうは思えなかった。

こんなに美しい生き物が、陰気の塊だとは思えなかった。


「娘よ。そなたは命の恩人だから許すが、2度と我とあのような汚らわしいモノどもとを一緒にしてくれるな」


「ごめんなさい」


「許そう」


「お前は、何者なんだ?」


アゼイの発言に、白狼は牙をむいて威嚇した。


「控えるがよい、下郎が。我は、この娘とのみ話しておるのだ」


「だったら私からも訊くわ。あなたは何者なの?」


「我はこの森を守護するモノ。聖気から生まれ、汚らわしきモノどもを狩るモノ」


「あなたは魔獣の天敵というわけね。だったら、人間の味方なのね」


「それは違う。我らは人間を憎んでおる。この世を汚す人間をな」


「それは、どういう…」


答えてくれず、白狼が腰を上げた。


「娘よ、人間の娘よ。そなたは命の恩人だ。なればこそ、我もそなたを助けよう」


空中に輝きが凝った。それが滑って、私の髪に落ちた。


触ってみる。

すると、ヘアピンのような物があった。


「それを身に着けて助けを求めよ。我は何処にいようと駆けつけよう」


「ありがとう」


「それは、こちらの台詞よ」


言って、白狼は3匹の赤ン坊を引き連れて森の奥へと消えていった。


クハッ。とアゼイが喘ぐ。


「すげぇ、プレッシャーだった。生きた心地がしなかったぞ」


「アゼイって、もしかして犬が苦手なの?」


プププっと笑ってやると、アゼイに結構痛い拳骨を頭にもらった。


「なに、すんのよ!」


「お前は呑気すぎなんだよ! あれはな、伝説の生き物なんだぞ」


「へー、伝説を生で見られるなんてラッキーだったじゃん」


「お前ってやつは」


アゼイはガックリと肩を落とすと、私のお尻をパン! と叩いた。


「帰るぞ!」


「ッた~。ちょっと、セクハラですよ!」


文句を言うけど、アゼイは振り向きもしない。


こいつ、さては私のことを女だと思ってないな。


むかついた私はアゼイの背中をどついたのだけど、奴はよろめきもしなかった。

ゲームで歌がある、というのは設定に鑑みておかしいので、変更しました。

あわせて、白狼との会話も若干変更しました。

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