孤児院で人手を調達とか、マジ?
アゼイの復讐譚をそろそろ書かなくては…。
さて。サシャにはヒックスさんの店に行ってもらって、私は3人娘と一緒にジャックの後をついて行ってます。
本当は3人娘と別れてもよかったんだけど、案内なしで修道院に帰るのは怖いんだってさ。
…そんなんで、これから独立できるんですかね?
トテトテと6歳児に案内される私たち。
因みに私はジャックと手をつないで、キテレツ大百科でおなじみの『はじめてのチュウ』を一緒に歌ってる。
チュウ! のところで2人して唇を突き出して大笑いだ。
そこ! 精神年齢が6歳児に近いですね! とか言わない。それは言っちゃ~いけない。
若干、3人娘からの視線が痛いけど。
修道服を着込んだ3人娘と、男装の私、それに6歳児の道行きは人目をひいたけど、何事もなくソコに着いた。
「ここって…」
「孤児院だよ」
ですよね~。
だって、庭で大勢の子供たちがワイワイ遊んでるもん。
「ちょ、ちょっとジャック…」
呼び止めたんだけど、幼児は
「よぉ! みんな!」
なんて大声で言って駆けだしてしまった。
これって…不味くない?
私は嫌な予感を禁じ得ない。だってさ、物語の中で孤児院といえばシスターが付きものじゃない。
後ろを振り向けば、3人娘も顔色を青くしている。
これが既に答えみたいなものじゃん。
「ねーちゃん! 何してんだよ?」
ジャックが声をかけてきたおかげで、子供たちの興味がコッチに向く。
なになに? ジャックのお姉さんなの? ちッげーよ! だって今、ねーちゃんッて言ったじゃん。 そうだけど、違うんだよ。 誰? 3人のうちの誰がお姉さんなの? だから違うって言ってるだろ!
わッとばかりに子供たちに群がられて、私たちは孤児院の庭へと押されてしまった。
気分は『逃げられない、回り込まれた』な感じだ。
お客さんが珍しいのだろう、子供たちのテンションは最高にハイ! だ。
3人娘には男の子がまとわりついて、私には女の子がまとわりついている。
「お兄ちゃん、かっこいい」
なんて言って、瞳をハートマークにして私にしがみついている子がいれば、
「結婚して!」
「駄目! あたしと結婚するんだから!」
と喧嘩している子までいる。
私ってば、マジでモテモテ。
「喧嘩すんなって」
思わず声を低く抑えたイケメンボイスで仲裁してしまう。
すると、どうでしょう!
キャー! と黄色い声があがって、喧嘩する子が増えました。
やめて! お願いだから、私のために争わないで!
……くそ! 夢みていたシチュエーションとのギャップがツライ。
まさしく大騒ぎだ。
こんなに大騒ぎしていたら
「ご近所迷惑ですよ、静かになさい」
ドアを開けて出てきたシスターが良く通る声で雷を落とした。
やば!
やっぱし管理しているのはイジリス教の修道女だったか。
でも…でも! 神は私を見捨てなかった!
「…あなた達、何をしてるんですか?」
ジロリと、シスター・ライザが3人娘を、次いで私を見詰めて。
中に入れ、とばかりに顎をしゃくった。
「似合ってますね、そのカッコウ」
3人娘をソファーに座らせ、私をガタピシする椅子に座らせての、シスター・ライザの第一声がこれだった。
怒られると思い込んでいたのだろう、3人娘が間の抜けた顔をしている。
「だろ? 俺に惚れるなよ?」
イケメンボイスで言ってみる。乗ってみる。
「あなたは、その容姿と声で何人の幼児を虜にしたんですか?」
「ふ。今日だけで…6人は俺のハニーにしちまったよ」
「なんて恐ろしい」
無表情でシスター・ライザが言う。
一拍、二拍。私とシスターは見詰めあう。
「これは院長に報こ」
「すんませんでした!」
私は立ち上がって、腰を90度折り曲げた。
「とりあえず、座りなさい」
「はい!」
と言われたとおりに座りなおす。
「で?」
「は! これには訳がありまして」
私は、サシャと共に健康水を売りに出していることを話した。
「そこにジャックが絡む理由は?」
「健康水には酸っぱい果実が必要なのですが、その果実をジャックのお父さんの店で購入しているのであります」
まさか、サシャがヒックスさんに片思いしているだなんて言えないし。
「そこの3人は?」
「お手伝いを申し出てくれた、殊勝な人たちであります!」
「なるほど。つまり、練兵場までその健康水とかいうのを運ぶための人手を孤児院に求めてきた、と?」
「そうであります!」
「言い方が馬鹿にされてる気がするので、やっぱり院長に」
「ごめんなさい! 待ってください!」
立ち上がりかけたシスター・ライザの足にすがりついて引き止める。
「とりあえず、座りなさい」
「感謝します!」
「おおよそのことは分かりました。では、言いましょう。願ったり叶ったりです」
「へ?」
「願ったり叶ったりと言いました。孤児院も火の車なんです。稼がせてもらえるのなら、大助かりです」
差し出されたシスター・ライザの手を、私はガッシリと握った。
「ところでシスター・ライザ。孤児院の管理まで任されているんですか?」
手を離して、私は訊いた。
「わたくしは有能ですから」
嘘くさい。
「本当のところは?」
「あのババぁ…院長に押し付けられました」
シスター・ライザ…。なんて不憫なんだろう。
これで人手の目途はついた。
3人娘についてはヤカンを運ぶのではなく、孤児たちを引率してもらうことで話がついた。
なんせ100人の子供たちの大移動だからね。3人でも不足だろうけど、12歳以上のお兄さんやお姉さんも手伝ってくれることになったから、どうにかなる…といいなぁ。
孤児院を出たところで、ジャックと3人娘と別れる。
3人娘はジャックが責任をもって、喫茶店まで送ってくれるとのこと。
「任しとけよ」
胸を叩いたジャックの男前なこと。
別れて、私はケンプさんの鍛冶処に足を向けた。今まではケンプさんに迷惑をかけていたけど、シスター・ライザと話し合った結果、これからは孤児院を秘密基地にして健康水をつくることになった。
そのことを伝えないといけない。
他にも今日中に大量の塩と砂糖を調達しないとならないし。
マジ忙しい!