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大好評過ぎてドーシヨウとか、マジ?

夏休みですね!


ドラクエ、どーしようかな…。

買ったら、絶対に小説を書かなくなるだろうし。


う~ん。

「どうだった?」


最初にヤカンをアゼイのところまで取りに行った時の反応は


「まぁまぁじゃないか?」


こんな暖簾に腕押しな感じだった。


けど、2回目にヤカンの回収に行くと。


「これじゃあ、量が少ない。あと2個追加してくれ」


上々じゃん! なんて浮かれていた頃が懐かしい。


3回目のときだった。


「ぜんぜん少ないんだよ。お前ら、ココに何人の騎士と兵士がいると思ってんだ?」


切れ気味で言われて、これは大変なことになりつつあると私は焦った。


秘密基地であるケンプさんの鍛冶処で緊急会議である。

ケンプさんには迷惑をかけて申し訳ないと思うけど、他に場所がないのだ。それにケンプさんも弟子のみなさんも嫌がってはない。むしろ小まめに掃除と洗濯をする私に喜んでくれてる。


「サシャ、まずいことになったわ」


「何がまずいんですの? 人気が出てきて結構なことじゃありませんか」


「人気が出たのはいいけど、このままだと健康水を飲めない人が偽物をつくると思う」


所詮は塩と砂糖なのだ。スダチもどきの酸味で正確な塩・砂糖のバランスは分からないだろうけど、確実に真似をされる。しかも真似をされたのはバランスの悪い経口補水液になるだろう。飲んでも効果がない偽健康水は、ぜったいに本物の健康水の評判を落とす。


そう説明して、私は決定的な言葉をつけ足した。


「一度評判の落ちた健康水は、だれも手に取ってくれなくなるわよ」


「そんな! せっかくヒックスさんも喜んでくれてるのに」


「とにかく…人手が足りないわ。とんでもない量の健康水を練兵場まで持っていくんだもの」


アゼイからの要求は、実にヤカン100だ。とりあえずヤカンは練兵場で貸し出してくれることになったけど、ヤカンは容量が3リットルだから、実に300リットルである。

しかも、それでも足りないらしい。


塩と砂糖の混合したものだけを渡すのは無しだ。間違いなく正確なバランスを含めて真似をされる。いいや、それ以前に正確に1リットルの水に溶かしてくれるとは思えないし、何よりもスダチもどきの果汁をどうするか? ヒックスさんの店の品物を消費することが本来の目的なのだ。本末転倒になってはいけない。


「わかりましたわ。人手なら、どうにかしてみせますわ」


サシャが、急成長中の胸を張る。


「随分と頼もしいじゃん、なんか閃いたの?」


「見習いのみなさんに頼めばいいんですのよ」


「あのカフェでのんべんだらりとしてる連中に?」


不安しか感じないのだけど。


でも他に案もないということで、サシャに連れられて私はくだんのカフェへと足を向けた。


「みなさんに、頼みたいことがあるんですの」


着くなり、サシャは取り巻きの見習いを集めて言った。


「みなさんには、水のはいったヤカンを練兵場まで運んでもらいたいんですの」


対する取り巻きの反応はかんばしくない。

カフェでの諸々(もろもろ)を負担してもらっているという負い目から不平や不満こそ口に出さないけど、顔にはしっかりでてるし。


だいたい、この娘たちは貴族の令嬢だもん。体を動かしてヤカンの水を運ぶなんてことをしてくれるはずがない。


てっきり進んで協力してくれると思っていたのだろう、サシャが柳眉を逆立てて、たぶん文句を言おうとしたんだろうけど、その前に私は遮って言った。


「もちろん、お小遣いは出すから」


次回からはお金を貰うとアゼイには言ってある。ヤカン100杯分もの量を無料ご奉仕できるはずもないし。

そしたらアゼイはいったん練兵場まで戻って、帰ってきたときには「ヤカン1個の健康水につき、1000円だす」といってきたのだ。

原材料費を考慮すると、ぼろ儲けである。ウハウハである。


サシャが私を憮然として見る。


私はサシャの耳に囁いた。


「いやいや、あそこで怒ろうものなら渋々強力はしてくれるだろうけど、直ぐに破綻するから。面倒になった連中がシスターに密告して終わりだよ」


「そうかも…しれませんわね」


私は改めて、カフェにいる見習いを見渡した。

お小遣い。そう聞いてもほとんどの見習いはピンときてない。お金の大切さを知らないからね。でも、数人のだけは興味がありそうに私を見返してきていた。


「サシャ」


あの娘と、あの娘。それに、あの娘も。と3人を連れてきてもらう。


取り合えず、興味をみせていた3人を残して解散だ。


「あなた達に手伝ってもらいたいんだけど、やる気はある?」


店のすみのボックス席に陣取って、私は訊いた。


3人。リン(11歳)、シュシュ(16歳)、ミナ(14歳)、と名乗った彼女たちは顔を見合わせてから、年長のシュシュが口火を切った。


「お金をくれるんですよね」


令嬢だとありがちなんだけど、お金の話をするのはハシタナイと思っているのだろう、シュシュは小声だ。


「それほど上げられないんだけど。ヤカンひとつにつき、600円ぐらいかな?」


原価とかを考慮すると、こんなもんだと思う。


3人が顔を曇らせる。もっと貰えると思ってたのかな?

確かに割は悪い。ケンプさんのトコから練兵場まで片道で15分ぐらいだろうか? 往復で30分。汗をかきかき、重たいヤカンを提げての時給換算で1200円だもん。前世の私なら喜んで飛びつくけど、この娘たちは…どうだろう?


「あなた方、それほどお金が欲しいのですか?」


サシャが尋ねている。悪気はないんだと思う。ただ純粋に不思議なんだろう。


すると、一番年下のリンちゃんがシクシクと泣き出した。そんな彼女をミナが慰めて、シュシュが理由を話してくれた。


「わたしたち、3人とも男爵の出身なんです。でも、実家は火の車で…。わたしとミナは実家に帰ったら、大金と引き換えに成り金の囲いになるのが決まっていて、リンは……花街に売られてしまうんです」


花街って。それって、体を売るような店ってことでしょ?


「どうしてそんな、ひどいことを…」


「リンを産んだ母親は早くに亡くなっていて、今は継母ままははなんですけど。その継母が、連れてきた男の子にお金を回したいみたいで」


「それで、リンを売るっていうの?」


ひどい話だ。

もっとも、シュシュとミナに関しては、庶民に感覚の近い男爵だからこその発想って感じがする。だって、他の見習いの娘たちも、髪を切っているから貴族には嫁げないわけで、となると成り金に囲われる未来がほとんどだと思う。それでも割り切って自分の未来を受け入れてるもん。


「だから、わたし達。実家に帰らず、3人で暮らしていこうって…。でも、お金の稼ぎ方なんて分からないし、どうしていいのか困っていたんです」


私は、この世界でお金が幾らあればひと月暮らせるのか分からない。それは彼女たちも同じなんだろうけど。


「お願いです、働かせてください!」


シュシュが頭を下げて、ミナとリンも続けて頭を下げる。


藁にもすがる気持ち、なんだろう。


「もちろんですわ! 一緒に働きましょう!」


サシャが何やら興奮して、請け負っている。

ああいった身の上話を聞いたのが初めてなのかもしれない。基本、取り巻きとは上辺だけの付き合いっぽいから。


私だって、働いてもらえるなら万々歳だ。


「よろしくね」


悪辣令嬢たる私に、じゃっかん怯えながらも3人はうなずいてくれた。


そんな新しい仲間のシュシュ・ミナ・リンを引き連れて、私たちはケンプさんの鍛冶処に移動中だ。


はてさて、どうしたものか。


私は絶賛、悩み中だ。

3人増えたところで焼け石に水だ。他にも、考えるべきことはある。ヤカンだって借り物のままじゃいられない。これから砂糖や塩だって、大量に調達しないといけない。それにケンプさんに何時までも世話になるわけにもいかないし。


どーする?


「ねーちゃん!」


幼い声とともに、私は背後から抱き着かれた。


「ジャックじゃん。どーしたの?」


ガリ〇リ君の歌をいっしょに歌ったのが気に入られたのか、私はジャックに好かれたようだ。


うー、サシャの目が痛い。


「どーしたの? って。探してたんだぞ!」


「ヒックスさんが、わたくしを?」


「ちッがーうよ!」


恋に狂ったサシャの発言をジャックは切り捨てる。


「ねーちゃん達、スダチを明日はいくつ買ってくれるのさ?」


すっぱい果実の名称はスダチで落ち着いていた。今まで名前がなかったんだって。ビックリだけど、使い道のない果実だから、そんなもんらしい。


「そういえば、今日はまだヒックスさんの店に行いってなかったっけ。すっかり忘れてた」


「ひッで~! ねーちゃん、ひで~!」


「ごめんごめん、ちょっと悩み事があってさ」


「そういうことなら、俺に話してみろよ!」


なんて男らしいのでしょう。6歳児とは思えないぞ。


「健康水を運ばないといけないんだけど、運ぶ人がいなくて」


ん~。などと6歳児が腕組をして悩んでくれる。


サシャと私がほっこりした心持ちで眺めていると


「あいつ等なら、いけるかも!」


とジャックが、私とサシャを見てVサインをした。

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