私が悪役令嬢とか、マジ?
これで書き直しは最後にします。
これまで読んでくださった方々には、心から申し訳なく思っています。
許してください。
「リリンシャール! お前との婚約を今この場で破棄する!」
そう宣言された相手を…この国の王子を、わたくしは令嬢にあるまじき不躾さでマジマジと見返してしまいました。
ですが仕方ないのです。
だって。だって思い出してしまったのですから。
金髪の見目美しい王子と、その背に隠れるようにして寄り添う愛らしい少女。
そして取り巻くのは、美形ぞろいの4人の少年たち。
燃えるような紅い髪をした近衛騎士団長の子息、服を着崩したちゃらそうなのは大商人の跡取りで、幼い感じのショタっ子は魔術師団長の養子、そして青みがかった銀髪のわたくしのお兄様。
目にした瞬間。
あれ? これ見たことあるような?
と思うやいなや『乙女ゲームじゃん!』頭にドカドカと土足で前世の記憶らしいものが乱入してきたのですから。
ゲーム世界に転生とかマジ!
王子とヒロイン、お似合いじゃないの!
てゆーか!
私、悪役令嬢じゃん!
驚きをもって王子を見返してしまったのも、ほんとマジで仕方ないのですじゃん。
王子と取り巻きはそんな私の反応を満足そうに見ていた。
たぶん、婚約破棄されてショックを受けているとでも思っているんだろう。
いや、確かにショックだったけど。
どっちかというと、このままだと私…殺されるんじゃない? というショックのほうが大きいというか。
そうだ! そうなのよ!
私。このままだとヒロインをいじめた罪とかで、牢屋に放り込まれて、そして。
殺されちゃうんじゃないの!
おいおい、待ってよ。血の気がひく。
いじめただけで殺されちゃうの?
そもそも私…わたくし、ヒロインをいじめた覚えないんですけど。
確かに注意はしたよ?
だって婚約相手のいる王子にヒロインはなれなれしく近づいたからね。
完璧にマナー違反なんだもん、注意ぐらいするっしょ?
むしろ注意しないと、公爵令嬢たるわたくしの沽券にかかわるんだから。
暴力なんて振るってない。
女の情念てゆーの? 王子とは恋愛感情抜きで割り切った関係だと思い定めていたから、嫉妬とかなかったし。
あくまでも、やんわーりと、大貴族らしく遠回ーしに、言ってただけ。
それなのに死刑なの?
混乱する頭に王子の弾劾の言葉が届く。
曰く『ヒロインを階段から突き落とした』『魔法の実技中にヒロインに怪我を負わせた』等々。テンプレのオンパレードを王子はつらつら述べてくれる。
しかも王子は己の言葉にだんだんと激昂しているようで、ついには私に指を突き付けた。
「お前は暴漢を雇って、彼女を襲わせた! 危ないところをボクが救ったからいいようなものの、お前は淑女として、いいや! 人として最低なことをしたんだ!」
そんなことしてないんですけど!
反論しようとした頭に、ゲームの内容がフラッシュする。
暴漢を雇ったのは、わたくしの取り巻きの令嬢たちで。彼女たちは、男爵令嬢のヒロインが王子に構われるのが気に入らなくて普段からヒロインに直接的ないじわるをしていて。それが何故かわたくしのせいになっていて…。
そんな諸々が明らかになるのは……リリンシャールが絞首刑になったあと!
え?
え!
わたくし、暴漢事件にこれっぽちも関わってないじゃない。
にもかかわらず、小賢しい令嬢たちがわたくしに指示されたと言い出すんだった!
んで、わたくしが死刑になってから、令嬢たちの偽証がばれて…
『無実の罪で犠牲になったリリンシャールの分も、僕らは幸せになろう』
とか、よくわからん理由で王子とヒロインはむつまじく…
って! そりゃないでしょ!
そーか、そーか。
私がコノ乙女ゲーの内容を覚えていたのも、あまりといえばあまりなクソゲーだったからだわ。
顔も思い出せない親友? 悪友? がニヤニヤしながら勧めてきたんだ。
あいつ、私がどんなクソゲーであろうと、それが乙女ゲーであればコンプリートせずにはいられない癖を熟知してたから、自分が面倒臭くなった乙女ゲームばっかり押し付けおってからに。
つーーーーーーか!!!!
ココから挽回すんの無理じゃん!
でも、でも。
手はあるのだ。
ほんッとうに最終手段。
これを行えば自由はなくなる。今までの蝶よ花よの令嬢生活とはオサラバしないといけない。
けど、命だけは助かるのだ。
もはや選択肢は…ないのだ!
「承りました」
私は頷くと、たおやかに踵を返した。
静まり返るホールのなかをカツカツと衛兵のもとへ進む。
若い衛士さんだった。
これから私のすることで、上司から大目玉を食らうことだろう。
だから、先に謝っておく。
「ごめんなさい」
衛士さんは顔を赤らめて呆然としている。
その隙に衛士さんの腰から、剣をスラリと引き抜き
きゃーー
狂行にホールが動揺し、衛士さんが動こうとする。
けれど、私は一拍はやく自らの長い髪を手にして……バッサリと剣で髪を切った。
ホールが再び静寂に包まれる。
私は、掴みかかろうとしたまま動きを止めている衛士さんに剣を返すと、声を失っている王子とヒロインの前に進み出た。
「ご迷惑をおかけいたしました。罰として、わたくしは修道院へはいります」
貴族の女は髪を大切にする。
子供の頃は母親以外に触らせることも切らせることもなく、成人してからは決して切ることがない。
その髪を、私は手ずから切ったのだ。
貴族の令息令嬢が息をのむのも当然のことだった。
私は、ここが引き際と、さっさとホールを出ていくことにした。
しょせんは成人前の14、15の砂利たれども。
私の行動に度肝を抜かれて、呼び止めることもできやしない。
急ぎ過ぎず、優雅にみえるよに気を配りながら、ホールを後にして大扉を閉める。
そこで、やぁーーと安堵の息をついた。
やってやった!
やってやりましたよ!
心のなかでガッツポーズをする。
危なかった、マジで危険が危なかった。呼び止められてたら牢獄行き確定だったわ。
修道院とか行きたかぁない。
行きたいわけないじゃない。
けど、死ぬよりは増しってね。
「つーか、さっぱりしたわ!」
私は、手にしていた髪を放った。
吹いてた強い風に髪が流されてゆく。
わたくし、は今死んだのだ。