形勢逆転
お待たせしました!
七話です!目指せ、十話!いやまだ終わらんけど笑
藍色の目をした少年は構えの姿勢を取り、こちらをじっと見つめる。今まで自分が奴隷として捕まえてきた子供の様に魂の抜けきった目ではなく、むしろ少しの微笑みが見られる。
少年の一発をくらい倒れたエーラだったが、すぐに立ち上がり、ベルトにぶら下げた銃を彼に向けた。そして勢い任せに三発放つ。
「うわ、わわわ。銃とかなしでしょっ」
少年は急に慌てた様子で、その弾丸をうまいことよける。彼は後方の子供たちに当たらないように、銃を撃つ前に車両のドア際へ狙いを定めさせた。的が外れたことに、エーラは軽く舌打ちをした。
すばしっこい鼠が。
だが、今の攻撃で少年の態勢が少し崩れた瞬間を見逃さなかった。すかさず彼の脇腹に蹴りを加える。
「がはっ」
ぴったりヒットして、小柄な少年は二、三メートル先まで吹っ飛ばされた。彼は痛む腹を押さえながら立ち上がろうとするが、近づいてきたエーラから再び攻撃を受ける。圧倒的な体格差、筋力差と立て続けの攻撃は一撃だけで大きなダメージを与えた。血だらけになり、横に倒れた少年からは不安定の息継ぎ音しか聞こえない。エーラの顔がニヤリと歪む。
とは言っても所詮はガキか。俺に敵うわけがない。
しゃがみこみ、少年の額に冷たい銃口を当てた。
「あ~・・・形勢逆転されちゃった」
「あ?まだ口を動かす元気があるみたいだな」
エーラは言った瞬間、彼のみぞおちに一発重たい拳を加えた。少年が苦し気な息を吹き出す。
「まったくよぉ、計画の邪魔してくれちゃって、せっかくの夜が台無しだぜ。あの女もなめた真似しやがって。はっ、かわいそうになぁ、あんなに血流して、じき死んじまうんだろうなぁ。俺に抵抗なんてするからこうなるんだよ。奴隷は奴隷らしく、飼い主に使われてたらいいんだよ」
「・・・つまり、強い奴の意見が絶対だと?」
「あぁ、逆らう奴は皆殺しだ」
「皆殺しね・・・。君とは意見がよく合うみたいだ」
少年の最後の一言はエーラには届かなかった。しかし、少年の口元が動いたと思った瞬間、がくんとエーラの頭は床へと引き寄せられた。少年がエーラの伸びたあごひげを強く引っ張ったらしい。
「なっ」
エーラが顎に痛みを感じている間に、寝ころんでいた少年は立ちあがり、エーラの背中に馬乗りになった。やばい、と思った時には、先ほどまで少年に向いていた銃口が自分の背後に構えられていた。
「油断はしないことだね。引き金は相手の頭に向けた時点で引いておくべきだ」
冷淡に少年はつぶやいて、引き金をカチリと鳴らした。ひやりと額に汗が伝う。
「ま、待て。何が望みだ」
「望み?んなもんないよ。君からもらえるものなんて欲しくもないし」
「じゃあ金をやろう、それですきなものを買うといい」
「金ねぇ・・・」
「そう、金だ!いくらでもやる!何十万でも、何百万でもいい!さて何が欲しいんだ⁉」
よしっ、食いついた!エーラは焦りながら早口になった。少年に対する腹立ちよりも背後でひんやりとたたずむ凶器から早く逃れたい気持ちの方が強い。とにかくなんでもいいから、この状況を打破する手立てが欲しかった。だが、少年はエーラの言葉を聞いた瞬間、銃口をさらに肌へとねじ込むようにして押し付けてきた。活動していた喉が緩やかに締まっていく。
「じゃあ、君の体を切り取って臓器売買とかに提供するってのはどうかな~?そのお金なら僕もらってもいいかも。肺とか胃は使い物にならなさそうだけど、心臓とかならどこかに需要があるよ、きっと~」
「ちょっとまて。何を言っている」
「え?なんでもくれるんでしょ、僕の欲しいモノ。僕は君の肉体が欲しいんだよ、あれなんか言い方気持ち悪い~」
少年はケラケラと笑ったが、冗談じゃない。背中が汗でどんどん湿っていっている事にも気がつかないほど、事の重大さにおびえ、ほとんど放心状態になった。するとそんなエーラを見て少年がこそっとつぶやいた。
「あれ、こわいの?大丈夫だよ、ちゃんと売れるようにきれいに切り取ってあげるから」
頭に当たる銃口がだんだん重たく重たくなってきた。
おい、ちょっと待ってくれよ。
顔を見ることはできないが、背後から聞こえる少年の声は魂のない、それこそ幽霊の様でひどく不気味な声だった。
「うわぁぁぁぁあああ!」
エーラは唐突に発狂した。猛獣が川でおぼれ、生死を試されている時のように。一つ違うのは水に声を掻き消されることはないということだけ。エーラもまた助けを求め、ひたすらに叫ぶ。しかし、周りの少年・少女たちはこちらに冷たい視線を向ける少年もいれば、何も起こっていないかのように窓を見つめる少女もいる。先ほどまで自分が奴隷だ、羊だ、と馬鹿にした子らだった。焦る心が洪水のようにあふれ出す。
ふっと二号車にいた仲間のことを思い出して、なお懸命に「助けてくれぇ!」と叫ぶが、声は車輪の音に掻き消され、寝ている奴らの耳には入らなかった。
「そんなに暴れないでよ。一気に脳天ぶち抜いてやろうと思ってるのに、狙いがずれちゃうじゃない」
「あ、あぁ、わぁぁぁあああ!」
少年の喜々とした声に、酒で火照った頬も冷め、むしろ青白くなる。せめてもの抵抗として、体を大きく暴れさせてみるが、自分の手足を他の少年たちがきつく押さえているらしく、全く身動きが取れない。
「やめろ!お願いだ!」
必死に床の木に顔を向け、懇願するも、体を押さえる複数人の重なった手はびくともしない。
そんな叫びをさえぎるように、少年の「じゃあね」とつぶやく声が聞こえた。
次の瞬間、ばんっ‼
強烈に床が破損する音。それを認識する前にエーラの意識はすっと途切れた。
ご読破ありがとうございます!
次は一週(もしかしたら二週)お休みします(´;ω;`)
期末テストがあるもんで・・・泣