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永遠の時の真ん中で 3

 《狩猟団カグヤ》の仲間と洞窟まで採集に来ていたナナミは声が聞こえてきた気がして顔を上げた。

「ナナミ、どうしたのです?」

 甲高い声で問いかけてきたのは長い金髪が特徴的なハンマー使いのエルシだ。暗い洞窟だが、携帯カンテラの光を受けて光るその髪はとても美しい。辺境には珍しい貴族出身の元ご令嬢でありかわいいものを好む彼女は意外にパワーファイターである。

「今、どこかで男の子の声しなかった?」

「え? 今日は女子会の日だから男子いませんわよ。それに遭難者でしたら私が気付きますわ」

 エルシは人間だがかつて雪飛竜の祝福を受けたため音に対して人間離れした能力を持つ。だからナナミが気付けるならばエルシが気付かないはずはないのだ。

「あら、どうしたの? 二人とも」

 少し離れた所でピッケルを振るっていた、団のお姉さんポジションにいる大剣使い、キリカも近付いてくる。《狩猟団カグヤ》でトップクラスの破壊力を誇る彼女なのでこういう力仕事は得意なのだ。

「お姉様は男子の声を聞きまして?」

「いいえ、でもこの辺りはあまりちゃんとは開拓されていないから可能性はあるわね…一応警戒しましょう?」

 どんな内容だろうとメンバーの発言を頭ごなしに否定しない辺り、流石ミコトに次いで頼りがいがあるとされる女傑である。もっとも彼女もかなり過去に訳ありなのだが。

 何となく釈然としないままナナミは採集作業に戻るが、再び声は聞こえてきた。

〈誰か! お願い!〉

 先程よりはっきり聞こえる。そしてだいぶ幼い声だ。思わずナナミは持っていたピッケルを投げ捨て、直感が示す方向へ走り出す。

「ナナミ!? 待ちなさい!」

 後ろから仲間の声がするが、ナナミは止まらなかった。あの声が近付いてくるのが分かる。と、後ろで不意に洞窟の一部が崩落する音と仲間の悲鳴が聞こえた。流石にナナミでも声を追うことが躊躇われ、慌てて引き返す。

 そして今まで通った通路が完全に岩で塞がれてるのを見て茫然とした。岩を押してみるが動きそうにない上、ピッケルも置いてきてしまっている。

「何でこんな浅い層に地竜が!?」

「ナナミ! そっちは大丈夫!?」

 幸い仲間の声は聞こえる。どうやら突然現れたモンスターと戦闘中のようだ。

 相手が地竜なら崩落はもっと拡大する可能性が高い。ナナミは向こう側に向かって力一杯叫んだ。エルシの耳ならきっと戦闘中でも聞こえるはずだ。

「確かこの洞窟はいくつか出口があったはず! 私はそっちを探します! だから適当に逃げて下さい!」

 今回の目的は採集だったので全員防御力が低い調査用装備のはずだ。いくら一流ハンターとはいえ大怪我はあり得る。

「分かりましたわ! 明日になっても村に着かなかったら探しに来ますわ! 御武運を!」

 それきり二人の声は途切れた。ナナミは地竜が引き起こす更なる崩落に巻き込まれないように奥へ奥へと走り出す。再びあの呼び声がした。

〈誰か!〉

「……地竜に襲われてるのかな」

 地竜はよく指定討伐対象になるほど凶暴だ。最悪の場合手遅れになっているかもしれない。

 そんなことを考えていると不意に暗い洞窟の先に何やら不思議な光源があるのが目に入った。ナナミは腰につけた携帯カンテラの残留を確かめてから弓を構え少しずつそれに近付く。そして息を飲んだ。

「魔法陣……?」

 以前別の場所で目にしたことがあるが魔法など今は存在しないはずなのだ。それなのに何故これは光っているのだろうか。ナナミは敵の気配が無いのを確かめてから弓を背に戻し、携帯カンテラを掲げて周囲を確かめる。

「……遺跡、みたい」

 どうやら洞窟の一部だと思っていたが、この辺りはよく見れば広間となっていたようだ。その中央に魔法陣があるということは、これは遺跡に関連したものかもしれない。

 脳裏によぎったのはつい先日村ごと巻き込まれた失われた古代魔法を巡る騒動だった。もしあれと同じ魔法ならそれは傀儡化を意味するため最悪な事態になるだろう。だが、あの魔法陣は先日彼女達を率いる団長が破壊したはずだ。それにあれとは違って見える。

「……ちょっとなら大丈夫だよね」

 おてんばとも言われる、人より多めの好奇心が災いした。ナナミは注意深く魔法陣に寄る。と、再び声がした。

〈僕じゃ……駄目なのかな……〉

 今までで一番鮮明だが落ち込んでいるように思える。ひょっとしてこの魔法陣は声の主に繋がっているのではないか。

「……ま、何かあったらシズカさんが助けてくれますよね」

 脳裏をよぎったのは今はナユタ村を離れてはいるがきっと自分達を見守ってくれているであろう軽薄な青年。彼なら気付いてくれるに違いない。

 そのままナナミは迷わず魔法陣に飛び込んでいった。


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