6
砦の中は迷路のようになっていると思いきや闘技場のような造りになっていた。ただ、装飾などは全く無く、ただ広いスペースとなっている。
「生まれたてだからまだ其処まで手が回ってないのかい?」
怪訝そうなシャクナの問いに嵐堂は答えながら剣を抜いた。
「いや、違う。ダンジョンは魔王の本質を体現し、最初から大体完成している。一から作る、っていう奇特な魔王もいるがな。この闘技場が示す本質、つまり」
次の瞬間―――
「今の俺らはグラディエーター……奴隷剣士ってとこだ」
一斉に地面から湧き出してきた魔獣。嵐堂は確かにこの施設に覚えがあった。
「臆するな!相手は《獣魔王》!ちゃんとすれば戦える。だが、こいつらは無限に湧くぞ!」
「ちょっと待て!それが本当なら以前あんたらが《獣魔王》は倒したはずじゃ……」
突然の事態にシャクナが混乱するのを見て、剣を抜きながら嵐堂は苛立たしそうに舌打ちした。
「魔王の禁術を使い続けると最終的に同じ魔王になんだよ!だから禁術使いは基本秘密裏に死刑。これ、機密事項だけどな!」
「そんな!?それに何であんたがそんなことを……ちっ、雑魚が邪魔だ!」
シャクナが身の丈ほどある薙刀を無造作に振りかざした。
「《凍てつけ 蒼氷の檻》」
魔力の広がりと共に魔獣達の全身が凍り始める。薙刀を地面に突き立て、彼女は自慢げに笑った。
「倒したら湧くなら凍らせた方がいいだろ?」
シャクナはイメージのせいか炎使いと名高いが、熱を操る以上氷の魔法も使える。嵐堂は手早く礼をすると走り出した。
「もしあの時と同じ造りなら……こっちだ」
嵐堂の案内に従い、一同が辿り着いた先にいたのは異形だった。
「相変わらず醜悪な……」
それを直視しながら嵐堂が吐き捨てる。
多種多様なモンスターの部位から出来上がった人型の複合体。そんな不気味な形容詞がぴったりな様子のそれは部屋の中央で蠢いていた。どうやら体の整合性がとれないためか此方に向かって積極的に攻撃してくる様子はないように見える。
「神使、シャクナ、今回はお前らがいて助かった。間違っても切ってちまちま様子見ようとしちゃダ」
「嵐堂、もうユフが切ってしまっているが」
唖然とした表情を浮かべるクリスに言われて視線を移せば、いつの間にか獣魔王の右足にユフがいた。そしてその前には斬り捨てられた残骸。
「ユフ、離れろ!」
残骸が動き始める。嵐堂の怒声を聞いたユフは反射的に離れたため怪我は無いが、残骸はその間に一体の新たな魔獣と化した。本体の方も新しい右足がついている。
「いやらしい能力だな。破滅亀も奴の仕業か」
呟きながらクリスは戻ってきたユフが勝手に動かないようにその腕を掴む。今まで黙っていた神使はゆっくりと前に出た。
「……なるほど、だから一度に欠片も残さず滅す必要があるのか。確かにお前には出来なくはないがなかなかに面倒で難しいな」
「そういうことだ」
神使はたたんでいた背中の翼を展開する。夕焼け色のそれは風もないのに揺らめき始めた。先程のシャクナの比にならない量の魔力が流出し始める。
「燃え尽きな、化け物が」
神使の翼が赤く光った。
周囲は一瞬で火の海に変わる。逃げられない獣魔王は抵抗する間もなく燃え尽きる。あまりに一方的なそれは劫火を思わせた。
「相変わらずの景気よく燃えるねぇ」
「まぁな……っ!?」
硬質な金属と金属がぶつかる音。一同に緊張が走った。魔王ではない何者かが襲撃してきたのだ。