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アンノウン・ブレイブ  作者: 染井Ichica
1章 紅の魔女と銀月の龍
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ハッピーハロウィンです!本日は二話更新です。

 学園内には模擬戦闘のための訓練所が設置されている。普段学期末試験や戦闘訓練などを行うそこでは設置されている制御魔法でルールをあらかじめセットしておけるので事前に死者などが出るのを防ぐことが出来るのだ。今回もそのためにここが選ばれたといえるだろう。

 司会者らしき生徒が集まった生徒を前にしてマイクを握り、高らかに宣言する。

〈只今よりサクヤ・コノハナとワイ・プレンデル、及び両者の協力者の使い魔による模擬戦闘を始めます。ルールは―――〉

 私は敵の使い魔達を見た。片方は見覚えのある醜悪なドラゴン、初めて見る相方は長い柄の剣を携えた中年の騎士だ。見るからに屈強そうな中年騎士は味方だというのにラドンを不愉快そうに見ている。ひょっとしてこの使い魔は竜退治の英雄だったりするのだろうか。プレンデルはともかく、もう片方の相手側の生徒はいかにも脳筋そうな男子だった。

 と司会によるルールの説明が終わりに差し掛かった辺りでシズカが不意に手を挙げた。

「そこまででいい。ここで戦闘前に勝利した場合の命令を一つ聞いておこうじゃないか。やる気が変わるだろう?」

 未だに武装の気配が無いシズカは道化のように肩を竦めて笑う。

「そっちの命令は?」

 プレンデルは待ってましたと言わんばかりに叫ぶ。

「当方はサクヤ・コノハナの使い魔の所持を永久に禁止することを要求する!履行された際には今の使い魔も即刻送還すること!」

 観衆がざわめいた。プレンデルの言葉に私は寒気が走る。身震いした私をそっといたわるようにユーヤが上着をかけてくれたが彼の目も珍しく怒気に満ちていた。

「なんて無茶な要求……正気か?それも召喚魔法の本家であるコノハナ家当主に対する要求としては性質が悪すぎる」

 この世界の魔法使いには共通している常識がある。それは、使い魔がいない魔法使いなんて魔法使いではない、ということ。もし敗北した場合私は一気に最下層の家畜に等しい存在として迫害の対象になるだろう。それを理解して彼はそう要求しているのだ。

 何故そこまで目の敵にしてくるのか。そもそも私と彼はほとんど接点がないというのに。

 シズカのように底がしれない悪意というわけではない。ただ、ただ、その悪意はどこまでも憎しみに染まっていた。それは交流がない者同士が抱く憎しみにしてはあまりに粘着質でその深さはもはや異常である。だから怖い。理解が出来ない。震えが止まらない。

 と、隣で待機していたミコトが私の前に出た。そして彼はプレンデルを真正面から睨みつける。

「おい、てめぇ……黙っていればふざけた戯言をほざきやがって!俺達使い魔を何だと思ってやがる!?所持?送還?御生憎様!俺らは物じゃないんだよ!外野が勝手に決めるんじゃねぇ!」

 彼は怒っていた。それこそプレンデルに掴みかかりそうなほどに。止めるためにユーヤとシズカを見るが、二人とも呆れた様子で首を振るだけだ。性格は正反対なのに変なところで息の合うペアである。

 プレンデルはつまらなさそうに杖を弄ぶ。

「何を吠える?使い魔なんて戦いの道具だろ?物を物扱いして何が悪い」

 使い魔は魔法使いの相棒である。だから契約は相互の了承を必要する。それでも、こういう考えの人がいつになっても減らないのもまた事実。これこそこの世界の魔法使いの傲慢さであり、歪みなのだろう。当然私はミコトのことを対等に思っているし、ユーヤもまたそうだ。真っ当な感覚を持っている人は使い魔なくして生活が成り立たないことを理解しているからである。

 これ以上言い合っても二人の意見は平行線でしかないだろう。それに気付いたらしく、ミコトは無言でプレンデルを威嚇していた。やがて控えていた審判に促され私の隣に戻ってくる。

「……マスター、俺の真名とかもうどうでもいい。とりあえず奴のふざけた考えをぶっ潰していいか?」

 彼は静かに尋ねた。相手の救えなさにもはや脱力しているらしい。私は頷く。何故か彼が途方に暮れているように思えたからだ。だから精一杯の信頼をこめて私はその両手をしっかりと掴む。

「貴方に全てを委ねるわ。やりたいように貴方を貫きなさい」

 彼の肝心なことを私は何も知らない。それでも歪んだ世界のありように疑問を呈し、迷わず自分の義憤をぶつけた彼は私にとって好ましく思えた。

 たったそれだけ。それだけだが、彼のことを信頼するには十分すぎた。

 彼は少し驚いたように目を見開いた。そのまま何か言いたそうに私を見ていたが、結局何も言わず、唇に笑みを浮かべる。いまだに焦点が合わない彼の瞳に微かに光が戻ったように思えた。

 私達のやりとりと別にシズカが会話を再開した。その瞳は同じく使い魔として、プレンデルの言葉を不快に思ったのか、剣呑に煌めいていた。

 だから遠慮などしない。

「僕ら側の命令はマツリヤ・ミコトの真名の返却だ」

 そう、彼は敵に容赦をしないのだ。シズカの言葉に観衆が黙り込む。それほどのことだからだ。

「僕らが手をこまねいてると思った?残念、法律ぐらいはいざという時に備えておさらいしてるんだよね。契約前の使い魔に対する危害は法律違反、しかも魔王の名を使った禁術で本契約できなくした。禁術ってさ捕縛対象なんだよね。だからすぐ撤収したんでしょチキンちゃん。大変!もし僕らが勝ったら、プレンデルちゃん、事実が証明されて即刻豚箱送りだね!未成年なのに人生投げるとか尊敬しちゃうよ!ねぇ今どんな気持ち?教えて教えて!」

 シズカは明るく流暢に言うが、その内容は果てしなく物騒かつ苛烈だ。裏表のない笑顔のままなのがいっそう底知れない不気味さを強めている。

「ああ、そうそう、勿論約束だから、僕らが負けたらこのことに関しては不問にしてあげるけど、まぁ今この場にいる皆さんは、君が勝っても負けても禁術使いの疑惑がかかったプレンデルちゃんを一生軽蔑するだろうね!野放しの犯罪者ってね!楽しい楽しいお家没落タイムだよ!新興貴族っていうコンプレックスを気にしてばかりだからこうやって僕みたいな屑にまんまと足元を掬われる。地道に努力すれば芽もあったものを君が全部摘み取ったんだ!プレンデルちゃん、これが悪意ってものだよ。今後のために覚えておきな!まあ、今後なんて無いけどね!」

 そこでようやくシズカがギャラリーありにした理由が分かった。相手が私をいたぶるのを見せつけるためではなく、模擬戦闘の勝敗に関わらず相手を確実に糾弾、そして罰を与えるための措置。本当に切れ者だ。そして何よりこの間、シズカは今までで一番生き生きとしているように見えた……彼が味方でよかった。

「貴様っ……審判!」

 怒気を孕んだプレンデルに促され、呆気にとられていた審判はすぐに職務に忠実に手を掲げる。

「それでは……位置について」

 使い魔達が私達から離れ、フィールドに進む。そして私達と彼らの間に障壁が張られた。巻き添えを避けるためだ。もっとも声は魔法でなんとか届く。

〈模擬戦闘開始!〉


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