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アンノウン・ブレイブ  作者: 染井Ichica
Replicant Blue~Return to Zero
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3

 嵐堂が同行者である《紅蓮》の二人を呼びに行く間、ユフが二人を保護することになった。とはいえ街中で襲撃があるとは思えないのでただのんびりしているだけであるが。

「……貴様は本当に記憶が無いのか?」

 クリスの問いにユフは無邪気に笑った。

「うん。嵐堂を召喚した後から数ヶ月前までの記憶がね。それ以前もところどころ無いかな。まぁ、日常生活に支障はないけど……」

「……それは難儀だな。ところで貴様、本当に魔王を倒すだけの実力があるのか?」

 《青の勇者》といえば魔王退治の筆頭、もっとも記憶喪失の今頼りにはならないが。

「その、《魔討》になってからのことを覚えてないからなんとも。でも普通に魔獣程度なら余裕。昔教わった剣術があるし、嵐堂だって強いし」

 ユフは腰に提げた剣を抜く。武骨なそのデザインは実用性を重視しており、明らかに使い込まれていた。

「もし不安なら試す?」

 殺意はないが、戦うことへの躊躇はそこになかった。

「……いや、いい。この店に迷惑がかかる」

 ただでさえ店の者は次期国王を滞在させるだけで畏怖しているのだ。それぐらいはクリスにも分かっていた。

「そうだね。久しぶりの街中だからついうっかりしてたよ……クリスは王女の使い魔だよね?どんな魔法を使うの?」

 剣を鞘に戻しながらユフが尋ねる。

 と次の瞬間。

 いつの間にか目の前に迫っていた王女に平手打ちされていた。突然の攻撃にユフは衝撃を受け止めきれず壁に叩きつけられる。

 今、何が起きた?どう見てもただのか弱い娘にしか見えない王女が戦士としてはトップレベルのユフの知覚を上回るスピードで軽々と吹っ飛ばしてきた…!?

 王女が再び近づいてくる。怒ってはいない、が笑ってもいない。むしろ何もない表情というべきか。その緑の瞳はガラスのようにただ驚愕しているユフを映していた。どちらにせよそれは本能的な恐怖を呼び起こすには十分すぎた。

 手足が震え、立ち上がることすら出来ない。それどころか力を入れることすらできない。そんなことはユフが覚えている限り初めてだった。

「この、無礼者!」

 慌てた様子でクリスが更に無言で動けないユフに追撃を加えようとする王女を抑えながら叫ぶ。

「王族は!一切の魔法を使えないと知っての狼藉か!この非常識が!さすがの私でも弁解しきれないぞ!」

「……え?」

 召喚術を使えない。使い魔がいない、というのは極稀にあることだが、それについては有り得ないことだ。少なくともユフが記憶喪失になってからは見たことも聞いたこともない。だが、クリスの言葉はユフに落ち着きを取り戻すことには成功した。

「王族は魔力が全て身体能力に変換されるということも知らぬのか!?確かに《魔討》に比べれば微弱かもしれぬ。だが王族が身を呈して国を防衛していなかったならばとっくの昔にこの世界は滅びていたであろうよ!」

 どうやらそれは常識だったようだ。道理でこんなか弱そうな二人組が派遣されたわけだ。見るからに優男の自分を棚にあげてユフは納得する。

「ごめん。僕が記憶喪失だとしても少しばかり無知すぎた…じゃあ君は魔法使い?」

 どうやら自分は常識すらも忘れているようだ。そういえば時折嵐堂も口うるさく色々と注意をしてくれていた。それを話半分に聞き流してきたユフは先程の王女を思い出し溢れる冷や汗を誤魔化す。何が日常生活を送る上で支障はないだ、嵐堂がいなければすぐにぼろが出てしまっている。

 王女は止められたせいか拗ねたように顔をそむけてしまう。一方クリスは一瞬だけ眉間を抑えた後、ユフの胸倉をつかみ上げた。

「気安すぎるぞ。これでも貴様と同じ魔法剣士だ。次今のようなことがあったら潰すぞ」

 ドスが効いた声はその眼力も合わさって十分迫力があった。とはいえ、先程の王女と比べたら全然マシだ。すぐ突き放されたユフは皺を伸ばしながら尋ねる。

「じゃあ君の使い魔は?」

「後で分かるだろう……ところであの使い魔の男のグリモア、一体何が書いてある?信用に足る男か?」

 有無を言わせないようにクリスが切り出した内容にユフは困ったように眉を下げた。

「それは駄目。いくらお偉いさん相手だとしても嵐堂のこと勝手にバラすのはプライバシーの侵害でしょ……それに知らない方がいいよ」

 服の下に隠したグリモアをユフは無意識に押さえた。きっと渡したくないと思ったからだろう。

「だがしかし……!」

 とドアが開く。嵐堂を先頭にシャクナと神使が中に入ってくる。

「お、こりゃぁ……」

「……最悪だ」

 一方は面白そうに、一方は今から地獄行きを命じられたかのように呟く。

「来たか。む?《蒼天》はどうした?」

 クリスの問いに神使は渋い顔になった。

「あの方は指定されていない。実家が王宮の有力者だから、念のため……仲が悪いのもあるけど。で、指定の場所とは?」

「そういえば僕も聞いてない」

 ユフの言葉にクリスが意外そうに眼を細めた。

「言ってなかったか?コノハナ家の御令嬢がいる学園都市だ」

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