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突然話が変わった。私の名が出てくるという予想外のことにミコトが目を細める。ラケル様が少し困ったように溜め息をつく。
「黙って魂を一部見させてもらったが」
待ってほしい。今、彼女は何て言った。
私の魂を見た?あのシズカが以前《青薔薇》にしたように?
混乱する私を労わるように、だが、それで放置せずラケル様はそのまま続ける。そして吐き出された言葉は私を混乱に陥れることとなる。
「コノハナノサクヤヒメという真名だけじゃなくて魂の大半を持ってかれてるのによくもまあ、常人のように精神が安定してるね」
サクヤと桜木の顔から血の気が失せたのがすぐに分かった。
勝手にシズカがしていたように彼女の全てを暴いたのか。その行為の卑怯さに思わず拳を握る。
サクヤには真名や魂の大半が無い?正気なのがおかしい?
あまりの事態に気がつけば俺はラケルに掴みかかっていた。
「どういうことだ!?」
「痛いなぁ!?だから私らがわざわざ別に調べに来てんだろうがっ!」
どこか泣き出しそうな声で一喝されたが引き下がる訳にはいかない。サクヤのためにも。ラケルは抗議しつつも反抗しなかった。
「大体予想はつくが!それが本当ならどうしようもねぇんだよ!」
桜木は争う俺らを見て空虚な表情を浮かべていた。表情が欠けた今、本当に人形のように見える。
「だから、サクヤ様は、私が、私の主が分からなかった……?」
俺が追撃をかけようとした時、不意にサクヤが小さく呟いた。両手で自らの顔を覆っている彼女は震えていた。
「……ミコト、ラケル様を離しなさい」
「けどな!」
「私が知りたいの!だから……お願い!」
必死に言われれば退かざるを得ない。俺は仕方なくサクヤの傍らにつく。床の絨毯を見つめているため表情は分からない。というより予想するのが辛い。
「私の魂がない……?記憶じゃなくて……?」
「記憶喪失と聞いているが、それはあくまで副作用だ」
「はっきり言えよ」
脅すように言うが奴は動じない。あのシズカが苦手にする相手だ。これぐらいではおそらく何も思わないに違いないが。
ラケルはクリスを許可を求めるように一瞥した後ゆっくりと口を開いた。
「君の家族が皆殺しになったあの召喚事故。実際に見て確信した。あれは召喚事故なんかじゃない。魔王があの場で生まれたから君の家族は死に、君の魂の大半は魔王に喰われたのさ」
休憩しているユーヤが同じく座ってバイオロイド達を眺めていた僕を怪訝そうに見ている。
「シズカ?」
「何だい?」
ラケルに交渉されて、僕はサクヤちゃんに関して極秘で調べていた一切合切の情報を渡した。それらはどうやら彼女の調査を裏付けるものだったらしく、おかげで今回の騒動がこじれた原因があらかた分かった。
そして今、ラケルの口から告げられるであろう、一部とはいえ真実を知った彼女とリーダーはどう動くだろうか?
きっと現実逃避するに違いない。心に傷を負ったり、疑心暗鬼になったり、最悪の場合、絶望のあまり自害するかもしれない。
「何でそんなに禍々しく笑っているんだい?」
「え?」
いけない。つい表情に出ていた。何も知らないユーヤに不審がられてしまう。
と、ラケルと王女が建物の外に出てきた。誰から見ても痛ましい表情の王女と異なり、ラケルの目は今にも僕を殺しにかかりそうだった。
更新速度戻します。一日一話です。