6
その時。
「私が相手だ!」
跳び出してきたのは全身を純白の甲冑で覆った騎士だった。暴風を纏った騎士は怯まずに持っていた先が尖った盾で熱火竜の目を殴りつける。
「サクヤ嬢、今のうちだ!」
手を止めないで熱火竜を殴りつけながら純白の騎士が叫ぶ。こいつ、サクヤの知り合いか!?目を攻撃された熱火竜が苛立ったように騎士の方を向いている隙に俺達は手近な崩れかけた建物内へ逃げ込む。そして騎士を援護するためにそこから腰の革袋に入れて携帯していた煙幕を袋ごと投げ込んだ。なんだかんだ言って、また小道具に世話になっている。
一瞬で煙に包まれた周囲はあまりの煙の濃さで奇しくも鼻まで麻痺するのが分かった。少し多すぎたかもしれないが念には念を入れた方がいいだろう。
しばらくして遠ざかってゆく熱火竜の気配と近くで騎士のたてる甲冑の足音を感じる。少しずつ煙も晴れてきた。俺は物陰に潜んだまま声をかけた。
「助かった……ところであんた何者だ?」
「何で私のことを知っているの?」
甲冑を着たままとはいえ、騎士の身長はユーヤと同じぐらい。つまり声の通りに若いならありふれた背格好といえる。た
「サクヤ嬢とは数年来だったな。私だ、クリスだ」
兜が騎士の手自ら外された。その下から現れた顔を見て、サクヤが目を丸くする。
「本物のクリス様……!?」
長い輝く金髪を一部だけ後ろで結った美男子がそこにいた。いかにも高貴な雰囲気を振りまいている…どこかで似た雰囲気を感じたことがあるような。
「王子兄様から話に聞いてはいたが息災でなによりだ…もっともこんなことになってしまうとは思わなかったが」
やけに様になるアンニュイな表情でクリスは深く溜め息をついた。そうか、こいつ、フロスを召喚した王子とかいう黒髪の弟なのか!見た目は似ていないがなんとなく納得した。
とサクヤが表情を曇らせた。
「クリス様、ところでローレル様の姿が見当たりませんが……」
「あやつは今別の者の担当になってな。私の従者はおそらく今頃南大通りに大量発生している化け物共相手にやりたい放題であろうよ」
愉快そうに笑うクリス。南大通り…ってことはナナミやシズカと鉢合わせになっているかもしれない。
「ところでクリス様、何故貴方様がこんな所に?辺境にいらしたはずですが」
邪気のないサクヤの問いに何故かクリスの表情が強張った。そのまま彼はひびが入っている窓の外の狂い咲きの古桜を見つける。
「あの桜の封印楔に用があったのだ。実はサクヤ嬢にも関係があることなのだが」
サクヤに?俺もサクヤも目を丸くする。
「封印楔は本来数年前のあの召喚事故の際にも発動しなくてはならなかったのだ。あれの成り立ちを考えると…その様子だとサクヤ嬢は幼い頃にあの事故で御両親がお亡くなりになったから知らないのだな?」
あの召喚事故?何だそれ?きょとんとする俺を見て、クリスが非難するようにサクヤを睨む。
「……サクヤ嬢、使い魔殿に教えてなかったのか」
「……だって覚えてなくて」
「だって、じゃない。もっとも今となっては、そこの使い魔殿をみる限り、あれが本当にサクヤ嬢による召喚事故だったかは疑わしいがな」
俺はそのまま続きそうなクリスの非難を制止した。
「待て、今は封印楔の方が大事だ。クリス、エアロイド達が封印楔は外敵によって弱まったと言ってた。外敵について何か知ってるか?」
あの桜に用があったのならひょっとしたら。そんな淡い期待は予想外の返事で砕かれた。