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確かにここで私が彼らの想定する人物とは違うとバレたらまた意味不明な理由でミコトを攻撃されそうだ。私はおとなしく頷いた。私達が注意を引いている間にユーヤが手っ取り早く治癒魔法で学生の手当てを終えたらしく、一息ついた後おもむろに立ち上がる。そしてエアロイド達に尋ねた。
「ところで今この辺りはどういう状況なんだい?外出たらこんなんで驚いているんだ」
「……簡潔に言えば封印楔が外敵によって弱まり、封印されていた害獣の一部が外に出てきて人々を襲っている。またその外敵が連れてきた魔獣も現在市街地に溢れている……が、その魔獣がどうも奇妙なのだ」
茶髪エアロイドが緑エアロイドの言葉を引き継いだ。
「見た目は害獣と大差ないのですが、倒すと魔力を含んだ黒い液体になるのです。まるでタールのような。あれがおかしい理由なのでしょうか。なるべく触らないことを推奨します」
その時だった。
〈ミコトさん!シズカさん!〉
どこからかナナミの声が聞こえてきた。確かナナミはネルに付き添って商業地区にいるはずだが。
「ナナミか。どこにいる?」
ミコトが問い返しながら見回すが全く姿が見えない。再びナナミの声がした。
〈ネルさんの魔具を使って通信してるので今いるのは南大通りなんですが……一体何がどうなってるんですか?辺り一面ナユタ狩猟区のモンスター勢揃い、って感じですよ〉
ナユタ狩猟区のモンスター。ミコトは先程のエアロイドの襲撃とナナミの情報を脳内で整理したらしく何かに気付いた時、彼の顔から血の気が引くのが分かった。シズカが黙り込んだミコトの代わりに尋ねる。
「南大通りの死傷者は?」
〈死者はいませんが……重傷が何人か。退治に当たってますが、敵が多いのと液体化した黒いなにかに阻害されて直接攻撃しか出来ない状態です〉
ナナミは確かに私でも敵わないような熟練した弓使いだが前衛もなく多数を相手どるのは難しい。ましてや普段の狩りと違い、守らないといけない無力化された学生がいるとなれば。
「……どれ位保ちそうだ」
〈休暇で自陣が少ないのと出血量から考えて……半時、それが限度です〉
だいぶ切羽詰まっているのか徐々にナナミの口数も減ってきた。シズカは深く溜め息をつく。彼の中でどうやら決定が出たようだ。
「リーダー、あのね、僕とゆーちゃんはナナミちゃんを援護しにいく。戦線をなるべく維持する。だから……この馬鹿どもが言う封印楔は二人に頼んだよ」
そして彼はエアロイドに向き直った。エアロイドが明らかに恐怖を感じたように息を飲む。どうやらシズカの狂気は人造生命でも対象内らしい。
「今から二人、僕らと位置を入れ替えた生徒がここにくる。彼らは僕とは違って君達が守るべき人間だから絶対守り抜け」
どこか皮肉っぽく笑いながらシズカがユーヤの手を取る。そのまま何か小さく呟いた。
次の瞬間、その姿は消え、怯えた様子の学生二人がそこに座り込んでいた。幸い彼らは軽傷だ。突然の出来事にエアロイド達は唖然としたが、すぐに言われたことを思い出したのか二人を保護することにしたらしい。この様子なら彼らはもう大丈夫だろう。
ミコトが険しい表情のまま、慌てて動き出す彼らを背にして歩き始めた。
「サクヤ、急ぐぞ」