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双黒の逃亡者 7

三話連続更新の二話目です

 連携を決めて森猿を追い詰める二人をアスカは見ていた。

「ナナミ!」

「はい!」

 具体的な指示も出していないのに相手の意図を読み、回避し、攻撃する。まさにずっと一緒だった兄妹だからこそ可能な連携である。

「アスカ、調合終わった!?」

 ナナミが鬼気迫る様子で問う。アスカはガクガクと頷いた。それでも手は止めない。

 戦闘前に二人がアスカに割り振ったのは狩りで使う補助道具の調合だった。戦況に応じて違う補助道具をその場で作る。行くまでの間大量に押し付けられた素材は既に罠や特殊な球に変化していた。今作り終わったのは煙玉だ。携帯できるサイズの擂り鉢と乳棒はもはや手に馴染んでいた。

「投げて!一時撤退!」

「お、おう!」

 アスカは力一杯投げる。届かなく思えたそれは咄嗟の判断で放たれたナナミの矢を受けて森猿まで届いた。周囲にたちこめる白煙が残っている間に三人は素材を持って遠くまで逃げる。

「……今のうちに」

 フロスは手近な木陰に入ると同時に応急手当てをし始める。アスカはフロスに出しておいた包帯を渡して今度は閃光球を作り始める。あまりに忙しいのと集中しないといけないのと長時間の緊張のしすぎで体力に限界が来ても吐き気が込み上げてくる暇すら無い。

「また足音が……お兄ちゃん!」

「よし!あと少しだ」

 二人の戦いはある意味ゲリラ戦だ。地の利は相手にあるが人数と補助道具でごり押しをしている。

 再び戦闘が始まる。と、その数秒後。

「え、倒した?」

 死に際のモンスターがそこにいた。フロスとナナミは一度だけ視線を交差させ、武器をしまう。そしてアスカを見た。

「……アスカ、トドメはアスカだよ」

「え?」

 何故。自分がやったのは調合だけ。フロスは続ける。普段はお気楽な面が目立つが、今、彼の目は真剣そのものだった。

「そして覚えろ。ハンターは命を奪い生きる者だと」

 ハンターの生き様。それを実際に二人はアスカに教えようとしている。アスカはその誇りの重さを実感する。長剣を抜く手が震えた。

「……いただきます」

 ごめんなさい、そしてありがとう。

 アスカは動かなくなった森猿に自然と涙を流しながら一礼した。



 月光花の蜜を採集し終わったミコトは急いでシズカの元に向かっていた。ひっきりなしに聞こえる雪飛竜の歌声は嫌な予感をさせるのに十分だった。

 先程二人が別れた場所はとんでもないことになっていた。木々はへし折れ、雪にどちらのものか分からない血が滲んでいる。シズカはあまり質が良くなかったのか、ひびが入った大剣で何とか爪を受け流していた。初めての相手に慣れない武器で此処まで保ったのは奇跡的だ。

「シズカ!」

 すぐに駆け寄り援護しようとした時だった。

 目の前からシズカの体が吹っ飛んでいた。砕けた大剣の柄は彼の手を離れミコトの前に落ちる。鈍い音と共にシズカの体は折れた木に叩きつけられていた。

「シズカああぁ!」

 そして。

 彼の腹部からは折れた木が覗いていた。今までの比にならない出血にシズカは叫ぶことすら出来ずに痙攣している。口からは大量の血液が溢れていた。串刺しになったシズカを見て雪飛竜は不吉に歌う。本能のままに抵抗しなくなった獲物を食べる気だ。

 させない。ミコトはその前に飛び出す。

「てめえぇ!」

 雪飛竜が邪魔そうに彼をなぎ払おうとする。

 奇妙なことが起きたのはその時だった。

 カチリ。リーンゴンゴン。

 歯車と鐘の音。山で聞こえるはずのないそれにミコトは思わず周辺を見回す。雪飛竜も怯えたように硬直している。その視線がシズカに向いた時ミコトは異変に気付いた。

 シズカの姿は変容していた。

 黒髪は白く色が抜け、見開いた瞳は緑に輝き。

 それは《赤羽根》が探していた人物と寸分違わなかった。

「……」

 シズカがゆらりと動き出す。足に力を入れることで木の残骸を無造作に引き抜き、躊躇う素振りなく歩き出す姿は人形のようだ。事実、血を拭う気配すらない。そのどこか虚ろな瞳に正気は無かった。

 雪飛竜はミコトを無視してシズカに向かっていく。シズカは一気に跳躍して距離をつめた。

「っ!」

 抉るような蹴りは雪飛竜の翼を一撃でもぎ取った。続けて流れるように背中に踵落とし。常識はずれなその現実にミコトは呆然とそれを見ていた。

 あの重傷であの動き。とんでもない。胴体が千切れていないのがおかしいぐらいだ。

 やがて常識外れな一方的な暴力を受け続けた雪飛竜が断末魔をあげる。そこでシズカの足が初めて地上に着いた。足元に腹部から零れた血が滲む。雪飛竜の骸は静かに雪の上に倒れた。同時にシズカの体も糸が切れたようにゆっくりと崩れ落ちる。雪のように白い髪も一瞬で黒く染まった。

「シズカ!」

 呆気にとられていたがすぐにミコトはシズカを抱き起こす。聞こえてきたのは安定した呼吸。どうやら気絶しているだけのようだ。更に不思議なことだが、腹部の致命傷は既に塞がっている。

 しばらく黙っていたが、結局ミコトは雪飛竜を横目で見ながら下山するためシズカを背負った。


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