双黒の逃亡者 5
その夜―――
ギルドホームに突然一人の《赤羽根》が現れた。ハンター達を警戒するように見回した後《赤羽根》はギルド長に駆け寄る。羽根飾りがついた赤い帽子を目深に被っているせいで素顔は分からないが体格から考えておそらく男だ。
ギルド長は不愉快そうに顔をしかめた。
「なんじゃ、国王直属の騎士がこんな所まで」
「とある二人組を探している」
たまたま居合わせたミコト、フロス、マトの表情に緊張が走る。シズカとアスカは落ち着いた反動で久しぶりにぐっすり眠っているはずだ。見つかってもすぐには逃げられない。
好々爺に見えながらもなかなかに強かなギルド長は薄く笑う。
「ほぅ、どんな二人組じゃ?」
だが一同の予想はあっさりと裏切られた。
「片方は子供、片方は白髪頭に緑の目の若い男だ」
彼が告げた特徴は二人とはかけ離れていたのだ。
「白髪頭に緑目で若造……残念じゃが、知らんなぁ」
本当に見当がつかないため困惑したようにギルド長がミコト達を見る。三人は頷いた。
「そんな目立つ外見の奴らだったらすぐ分かるし、子供の方に至っては情報が無さ過ぎるのぅ。性別だけでもわかればまだ探しようもあるが」
「だな。他を当たりな」
ミコトはやれやれと首を振る。《赤羽根》は困ったように黙っていたが、やがて丁寧に一礼してギルドホームを飛び出していった。意外に礼儀正しいらしい。
「…で、ミコト。どういうことじゃ。あれはシズカとアスカのことだと思うか?」
気配が消えたのを確かめてからギルド長は呟く。ミコトは溜め息をついた。
「多分。じゃなきゃこのタイミングはおかしい」
「なら何であんなに特徴が違うんじゃ」
「……さぁ?」
ただとりあえずこれでこの辺りの追っ手は消えた可能性が高い。ミコトはフロスとマトに警戒を頼んで二人の元に向かうことにした。
「あ、ミコトさん」
入り口ではナナミが見張りをしている。アスカに頼まれたからだ。可憐で親身なナナミはどうやら打ち解けやすかったらしい。
「二人は寝てますよ」
「ちょっと失礼するわ」
ミコトは音を立てないように静かにドアを開ける。今度は殺気を食らうことは無かった。
「本当に寝てるな……」
いつもは自分が寝ている寝台で親子のように眠る二人を見て、どこかあったかいような、こそばゆい気持ちになる。それでもさっきの件は伝えておいた方がいいだろう。起こしたくはないが。
「シズカ、起きろ」
「……ん?」
揺り動かしてようやくシズカが目蓋を開く。まだ覚醒しきっていないらしく、どこかとろんとした目つきだ。
「シズカ、今追っ手が来た。が、何だか追ってるのが白髪頭の緑目と子供、とのことだったからお帰りいただいた。これで文句ないか?」
「……あぁ、あいつら、勘違いしてたのか。なら、もう、逃げなくて、いいか」
シズカが再び眠りに落ちようとするがミコトは許さなかった。
「勘違い?どういうことだ」
「影武者、だ。それと勘違いされて、追われてた」
いまいち釈然としないがこれ以上シズカは教えてくれそうにない。
「……じゃあ本格的に治療するか」
またすやすやと眠り始めたシズカを見ながらミコトは部屋を後にした。