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双黒の逃亡者 3

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 二人を連れてナユタ村に戻ると、やはりフロスやナナミから勝手だと叱られたミコトはそのまま二人の教育係をすることになった。が、ここで新たな問題が発生した。

 三人は今、ナユタ狩猟区の森林地帯にいた。

「うぐっ……」

 踏みしめることで周囲に漂った草の香りでも隠せないほどの濃厚な血臭に吐き気を催すアスカはギルド長から貰ったお古の長剣を杖代わりに何とか立ってる状況だ。

「馬鹿!動けないなら後ろに撤退しろ!」

 その前には森猿。比較的小型のモンスターだがそれでもアスカより巨大だ。打たれ弱いが攻撃力が高いので新人ハンターがよく殺される相手でもある。その太い腕は十分対策をしなければぶつかるだけでも骨が砕けるだろう。そして森猿は今や隙だらけのアスカを腕を振り上げて狙っていた。

「任せて」

 淡々とした言葉と共に後衛にいたシズカが飛び出してくる。そのまま躊躇する様子なく手にした投石器で次々と石を撃ち、森猿の頭をタコ殴りし始めた。ダメージは少ないがかなり鬱陶しいはずだ。その間にミコトは動けないアスカを抱えて後ろに下がる。筋肉も脂肪もほとんどないその未成熟な体はミコトでも楽に抱えられるほど軽かった。

 集中放火を受け、森猿は完全に標的をシズカに切り替える。とシズカは軽く跳躍して間髪入れずその首筋に降り立つ。明らかに狙いすました動きだった。

 骨が折れる嫌な音と共に森猿は倒れた。数分待っても動く気配はない。もう安全だろうと判断したミコトは近付いて死骸を検分する。

「即死、だな。お疲れ様。剥ぎ取りはお前らがしていい。森猿はもうだいぶ持ってるからな」

「剥ぎ取り……?」

 アスカがよろよろと立ち上がる。シズカは無感動に死骸を見ていた。

「アスカ、譲る」

「森猿で素材になるのは主に尾と牙、毛皮だが…牙は諦めろ。さっきので砕けてる」

 とその瞬間。

 アスカは死骸を覗き込んだまま嘔吐した。



「ミコト、あの二人はどう?」

 ギルドホームで待っていたフロスの問いにミコトは頭を抱えていた。当の二人はミコトの私室で手当てをしている。近くのテーブルには他のメンバー、ナナミとマトもいた。

「最悪だ……手に負えん」

 まずシズカ。森猿をほぼ一人で瞬殺したことから分かる通り戦闘能力は問題ない。ただ、本人が自覚する通りモンスターというより人間と戦っているように見えるのだ。森猿相手だから大丈夫だったが、竜などになればあのスタイルは通用しないだろう。モンスターの頑丈さは素手を武器にしたハンターがいないことからも分かる通り、並大抵ではない。更に投石器という武器もあまりにトリッキーでチームプレイには向かない。ガンナーのマトや弓使いのナナミとの連携とはまた勝手が違うのだ。

「シズカは近接武器の習得がいるな……」

 そしてアスカ。彼はまず、あまりに血に慣れていなさすぎる。どこか裕福な家で大事に育てられてきたに違いない。モンスターには怯え、武器には慣れておらず、まさにハンターに不向きな人間を絵に描いたようだ。

「アスカはさっきも手当てしようとしたら噛みつかれたしな……これ、歯形」

「うわぁ……災難だね」

 と、容赦のない二人のやりとりを少し離れた場所で聞いていたナナミが怒ったように机を叩いた。

「ミコトさん、お兄ちゃん!酷くないですか!?」

 そのまま足音も荒く接近してくる。

「ナナミ!?」

 突然のことに狼狽えたフロスの腕を掴みナナミは背負い投げをキメた。本気で怒っている証拠だ。ミコトは思わずいつでも逃げられるようにしつつ恐る恐る尋ねた。

「ナナミ、何でそんなに怒って……!?」

「分からないんですか!?アスカにとっては追っ手も知り合ったばかりの私達も大差無いんですよ!?なのに信用しろ?無理に決まってるじゃないですか!」

 たたみかけるようなナナミの言葉にミコトは唖然とした。

「二人で命からがらナユタまで逃げてきたんですよ!?それなのに誰も信じられるはずないじゃないですか!それなのに何の配慮もなく好き勝手…ミコトさん、少し見損ないました」

「……そうだな。ナナミさんに一理ある。そしてミコトにフロス、ひょっとしてシズカのあの装備に見覚えが無いのか?」

 続いて静かに口を開いたのはガンナーのマトだ。その怜悧な顔立ちに相応しくいつでも落ち着いた彼は吟味しながら言葉を紡ぐ。

「あれは国王直属の騎士《羽根》の一派《黒羽根》の制服だ。専門は暗殺。奴が投石器を使うのは慣れればなんでも弾に出来るのと皮膚さえ切れなければ血がほとんど出ないからだろう。だからアスカも血を見慣れてなくても仕方ないとは思わないか?」

「……奴らを登録する時にギルド長が動揺してたのはそのせいか」

 いきなり中央の国王直属の暗殺者がハンターになると言ってきたら驚くのは当然だ。何らかの任務だと思ったかもしれない。ミコトが知らなかったからこその食い違いである。

 最低だ。自己嫌悪を隠すことすら出来ず、ミコトはゆっくりと立ち上がる。

「どこに行くんですか!?まだお説教は」

「……奴らを勘違いしてた。謝りに行く」

 ハンターとしての誇りを押し付けて二人の事情を何も理解していなかった。

 これで何が団長だ。

 メンバーをわかってやれなかったことへの自責は当分は拭えないだろう。

「あいつらに殴られても仕方ないな」

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