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アンノウン・ブレイブ  作者: 染井Ichica
2章 深海少女と薔薇の騎士
30/101

13

「こんな露骨なお涙頂戴の三文芝居なんて誰も期待して無い」

 それはいつになく荒れた口調のシズカで。《青薔薇》とシキは叩かれた頬を押さえながら呆然とシズカを見ていた。私は思わず震え出してしまう体を押さえつける。彼から発する怒気はそれほどに狂気に満ちていた。

「君を忘れて幸せになっててごめんなさい?君のために魔王の使い魔になって沢山の殺人を犯してきました?はっ、笑わせるなよ」

 シキが唇を噛み締める。一体、シズカは彼らの何を知っているのだろうか。

 だが、私達の疑問を綺麗に無視して、言いたいだけ言った彼は歪んだ笑みを浮かべる。

「そうやって何もかもを背負ったつもりで傷を舐めあうかい?」

 いや、それは笑みなどというものではもはやなかった。

「甘ちゃん共が」

 その黒曜の瞳は緑に輝き、怒りを燃やしていた。

「実に不愉快だ。そんな綺麗事に昇華になんてさせてたまるか。だから」

 感情のままに彼は呪いを吐く。

「―――《君らの関係性よ白紙に戻れ》」

 その瞬間世界が変わったような錯覚を覚えた。どこからか歯車がかみ合うような音がしたのは錯覚だろうか。

 脈絡のない言葉に《青薔薇》とシキは目を見開いてただ立ち尽くしている。いち早く我にかえったコグレさんが二人の元に駆け寄った。

「大丈夫か!?」

 揺さぶられた《青薔薇》の瞳が微かに揺れる。そのまま彼女は困ったような顔で信じられない言葉を紡いだ。

「あの……コグレさん、この方はどなたですか?」

 コグレさんの目が見開かれる。それもそうだろう。彼女はどうしてしまったのか。

「何の冗談を……え?」

 困惑したコグレさんの言葉に対しても《青薔薇》はきょとんとしていた。同様にシキも不思議そうに彼女を見ている。

「私は、何故ここに?絵を描いていたはずじゃ……何も思い出せない」

 思わず私はシズカを振り返った。ついさっきまで激怒していた片鱗さえ見せず彼は微笑む。

「こっちの美少女は《青薔薇》アリアちゃん、こっちのイケメンは《紫貴》ヤンフェルさんだよ。これから一緒にコグレちゃんの使い魔をしてもらうから仲良くしてね……サクヤちゃん、抗議は後でね」

 彼の意図が読めない。そのままシズカは勝手にテーマパークへと歩き出し、狐耳の少年についてくるよう促す。一切彼は振り返らなかった。

「さて、これで一見落着、でしょ?」

 誰も異議を唱えなかった。否、唱えることなど出来なかった。



 先に戻ったメンバーの後を追い俺とフロスと王子が控え室に戻るとサクヤがシズカの襟首を掴んでいた。当然コグレと使い魔二名は別室だ。これからの話を聞かせるわけにはいかないということらしい。

「あれ、どういうことよ!」

「どういうことって……あのままじゃ二人の精神が近いうちに壊れちゃうからね」

 暴力をふるわれてもおかしくない状況でシズカは平然と言った。

「《青薔薇》ちゃんは見たままだけど、ヤンフェルの方も彼女に自分がしてきたことが知られてるって分かったら崩壊する。それほどの緊張感だった。だから全てをリセットした。それにより魔王の誕生を食い止められた」

 だから彼らを最初から出逢ったことがなかったことにした。同時にそれまでの人生も生きがいも失ってしまったみたいだけれど。だから今の彼らはふわふわしたなんでも外部からの理由づけに納得してしまう存在だ。そうシズカは笑う。寒気がした。きっとそれはあまりに人との関わりというものを冒涜しているからか、それとも一瞬で人生をまっさらに変えてしまうという横暴のせいか。どちらにしても性質が悪い。

「……意味が分からないわ。それに何で魔王の誕生とかそこに関わってるのよ」

 それはサクヤ以外も疑問に思ってるようだ。俺もその一人である。もっとも俺は今どんな状況だかわからないがためさっぱりなわけだが。と、シズカが何かを懐から取り出す。それは黒ずんだ何かだった。

「これは今隙が生じた二人の魂から回収したばっかの魔王因子。多分まともな君らには何か、ってぐらいしか認識できないと思うけど割とグロいよ」

 大きさは指先で摘めるぐらいだろうか。近くなのにはっきりとは見えないが見ていて何故か不安感をかきたてられる。

「彼らは魔王になる魔王因子持ちだった。完全に精神が崩壊したらあの場で魔王化してただろうね。魔王因子ってやつは僕以上に悪趣味だから」

 と次の瞬間。

 シズカはとんでもないことをしでかした。

「いただきまーす」

 まさかの。

「食べたああぁ!?」

 フロスの絶叫。相変わらずやかましかった。女性陣は見事に絶句している。

「ぺっ、して下さい先輩!じゃないといくら味覚音痴の先輩でも死にますよ!?」

 王子も半狂乱だ。それを嚥下し終わったシズカは心外そうに二人を見た。

「あのさ、ムラサちゃんぐらい落ちつきなよ二人とも……これ、《タナトス喰い》の僕が食べる分には無害」

 もっともムラサは落ち着いていたのではなく、ひたすらドン引きしていただけだ。シズカの言葉に王子はつまらなさそうに首を振る。

「……なんだ、名前が違うだけですか。心配して損しました。というわけでお詫びに一回メイド服着て無様に御奉仕して下さい。シズカ先輩のメイド服なら見れなくはないですから」

 自然と鳥肌がたつ……変態がっ、変態がいた!

 シズカはそんな王子を足蹴にして俺を見る。

「いい歳して嫌だよ……ってリーダー、君がジト目できる義理じゃないからね」

 ちなみに俺もシズカに女装させたことがある。というより、《白蓮装備》は本来女子用である。シズカが細いから着られるだけで。結局こちらは嫌がりつつも使いやすさから本人のお気に入り化したが。

 そうこうしているうちにすっかり今までの話が有耶無耶になっていることに気付く。多分シズカの狙い通りなんだろう。

「で、結局今回はどうやって収拾つけるつもりなんだ?」

 俺の問いにシズカは何故かフロスを見る。下で踏まれる王子は表情が緩みきっていた。

「フロスちゃん、君に任せるよ」

「え?あ、うん……そうだなぁ、とりあえず」

 フロスはどこか戸惑ったような笑顔を浮かべる。相変わらず無茶苦茶な彼に振り回されてしまう点は変わっていないらしい。

「一件落着、かな?」


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