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アンノウン・ブレイブ  作者: 染井Ichica
2章 深海少女と薔薇の騎士
23/101

6

 当日。

「何よ?」

「……微妙」

 明らかな人工物の集合を見てミコトがつまらなさそうに呟く。アトラクションに乗る前からそこまで退屈そうにされるとは思ってなかった。一応これからの有力デートスポットになること間違いなしの観光地になんて反応だ。だからナナミのような可愛い子が仲間にいながらモテないのだろう、この朴念仁は。

「うん、まぁ君の場合、そう言うと思ってたぜ」

 一方此方はすぐにお土産屋に突入したシズカ。なんかお土産の定義を間違っている気がしなくもない。

「だって後からじゃ買えなくなるじゃないか」

 頭いいだろ、と言わんばかりのどや顔は無視しよう。

「―――あ、いたいた!」

 事務所らしき場所からコグレさんと《青薔薇》が出てくる。大慌てといった様子だ。

「これから特設ステージでスポンサーの挨拶があるんだけどサクラとして来てくれないか?客が少なくて、上司から脅されちゃって」

 あまりに露骨なお願い。サクラ……まぁ招待された身分だから協力するか。

「ユーヤとネルは?」

「付き合うよ。暇つぶしに来ただけだし」

「僕も」

 ユーヤはともかくネル、いい子すぎる……!

「じゃあついてきてくれ」



 それは予感。

「あら、無粋ね。せっかくの再会の邪魔しようなんて」

 突然のムラサの言葉においらは眉をひそめた。

「どんな奴?」

「魔獣化したドラゴン二体に黄泉烏が五体、あとは雑魚。ここに来るまであと半時かしら。海からっていうのが幸いね」

 海が絡んだ時のムラサの千里眼は精度が高い。これには何度助けられてきたことか。おいらはおーじ様を見た。おーじ様は《足》の日常点検をしていたらしい。そんな挙動でも相変わらず格好いいのはおーじ様特権だろう。

「どうする?」

「仕方ない。挨拶だけしたら……任務に切り替える。入念に武装しておけ。あとお前の場合、あの三人も仲間に引き込め。強さはともかく数が数だからね」

 やっぱりそうなるよね。おいらは深く溜め息をつく。

「そりゃあいつらがいたらすぐ片付くだろうけど……今は一般人なわけだし。巻き込むのはよくないんじゃないかな」

「あら、そんな殊勝なことを……本当にあんた、丸くなったわね。出逢った時とは大違い」

 ムラサは大袈裟に口元を覆いながらおいらを感慨深そうに見つめる。心外だ。とはいえ言われても仕方ない自覚はある。

「いきなり異世界に飛ばされた挙げ句色々迫害されて荒れてた頃だったからなぁ」

 最初は成り行きで仲間にさせられてしまったムラサのこともただの道具と切り捨てる気満々だったし。今思えば自分がどれだけ傍迷惑だったことか。

「わかってるわよ。だからアタシはそんな可哀想なあんたに協力したんじゃない。でもまぁ、あんたが本当はいい子で、しかも召喚体質なんて貧乏くじだったとは思わなかったけどね。ま、楽しいことは確かだから許してあげる」

 でも今は暢気に回想なんてしてる場合じゃない。

 嗚呼、餌だ。餌がやってくる。そう、命を食らうという理性では抑えがたい飢餓感が込み上げてくる。

「さて、狩りの始まりだ」

 おいらはニヤリと笑っていた。



 会場に着いた途端、私達は不可解に思った。

「何よ、これ、サクラいらないじゃない」

 むしろ人混みで身動きもままならない。まるでテーマパークの中にいる全ての人間が集まっているような。コグレさんも不審そうに周辺を見回していた。

「おっかしいな……さっきは無人だったのに。まさか……」

 その時、突然ステージの上に出てきたのは武装した三人組。服装はバラバラだが共通点は薔薇の紋章を身に付けていることか。ミコトとナナミはステージの上に現れた人物を見て唖然とした表情になる。

「静粛に!思うことはあると思うけれど今はそんな場合じゃない」

 中央に立つどこぞの貴族らしき黒髪の青年が告げる。あれ?彼の姿はどこかで見たことがあるような気がする。

「プレオープンイベントは即刻中止!現在海の方面より多数の魔獣が接近中!よって僕らは今この時より株式会社《ジルバーン・ローザリウム》代表ではなく、《魔討の騎士》所属《薔薇の騎士》としてこの場に立ちます」

 それは波乱の幕開けだった。差し迫った危険によって人々がパニックに陥る。

「本部から支援が来るのは早くて二時間後。安全のためには皆様の協力が必要です!」

 青年は続けるが誰も聞いていない。当然だろう。死ぬかも知れないのだ。とはいえあまりに浅ましく見苦しい人々だ。

 と、無言でいたシズカが不機嫌そうに顔を歪める。そして次の瞬間。

「……《黙れ》」

 周辺から一切の話し声が消えた。口を開けても無音であることに驚く人がいるのが見えた。シズカから発せられたあまりの殺気に打ち勝てた人はミコト、ナナミにユーヤ、そして壇上の三人ぐらいだった。

「やぁ、久しぶりだね。一人新顔が混ざってるけど」

 そのまま笑顔でシズカがステージに向かって歩き出すと自然と道が出来た。人々は恐怖の目で彼を見ている。彼がどういう存在かが本能的に理解できたのだろう。

 シズカは愉快そうに言った。

「面白い、僕らが協力してあげるよ」


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