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「君達が…先日真名を奪われたっていう使い魔くんとその真名を一時的に戻したっていう使い魔くんかな?」
「おい、君、僕より年下だろ?見た目で判断せずに目上には敬語使えよ。それとシズカちゃんって気軽に呼んでくれ」
男の問いにシズカが悪ふざけをする。確かに相手は二十代前半だろうが今までの彼の振る舞いから考えて今更感がとてもする。
「失礼。私は王都新聞の特派員、コグレ・アルスと申します。この度貴方がたの話を聞き、お願いがあって此処まで来ました」
「お願い?」
するとアルスさんに促され後ろにいた少女が前に出てくる。少女は少し躊躇いながら口を開いた。
「私の真名を、教えて下さい」
僕らは学園近くの喫茶店に移動した。徹夜で限界が来ていたネルはナナミさんと共に自宅に帰らせたのでゆっくり話せる。時間帯もあり、客も僕らだけだ。
話をまとめると、まずコグレさんの使い魔は《青薔薇》という不思議な少女。持参されたグリモアによると《無名》秘種だそうだ。彼女は今から五年前にコグレさんに召喚されたらしいが、それまでの記憶が一切無いらしく、グリモアにも《無名》秘種、そして通称《青薔薇》としかなかったらしい。
「でも、それは通称とつく以上真名ではない、ってことなんでしょ?」
「えぇ」
《青薔薇》は頷く。隣に座るサクヤと比較するとまた彼女とは違った美少女である。
そもそもサクヤは幼なじみの僕の目から見ても立派な美少女だ。炎属性を使う彼女らしい、燃えるような赤の緩やかな巻き毛と気の強そうな顔立ちは情熱的で、コノハナ家の事情が無かったら気高いのにどこか可愛らしいところが残っている彼女はモテモテだろう。僕らの使い魔は見た目よりジジイ共なので其処ら辺はすっかり枯れているみたいだが。
一方《青薔薇》は神秘的な美少女だ。斑な青い長髪と変化の少ない表情、薔薇の花弁を思わせるカラフルなスカートは小柄で今にも折れてしまいそうに細い《青薔薇》を人形のように錯覚させる。
「先日の試合での彼の力を噂に聞いてね。ひょっとしたらって」
話しながらコグレさんはアイスコーヒーにガムシロップを三個も入れる。個人差があるとはいえ、少しばかり入れすぎじゃないか……?将来的には糖尿病確定だろう。回復担当のヒーラーとしてついそんなことを考えてしまう。
「そもそも秘種ってなんだ?俺の例から考えても複合型とかじゃ無さそうだが。サクヤ、知ってるか?」
ミコトさんが尋ねるがサクヤは首を振る。
「初耳よ……秘種?ユーヤは」
「知らない。コグレさんは?」
「同じく。ただ、多分秘種っていうのは《青薔薇》だけだろうな…勇者認定されてる使い魔にもいないぐらいだし」