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狩人の休日

 俺が召喚されてから三週間が過ぎた。生まれ育った世界とは全く違う街並みの中、欄干にもたれかかり俺はシズカと共に愛用の煙管をくゆらせていた。この世界の煙草は不純物が多く、あまり好きではないが習慣だから仕方あるまい。横目でシズカを見れば、奴はもうほとんど見られない薄桃色の花びらを上手くキャッチしていた。

「もうすぐ桜も終わるね……」

「この世界にも桜があったとはな。なぁ、今夜でも酒盛りしないか?」

 《狩猟団カグヤ》を組んでいた時はこの時期になると花見ついでに酒盛りをよくしていた。まぁ、花見に限らず大物相手の狩猟後はよく小規模ながら酒盛りしてどんちゃん騒ぎを繰り返していたが。

 俺の提案にシズカは懐かしそうに目を細めた。

「いいね。つまみはどうしようか?」

 ちなみにシズカは煙草も吸わないし、あまり酒に強くもない。なんでも母方の遺伝とのことだ。歳はとってるのにどこか幼さが残る見た目からして確かにそういったのは似合わなさそうだが。

 シズカの問いに俺は笑っていた。

「はっ、そんなの決まってるだろ」

 煙管を懐にしまいながら俺は歩き出す。せっかくだ、ナナミも呼ぶか。

「狩りに行くぞ」



「食用になるモンスターを狩りに?勿論っ、ネルの許可降りたら私も行きます!」

 《狩猟団カグヤ》の初期メンバーでもあるナナミは大きな青の瞳を煌めかせながら賛同してくれた。大人しそうなかわいい見た目をしているが、ナナミは小柄ではあるものの成人男性である俺を軽々とぶっ飛ばす程度には怪力自慢の狩猟馬鹿である。現実は無情だ。

「楽しみですね!」

「あの事件以降、事後処理で忙しかったからね。鬱憤溜まってるでしょ?」

 先日、俺は文字通り自分の魂の一部を奪われるという事件に遭った。幸い事件自体はたった二日間という短い期間で完結したのだが、一応被害者というものになってしまったせいで取り調べや検査、と自由に行動出来なかったのだ。

「さて、今回の狩りの標的はこいつだ」

 俺はあらかじめ酒場で貰って来ておいた貼り紙を二人の前に出す。知らない文字だが召喚補正とやらで意味が分かるのは素晴らしい。

 内容を読みながらナナミが首を傾げる。

「トカゲ……?ドラゴンじゃないんですか?」

「この世界のモンスターを倒すのは初めてだから腕ならしにあんまり強くなさそうなのをな」

 俺達の世界の常識がこの世界でも通じるとは限らないというのはつい先日実践済みである。主に悪ふざけ大好きなシズカのせいで。だから調子にのって大物に手を出すのは止めた方がいいと判断したのだ。ハンターとはふとしたことで命を落とす危険性のある職業だからこその用心である。するとわくわくしている俺達を横目にシズカが不安げに眉を下げた。

「うーん、そんなに心配しなくても大丈夫なんだけど……」



 今僕の目の前には不満げな表情のリーダーと拍子抜けした様子のなっちゃんがいる。

「……シズカ、まさかこれで終わりとか」

「終わりだよ。この世界の生物は召喚術が発達したからかな、魔獣とかでもない限りドラゴンでもあんま強くないんだよね。使い魔無しの一般人にとって危険度が高いのでもこのレベル」

 まず大きさからしてあれだった。危険度の高いモンスター=家屋サイズが常識の二人なので初めは気付かず素通り、襲われて初めて人間サイズのそれが討伐対象だと気付く。が、リーダーが牽制のために放った様子見の一撃であっけなく即死。僕は一度ゆーちゃんと一緒に狩りに来たことがあるから大体どうなるかは予想はしてたものの、これは確かに酷い。リーダーはつい先日異世界の神話に出てくる強いドラゴンと戦ったばかりだから尚更だろう。

「さぁ素材剥いで帰るよー。肉食べよう肉、うん。トカゲ肉、トカゲに」

「―――シズカ、かわせよ」

 解体をしようとナイフを握った途端、何故か首筋に寒気が走る。振り返るとそこにはそれぞれの武器を構える二人の姿が……。



 その日、僕の仲間のハンター二人が暇を持て余したが故に対人戦に目覚めた。


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