罪と罰
主人公不在回です。
禁術使用の罪で逮捕されたワイ・プレンデルはとある辺境に連行されていた。
「くそ、一体なんでこんな場所に」
裁判は受けさせてもらえないのか。そう思いながら先行する役人についていく。やがて見えてきたのは簡素なテントの群れだった。どうやら野営地らしい。
「連れて参りました」
「―――ご苦労」
役人がテントに声をかけると中から聞こえてきたのは女性の声だった。プレンデルは眉をひそめる。
「後は此方で処理します。お勤めご苦労様です」
「はっ、ありがたき御言葉!では失礼いたします」
役人が去り、テントの前には拘束されたままのプレンデルだけが残された。しばらくしてテントが開く。顔を見せたのは金色の髪を緩い三つ編みにして垂らした美しい少女だった。見た目こそ気品はあるが格好は村娘のような質素なものである。魔性の緑色の瞳がプレンデルを無感動に見つめていた。
「入りなさい。逆らわない方が身のため」
「……」
返事がないプレンデルに痺れをきらしたのか少女は縄をぞんざいに引っ張りテントの中に引きずりこんだ。
そこで何やら書類を読んでいたのは甲冑を身につけたままの騎士だった。まだ若いがこちらは凛々しい顔立ちをしており、明らかに出来る雰囲気を醸し出している。
「こんな場所で対応することになってしまいすまないな」
「……誰だ貴様」
申し訳なさそうな騎士に対して敵意剥き出しなプレンデルの問いに少女の顔が少し苛立ちを浮かべる。
「お黙り。禁術使い」
「落ち着きたまえ。まだ言質をとっていない。さて…君は禁術を使用したか?我々が知りたいのはそれだけだ」
少女はこの騎士の使い魔か。見たところ対したことのない相手に見える。ならば。プレンデルは隠し持っていた杖を縄の中で握った。と、次の瞬間。
「―――現行犯、そして反省の色無しですね」
少女は笑っていた。その笑みはどこまでも美しく、何より。
プレンデルは止まらない震えに襲われていた。何故自分は喧嘩を売る相手を見誤ってしまったのだろう。あれは少女なんかではない。もっと危険で狂的な。
まさに彼女こそ暴君。
少女が近付いてくる。が、逃げられない。
「第二王女殿下の前での醜態。万死に値します。故に禁術使い。詫びることすら認めないからさっさと死ね」
「ラドン!」
弱りきっているとはいえ使い魔がいないよりはマシだ。プレンデルの呼び声に答え、ラドンが異空間から現れる。が、その牙は少女に届くことはなかった。
「危ないではないか」
座っていたはずの騎士が、その首を握りつぶしていたのだ。
「ありがとう。さて、第二王女殿下への狼藉が加わったわけですが」
少女の瞳が輝いた。
「魂さえ残さずに逝きなさい」
人一人分の塵を前に騎士は微かに困ったように溜め息をついた。
「相変わらず苛烈だ。そもそも禁術使いである以上生きて帰すつもりはなかったといえど」
「当たり前です。下手な慈悲をかけて魔王を発生させるわけにはいきませんから」
少女は塵の山をふみにじる。もしこの光景を事情を知った他の者が見たら悪女と罵るだろう。
「ランドールに伝えておかなくては。魔王になる予定だったものは既に処刑済みと」
「そうだな。さて、そろそろいい加減に王都へ戻りたいものだ」
騎士が伸びをすると少女は軽やかに笑った。
「大丈夫です。直に運命は動きます」
「……ふむ。そうだ。そういえば先程の役人の肩にこんなものが」
差し出されたのは小さな虫だった。少しばかりの興味を瞳に浮かべた少女はそれを受け取る。
「……盗聴の術式ですね。どうしたものでしょう」
「どこの勢力かは分からないが…大方我々を気に食わない輩だ、即刻潰そう」
少女が賛成とばかりに胸の前で手を合わせる。
「ええ。ではその前に……」
視線はテントの遙か先。馳せた思いはおそらくこのテント群が出来た理由。
「ストレッチに魔獣化ドラゴンでも殲滅してしまいしょうか」