12
日付が変わった頃、なんとか作業は全て終わった。最終的にユーヤの実家のスタッフが手伝いにきてくれたからこんなに早く終わったのだ。だからユーヤは今日は実家に帰るらしい。そんなこんなで校門を抜けると、よく知る人物が私達の元を尋ねてきていた。
「お兄ちゃんどうしよう!?真似してたら本当の使い魔喚んじゃった!」
私の、今は亡き妹の乳兄弟にしてユーヤの弟のネルと、見慣れない狩人らしき赤毛のボーイッシュな少女がそこには立っていた。間違ってもこんな時間に出歩くのは危険であり、この場にいるということは訳ありである。彼はまだ幼い。つまり使い魔所持の規定年齢に達していないのだから十分緊急事態であるといえる。一方ミコトとシズカは唖然とした表情でその女性を見ている。
「落ち着いて!例が無いわけじゃないし、怪我も無いなら大丈夫…多分!」
慌てているせいでいまいち説得力は無いが規定年齢以下で使い魔召喚をしてしまう例はある。私がかつて起こした大事故もそれが原因だ。
むしろ気になったのは使い魔達の様子である。
「ミコトさんにシズカさん……?」
赤毛の少女は恐る恐る口を開く。二人は手を振り返した。
「ナナミ、だよな?本物か!」
「なっちゃん、久しぶり~」
また一波乱ありそうである。と、視界がぐらつく。それもそうだろう、使い魔召喚で魔力を殆ど使い果たした上に徹夜、更に何時間も肉体労働したのだ。このままだと石畳に激突しそうだけど、まぁ痛いのは我慢しよう。
「―――マスター」
だがそのまま倒れかけていた私は途中でミコトに支えられていた。ミコトは私を抱えてシズカに声をかける。
「すまないがマスターをもう休ませてやりたい。其方さんのは明日に回していいか?」
「そうだね。お肌のゴールデンタイムも過ぎちゃうしね。お休み」
半分眠気と疲労で意識が朦朧としている。しばらく彼の背で揺られていたがやがて家についたらしい。壊れてない客室のベッドに私を降ろし、彼はそのまま立ち去ろうとした。が、私はその服の裾を思わず握り締めた。
「……行っちゃやだ」
「……半分寝てるくせに」
ミコトは溜め息をつくが、出て行くのを諦めたようにベッドに腰掛けた。
「だってこんな時に他の人がいるのは随分と久し振りだから」
「そういえば家族の姿が見えないな」
「当然よ。もういないから」
私が起こした事故のせいで両親は死亡、妹は行方不明。何も言わなかったがミコトは察してくれたらしい。
「……すまない。不躾な質問だった。忘れてくれマスター」
「やだ」
私の言葉にミコトは困ったように眉を下げる。
「だからすまないと言ってる。許してくれ」
「そうじゃなくて。マスターっていうの禁止。召喚主と使い魔は対等。転移前の契約にも書いてあったでしょ」
それに彼は私には勿体ないほど素敵な使い魔だし。眠さのせいで色々ガードが緩くなっている気がしなくはないが、それだけは恥ずかしいので言わずにそっぽをむく。するとミコトから何やら変な音がしてきた。どうやら笑いを堪えきれなかったらしい。
「そうか、対等……分かった。サクヤ、これからよろしく」
「ん、よろしく……」
そのまま私は眠りに落ちていった。
翌朝。
目が覚めた私は知らないうちに隣に潜り込んできていたミコトに朝から説教をしていた。
「あのねぇ!いくら対等って言っても、その、あの、一緒に寝ろとは言ってないわよ!?」
「あのなぁ!?引っ張り込んだのはお前だぞ!?服掴まれた上でガシッとされたら起こさずに逃げるの無理だろうが!?俺が七十歳越えてなかったら襲われても文句言えないレベルのあれだぞ!?」
正座のまま顔を赤らめるな。だがそれ以上に気になったのが。
「……貴方、その外見でおじいちゃんなの?」
「種族柄な。だからまだ若者区分だ…正直、寝顔がかわいすぎてくらっときた」
何一つ解決していなかった。私は懐に入れたままだった杖を取り出す。
「そう、くらっと……天誅決定!この《紅の魔女》の怒りを思い知りなさい!!火の神フレイムリアの名の下に 汝……以下略!《燃え尽きなさい》!!」
その日、我が家の客室が全焼し、修理が終わるまでの二週間、仮住まいすることが決定した。
これで一章完結。次回投稿分からはしばらく間章です。