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アンノウン・ブレイブ  作者: 染井Ichica
4章 境界の王と赤き翼の守り人
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8

 僕の体はみるみるうちに変化していく。満ちた魔力で傷は修復され、生前の 《ユーティスフィア・ロゼ・アバロニア》 の姿に戻っていく。とはいえ多少成長し、着ている服が懐かしいそれに変わっただけだが。相手の魔法使いは唖然とした様子で豹変した僕を見ていた。

「化け物?穢れた?はっ、笑わせないでよね。あのシズカを穢せる存在なんてあるものか!シズカは穢れさえも受容する境界線、そんな僕のシズカを脅してその汚らわしい手中におさめようなんて……君はあの馬鹿王共となんら変わらない」

 そして憤怒を投げつける。

「このような愚行、万死に値するっ!」

 怒りのあまり噛み締めた奥歯が砕けた。口の中の鉄の味すら今では気分を高めてくれる。

 とりあえずシズカを返してもらおうか。

「境界の王よ 永遠なれ 何人にも侵されず 何人にも触れさせず 安らぐ先は我が腕 永久の自由と拘束を……《因果禊ぐ呪い》」

 僕の魔力が世界を侵食していく。きっとその光景を魔法を知る者が見ればおぞましいと思うのだろう。

 これがユーティスフィア・ロゼ・アバロニアが渇望して、死の間際に思いついた呪い。無欲な彼が唯一執着し、独占欲を曝け出した呪い。それは魔法がない世界において人間であることを辞めた証。だから僕はユーティスフィア・ロゼ・アバロニアに戻りたくなかった。

 また彼の気持ちなど考えもしないままシズカを独占したくなるから。これは綺麗な誓いでも優しい愛情でもない。

 ただの狂人の歪みに歪んで歯止めが利かなくなった欲望だ。

 呪いは魔法使いを取り囲む。他人の魔力が体内を荒れ狂う感触に魔法使いは絶叫した。だが、彼はこの呪いの効果を知れば更に絶望するだろう。

 まず障壁が砕け散った。あちらで戦っていたらしいミコトがこっちを見て驚く。おそらく何が起きたのか分かっていないのだろう。

〈ユーティスフィアさん、ありがとう。これで私は晴れて自由の身だ〉

「自由だと……?」

 魔法使いが耳を疑う。僕は呪いの余波を受けて気絶する一歩手前で倒れ行くシズカに駆け寄りながら残酷な真実を告げた。

「《因果禊ぐ呪い》は対象のあらゆる契約を破棄する呪いだ。つまりもう君に使い魔はいない」

 僕の存命中、籠の中の鳥だったシズカに自由を与えたかった、そして強制ではなく自分の意志で彼が僕と共にあることを願ったからこその呪い。彼が自分の意志で僕の隣にあることなどその性格を考えればありえない。そんな破綻しきった強欲の行く末はどこまでも無責任で無差別だ。

「シズシズ、君は休んでていい。後は僕の仕事だ」

 僕らの方に加勢した鎮目の領域は消え、いつしか僕らは会場に戻っていた。僕は完全に気絶したシズカを横たえさせ、魔法使いの前に立つ。被った赤い羽根が付いた帽子を脱ぎ棄てて僕はスイッチを切り替える。

「さぁ、ここからはお仕置きの時間だ」



 霞が消えたその場所には何故か成長し赤い装束を纏ったユーヤと気絶したシズカがいた。ガスマスクの使い魔と服装が一致していることを考えるとどうやら相手に二重契約させられていたようだ。

「ユティスさん……!」

 傍らのナナミが感極まったように声をもらす。それもそうだろう。ユティスと呼ばれる青年は彼女の仲間なのだから。

「あれは《赤羽根装備》。国王直属の私兵《羽根》の中のモンスターを専門にする奴らの装備だ。見た目こそ貴族服みたいだが暗器隠し放題のヤバい服だし防御力機能性もありえないレベルで高い。後の世ではユーティスフィアの代名詞扱いされてるが」

 剣士はすらすらと説明をしてくれる。その間にもユーヤが倒れたシズカに何か言って休ませた後、おもむろに帽子を脱いで投げ捨てる。そして武器を抜く事さえせず戦闘態勢をとった。まさか剣を捨て素手で挑むつもりなのか。

「ユティスさんは他のメンバーと違い、あらゆる武器の使い方に長けています。どんなモンスターにも対処できるように。でも、ユティスさんの十八番はモンスター退治には適さない、対人前提の体術なんです」

 ユーヤの姿が消えた。ただ単純に私の動体視力で追いかけられないだけだろうが。

 次の瞬間。

「はい、そこまで。殺害は禁止だってルールだろ?」

 骨と硬い物がぶつかる音。ユティスの両手を一振りの長剣の鞘で受け止めていたのは先程まで私の傍らにいた剣士だった。

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