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互いに重力のある武器のせいか一撃一撃が重い。力で劣る、とはいえ相手が怪力で有名すぎるだけだが、体重もたいしてないシズカは自然と受け身になりつつあった。
「お前……なかなかやるな。だが本来の得物ではないだろう?」
ベオウルフは鋭くシズカを睨む。その間もベオウルフの攻撃は続く。
「うん、まぁ……」
あまりの衝撃に手が麻痺してきた。シズカは押し切られまいと歯を食いしばる。
強い。搦め手を使わない限り勝てそうにもない。腐っても英雄か。シズカはそもそも彼は前線で戦うような柄では無いのだ。ミコトと組んでいた時にも大体狙撃手を担当していた。
「ならばそちらでかかってこい!戦士たる者の礼儀としてな」
期待する表情でベオウルフはフルンティングを突き出す。シズカは大剣でなんとか軌道を逸らした。いくら彼がある意味不死身とはいえこれはなかなかに間一髪だ。
戦闘狂で話を聞かず自分の欲求を押し通す。こういう人物を見ていると虫唾が走る。それこそ周りを離れない羽虫のようにぷちっと潰したくなる。シズカはそんな身勝手な性格だった。
「……後で文句言うなよ?」
仕方なさそうに後ろに下がったシズカが大剣を手離した。と同時にベオウルフの背後から無数の衝撃が襲ってくる。
「ぐはぁ!?」
あまりの威力によって体が前に吹っ飛び、彼の前にいたシズカがさり気なく身をかわしたため、ベオウルフは顔面から豪快に壁に叩きつけられる。シズカはフルンティングを握る手を間髪入れずに蹴り飛ばし、武器を遠くにやってから、再び拾い上げた自らの大剣を後ろからベオウルフの首に突きつけた。
ベオウルフは認めたくないようにシズカと大剣を見比べていたが、やがて諦めたように目を閉じる。
「……降参だ。私には再生能力は無い。首を撥ねられれば死ぬだけだ」
「君の場合騎士道に則って、これ以上無駄な抵抗はしないだろうし。これ以上の追撃は止めておくよ」
まぁそもそもこの試合では死人が出ないようにルールが敷かれており、この法則自体を撃破するのは困難なのだが。シズカは審判がベオウルフの降参を認めたのを確かめてから大剣をしまい、元の民族衣装姿に戻る。これで協力者同士の戦いは終わりである。つまりミコトが負けない限り、コノハナ陣営は最低でも引き分け、つまり安泰である。優先度とかは上げられていなかったのでこれは恐らく覆らない。擦りむき赤くなった顔面のままベオウルフは立ち上がりながらミコトとラドンの方に目を向けた。
「ところで今のは一体どういう攻撃なのだ?」
「厳密に言うと違うんだけど、スリングショットみたいなもん。僕が事前に撃ったのを無かったことにしておいた弾を一斉に撃ったことにした…うん、その顔見る限り理解出来てないね、構わないよ」
少しだけ伸びをしてシズカは懐から今まで使う素振りすら見せなかった白い棒、正確にはタクトらしきものを取り出す。まだ奥の手を隠していたのかとベオウルフが眉を顰めたものの、シズカは全くといっても過言でないレベルで気にしない。
見たところ、ミコトは刀の真名を解放したおかげで先程よりは相手にダメージを与えられているのだが、それでも相手の再生速度にはまだ追いついていない。優位に見えているがそれも時間の問題だ。
そろそろ頃合いか。シズカは厳かに手にしたタクトを構える。そして虚言を紡いだ。
「さて……《マツリヤ・ミコトは一時的に真名を取り戻し、真名解放が可能になる》!頑張って!」