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これからよろしくお願いいたします!
使い魔。それは魔術師達の片腕に等しい存在であり、多種多様かつ強大な存在。この世界エク・ナ・ローヴ、又は膨大な数の異世界から呼び寄せた神話の存在を《神霊》、伝説の存在を《英霊》、そしてその他の存在を《無名》と呼び、さらにそれぞれの種族で分類する。
「初めまして、俺のマスター」
私が呼び出した使い魔は《無名》の龍種。ただ、龍の眷属であるはずの彼は私と同じ人間の姿をしていた。
『アンノウン・ブレイブ 紅の魔女と銀月の龍』
春第一月の十四日。それがこの世界エク・ナ・ローヴでまだ使い魔のいない魔法使い魔女が使い魔召喚の儀式をすることを許された期間の最終日。形だけの使い魔で良かった私は自宅にてその儀式を執り行った。そしてその結果、彼が魔法陣の中に現れた。
秋夜の月明かりを思わせる白銀の髪にどこか憂いを帯びた淡い赤の切れ長の瞳。モンスターから生成したと一目で分かる《和》といわれる国の要素が強いデザインの防具に、武骨ながらも美しい刀の担い手。人好きのする精悍な顔立ちの彼は私を見ながら怪訝そうに首を傾げた。
「どうした、マスター?早く契約を結ばないなら元の場所に帰らせてもらうが」
召喚時に自動的に形成される使い魔の説明書、《グリモア》によると彼はモンスター専門のハンターだ。グリモアに表記されるのは、原則記述されたことがある経歴や伝承だけだから詳しいことは分からないが、少なくとも記述されたことがあるぐらいの戦闘力はあるらしい。これもお飾りでいいやとか考えていた私にとって誤算である。それ以前にまず召喚相手をある程度限定出来るようにする媒介を用いなかったので、人間の姿をした使い魔が召喚されたこと自体が予想外だった。
ただ、それ以上に私を困惑させたのは。
「なんで男前……!」
「はぁ?」
思わず私はうなだれていた。そう、無駄にかっこいい。若武者然とした外見もさることながら、滲み出ている内面というか生き様が最高に男前である。きっと背中で語るタイプの男とは彼のような存在なのだろう。年をとっても渋いなどと高評価になること確実である。
「と、とにかく契約するわ!」
呼ばれてしまったからにはこれも運命なのだろう。私が正式に目の前のハンターを自分の使い魔にするための呪文を唱えようとした時だった。木製のドアが外から破壊され、その隙間から何かが転がりこんでくる。
「っ!」
険しい表情を浮かべた彼は躊躇う素振りもなく、素早く刀を抜く。その刀身はどこか物悲しげな淡い光を帯びていた。
「何用だ!?」
そこにいたのは無数の頭を持つ蛇に似た怪物と自身の正体を隠すようにフードを深く被ったいかにも魔法使いというより不審者らしい格好の人物だった。
「蹂躙せよ、ラドン」
敵は彼の問いに答えることなく、機械的に怪物に指示を出した。敵の使い魔らしい怪物は私達を威嚇しながらゆっくりと近づいてくる。魔方陣の中の彼は一歩踏み出そうとし、そしてあることに気付いたがゆえ焦ったように私を振り返った。
「マスター、早く契約を!」
そう、彼の足が止まったのはそれが原因である。契約が完結するまで使い魔として呼び出された彼は魔法陣の外に出られない。契約を結ぶか、もしくは彼が契約を拒否し元の世界に戻るしかないのである。ただ正式な契約を結ぶにはあまりに時間が無い。家に襲撃をかけてくる時点でどう見ても契約が終わるのを悠長に待っていてくれる相手ではない。ならば瞬時に結べる仮契約か。仮契約には色々デメリットがあるのだが、今はそうするしかないだろう。
「わ、分かったわ!《契約神の名の下に 汝、狭間より来たりし―――」
ただ、当然相手がそれを許すはずもなかった。不審者は巨大なルビーの填まった杖を掲げ、呪文を唱える。
「《古の赤魔王グドゥラヒアの名の下に 汝が名、貰い受けん》」