表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/22

第22話 迷宮都市

 迷宮都市。

 そう呼ばれる都は世界に数多くある。

 その意味するところは迷宮を周囲に沢山抱えているとか、迷宮の周囲を囲むように街が出来ていったとか、そういう来歴に基づくものが多く、ノアが今回来たのもそう言った迷宮都市のひとつということになる。

 エルト王国内にも複数ある迷宮都市であるが、その中でも比較的有名なところにアースラというところがある。

 ここに存在する迷宮はただ一つ、アースラ生命迷宮と呼ばれるものだけだが、規模が桁違いで、どこまで潜っても終わりが見えない広大な環境が多くの冒険者たちをひきつけてやまないのだった。

 とれるアイテムの類も多岐にわたっていて、遺産アーティファクトが見つかる可能性もかなり高いと言われている。

 と言っても、遺産アーティファクト発見されることなどそれでも奇跡と言っていいほどの低さなのだが。

 それなのにそういった品を複数保有するノアがおかしいのだ。


「……二人分の探索者登録を頼めるか?」


 そんなアースラにある迷宮探索者組合(ギルド)と呼ばれる団体の建物の中、ノアはフードを深くかぶって受付に座っている女性にそう、話しかけた。

 迷宮都市の迷宮は、基本的に探索者と呼ばれる特別な職業についている人間にしか認められていない。

 これは、迷宮に一般人が潜って死んでしまうことを避けるための措置であると同時に、迷宮から得られる利益を出来る限り迷宮都市の懐に入れたいという思惑の二つが作り上げた制度であった。

 冒険者と違うのは、あくまでも迷宮探索、ということだけを目的とした団体だということだろう。

 冒険者組合(ギルド)は何でも屋的な色彩が強く、傭兵から薬草採取まで、なんでもござれの職業である。

 しかし、現実には、冒険者は探索者も兼任していることが普通であるため、あくまでも団体の所掌の違いで、所属している人間の性質には大して変化するところがない。

 だから……。


「おい、お前。そこのガキ」


 そんな風に絡んでくるおかしな輩というのは、冒険者組合(ギルド)と同じようにいるのだ。

 ノアはそんな声を無視して、受付と話し続ける。


「二人分ですか?」


「ああ、俺はもう登録してるんだが、あっちにいる二人はまだなんだ。とりあえず用紙をくれ」

 

 探索者組合(ギルド)の一画で、手持無沙汰に立っている三人を指さす。

 一人はマリー、一人はメリザンド、そしてマリーをよじ登ったり下りたりしているのがナナであった。

 ノアとメリザンドはすでに何度も迷宮に潜っている中であり、二人そろって探索者登録は済ませてある。

 そこそこの実力を持つ探索者として認められた証、銀色の探索者証を持っており、それを後ろから見えないように示した。

 すると受付の態度が変わり、


「……なるほど。でしたら、こちらをどうぞ」


 そう言って登録用紙を二枚、ノアに引き渡してくる。

 かなり荒く、質の悪い紙であるが、これは魔道具を利用して作られたもので、これでも結構貴重だ。

 探索者登録には銀貨二枚が必要とされるが、一枚は登録証自体、もう一枚はこの紙の分の経費だと言われる。

 

「ああ、すまない。じゃあ、説明してくる」


 そう言って踵を返し、マリーたちのところへと向かったノアであったが、


「おい、コラ!」


 がっ、と肩を掴まれて無理やり顔の向く方向を変えさせられた。

 ノアの目の前には熊のような体をした髭面の大男が立っており、かなり飲んでいるのか酒臭い息がかかる。

 

「……なんだよ?」


 こういうことをしてくる輩に、丁寧に返答する必要はない。

 別に騒ぎを起こしたいわけではないが、冒険者にしろ、探索者にしろ、こういった一種の洗礼を避けるのは後々面倒くさいことになることを知っているため、ノアは挑発的な声で返答をした。

 すると、男はイラついた表情をしながら、


「なんだよ、だと? お前、先輩に対する態度がなってねぇなぁ……ちょっと、殴らせろよ」


 と、理不尽な要求をしてくる。

 言いがかりにもほどがあるが、ちょうどいい機会だ、とノアは思った。

 別に長い期間この街で活動するつもりもないのだが、必要な数と質の魔石が揃うまでは数日いるつもりだ。

 その期間にこんな絡まれ方をするのは面倒なので、それを避けるために見せるべきものは見せようと。

 だからノアは言う。


「一方的に殴られるのは趣味じゃないんだ。あんたが先輩ならその胸を貸してくれ。お互いに向かい合って、一撃ブチ込めた方が勝ちってのはどうだ?」


 この提案は蹴られる可能性もあったが、意外にも熊男のお気に召したらしい。

 にやりと笑って、


「お前、意外と分かってんじゃねぇか。いいだろう。来やがれ……おい、誰か! 審判やれ」


 そう叫ぶと、周囲を囲むように探索者たちが円形を作り、さらにその中から一人、面白そうな顔をした男が顔を出して、ノアと熊男の前に立った。

 つまり、これは良くあることなのだ、ということだ。

 ノアも以前、似たようなことを別のところでされている。

 そのときもこんな感じだったな、と思いながら、構える。


「よし! ルールはシンプル。お互いに殴り合って、一撃イイのを決めた奴が勝ちだ! 準備はいいか!?」


 審判役の男が単純な説明をし、その直後、周囲の探索者が帽子に入れた金を回しているのが見えた。

 どうやら、賭けているようで、二つ回ってる帽子のうち、ノアのものの方が軽い。

 ただし、マリーとメリザンドもちゃっかり混じって、しかもノアの帽子の方に金を入れているのを見つけ、呆れる。

 あいつら……と思うノアであったが、まぁ、確実にどちらが勝つのか分かっている賭けだ。

 やらない手はないだろう。

 あとで巻き上げてやろうと思いながら、ノアは審判役の男の声を聴く。


「……では……はじめ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「……では……はじめ!」で終わってしまう小説は、希なのではないでしょうか? ファンとしてのお願い:アニメ化などで忙しいとは思いますが、(素晴らしい)未完作品を、多数お抱えですので、古い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ